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落ちこぼれ防止法って?

年が明けたある日のこと。
現地校の息子の担任ドーブリッジ先生からこんなメモが届いた。
「息子さんは、テストを受ける時、辞書を使って良いことになりました。ご安心を」

テスト???
なんじゃ、そりゃ。

調べてみて、なんとなく分かってきた。
どうやら今年3月、年に一度の達成度テストが州内の公立校で一斉に行われるらしい。

米国が、No Child Left Behind Act ( NCLB法、いわば「落ちこぼれ防止法」か) を制定したのが2002年。それ以来、各州がそれぞれ達成度テストを実施し、その結果をきちんと連邦政府に報告することが義務づけられた。
一斉テストだの、達成度テストなんてものは、日本でも各都道府県で手を替え品を替え、繰り返されてきた経緯があるので、テスト自体の存在には驚かない。
びっくりするのはむしろ、テスト結果の扱われ方だ。

「テスト結果を公表したら学校や地域の序列化につながる」。
日本で大勢を占めるのは、こんな意見だ。
ところが米国では、州やカウンティーごとの成績どころか、学校の学年ごとの達成度まで、学校名を明示して公表される。
テスト結果で学区内の不動産の値段が見事に上下するというんだから、シビアだ。

各州のテスト結果は万人に公表されている。
例えばうちの息子が通う学校の達成度を知りたいとする。
メリーランド州のホームページからこんなサイトに行き着いて、学校別のサイトから、息子の学校名を選べば、ほら、この通り。右端の項目にチェックを入れれば、生徒の人種ごとの達成度データまで出てくるんだから驚きだ。

ちなみに息子の学校は、白人が約半数、あとはアジア人と黒人とヒスパニックが十数パーセントずつ仲良く分け合っている。学校で朝食を食べる生徒 (朝食を食べられない家庭環境の子どもには公立学校が朝食を提供する制度がある) も十数パーセント程度いる。
達成度テストの結果も特に良いわけではなく、「まあ、悪くはないよねー」 という感じ。学校も先生も、達成度テストの結果を上げるためにしゃかりきになっている、という雰囲気はない。

これが、隣の学区にある小学校や、そのまた隣にある小学校のテスト結果をみると、かなり変わる。
この学区は、私たちの暮らす地域より、大邸宅の多い地域を含んでおり、親からの学校への寄付金もものすごいらしい。校内に、黒人やヒスパニックが数パーセント程度しかいない。
達成度テストの結果を見てみると、「おおお、こりゃすごいや」。
ほとんど100%じゃん。
息子の学校からせいぜい数百メートルしか離れてない学校で、達成度が5~10%程度も高いのだ。

あまりに身も蓋もない話なので、書くのもはばかられるが、達成度テストの結果は、生徒の人種構成(これも全部ネットで公表されている……)と、いやになるほど見事に因果関係がある。また、学校で朝食を食べる生徒の割合とも見事に因果関係がある。

達成度テストの結果が良い学区だから、不動産の値段も高騰し、金持ちしか住めなくなる。集まってきた金持ちが、学校にじゃんじゃか寄付をするから、学校の設備や環境はどんどん良くなり、ますます達成度テストの結果が上がる。
まるで ニワトリと卵 みたいだ。
(もちろん現実はそう単純ではないのだろうけれど)。

ちなみに、この法律が施行された当時、「テストのための教育になってしまうのではないか」「各州が達成度を上げるために目標を低く設定することで、結果的に教育レベルは落ちるのではないか」など数々の批判があったらしい。それでも、この法律を最後まで支持した理念がこれ。
「落ちこぼれを一人も出さないようにしよう。人種差別や貧困ゆえの教育格差に光を当て、それを是正していこう」

例えば、達成度テストで目標を何年にもわたって達成できなかった学校があったとする。
どうなるか。
同法によると、他校への転校が認められ、その時に生じる交通費なども負担してもらえる。貧困家庭には、家庭教師を頼む費用も保証されるらしい。
そういえばブッシュ大統領も、この法律のお陰で、いわゆる教育格差が是正された、なんて宣伝していたっけ。

