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記事272◆中村吉右衛門さん、「のり弁当」を語る

■掲載年月日 2007年04月17日
■食べたい:しあわせ食堂
■中村吉右衛門さん「のり弁当」

◇重ねて、だんだん--手間かけてくれた「ばあやの味」

 懐かしい食べ物といえばやはり「のりだんだん」です。ご飯とかつお節と海苔(のり)を段々重ねにしたお弁当のことを、我が家では「のりだんだん」と呼んでおりました。
 作ってくれた人は、村杉たけ、と申します。私の実母の嫁入りの際に、一緒に来た人で、私を育て上げてくれました。ですから私にとっては、いわゆる「ばあや」です。三度の食事も作ってくれましたから、ばあやの味が「おふくろの味」というわけです。

 小学校に上がると、ばあやはよく「のりだんだん」を作ってくれました。我が家は海苔というものが代々好きでございまして。初代吉右衛門の名言、いえ迷言でしょうか、戦争中の食べ物のない時期に「僕はぜいたくを言わないよ。海苔と生卵と白いご飯があればそれでいいんだよ」