だけど。
こちらに暮らして3カ月。
何年か続けて目標が達成できなかった学校の廃校を報じるニュースを、地元にで何度か読んだ。
つまり、「お取りつぶし」 だ。

また、お隣のワシントンDCでは23の公立校の統廃合問題が今、大きな問題になっている。これらはそもそも入学者が極度に減った小規模校の統廃合で、経費削減と教育の効率化を狙った計画なんだとは思う。
小規模校の統廃合自体は、日本でもよくある話。
事実、私が暮らしていた文京区でも渡米前、小中学校の統廃合計画が発表されたこともあった。(その後どうなったのか詳しく知らないが、地元の反発なども強く、当初の計画通り進む見通しはほとんどないらしい)。

それはそうとして、ワシントンDCの統廃合問題。
日本のそれよりあからさまだなあ、と思わずにいられない。
例えば廃校計画に上る23校についてまとめたワシントンポスト紙によると、次のような学校が廃校対象になっているのが分かる。

・児童数307人の小学校。3分の2の生徒が低所得層で62%がヒスパニック。リーディングの標準テストの達成率は41%、算数で40%。廃校対象になった理由は「入学者数減と校舎の老朽化」。廃校後、生徒が通うことになるのは隣の学区の生徒数162人の学校で、そこの生徒の89%は黒人。

・99%の生徒が黒人で、85%の生徒が貧困層。水漏れによる被害で、2つのクラスルームの修理が必要な状態。02年から06年にかけて、入学者数は35%も減少。標準テストの達成率はリーディングが35%、算数が21%。

・428人の生徒を受け入れられる小学校だが、生徒数は現在169人。02~06年の間に、入学者数は49%減少。

・765人の生徒を受け入れられる中学校だが、生徒数は現在154人。何年か続けて標準テストの目標を達せずにいる。

・547人の生徒を受け入れられる小学校だが、生徒数は現在228人。02~06年にかけて、入学者数は半減。標準テストの達成度はリーディングが29%、算数が27%。

……書き並べていると切りがないけれど、標準テストの達成度が50%を切っていて、児童数がどんどん減っている学校。校舎の傷みが激しい学校(つまり、貧困層の家庭が多く、寄付金が集まらないため、そもそも設備を良くできない学校、ということ)。人種比率を調べれば、やはりそこに格差が見えてくる。

だから、NCLB法が本当に教育レベルの「底」上げになっているのか、私には全然分からないのだ。
(今後、色々なデータにあたって調べてみようと思う)。

このように議論の絶えない法律ではあるのだけれど。
米国がすごいなあと思うのは、そんな議論までも、ちゃんと子どもにフィードバックし、考えさせるということ。
例えば、先日は息子が、子ども向けのこんな雑誌記事のコピーを持ち帰った。

No Child Left Behind 法施行後、多くの学校が達成度テスト (テスト科目はリーディングと算数、科学) の結果を上げるために、テスト科目と関係ない体育や音楽など授業をどんどん削減している、という話。
一方で、テストに十分に準備できるよう、授業終了時間を1時間繰り下げ、全体の授業時間を増やす学校も増えているという。
記事中には、この背景に、No Child Left Behind 法があることが指摘されていた。

3年生の息子のクラスでは、この記事をみなで読んだあと、この 「授業時間数を増やす」 という試みについて、ワークシートに各人が賛否とその理由について記入し、さらに話し合いもしたらしい。
もちろん、英語が分からない息子は蚊帳の外だったみたいだけれど。

自分たちが受けている教育の制度改革について、その制度の内側にある学校で、学んだり、考えたり、意見を交わす機会を与えられているこちらの小学生たち。
日本ではどうだろう?
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プロフィール

おぐにあやこ

Author:おぐにあやこ
名前■おぐにあやこ
生年■1966年 ひのえうま
仕事■07年秋まで新聞記者。仕事を辞めて渡米。11年、新聞記者に出戻り。
趣味■読書、歌、旅
目標■ちょっと背伸びして、
 疑問符を感嘆符に変える事
苦手■勧善懲悪


著書■
▼「薬(ドラッグ)がやめられない 子どもの薬物依存と家族」(青木書店)
「ベイビーパッカーでいこう 赤ん坊とザックかついでスペインの旅」(日本評論社)
「魂の声 リストカットの少女たち」(講談社)
「いいじゃない いいんだよ 大人になりたくない君へ」(共著、講談社)
「アメリカなう。」(小学館)
「アメリカの少年野球 こんなに日本と違ってた」(径書房、ミズノスポーツライター賞)
「?が!に変わるとき  新聞記者、ワクワクする」(汐文社、読書感想画中央コンクール課題図書、高校生の部)

訳書■
「自傷からの回復 隠された傷と向き合うとき」(みすず書房)

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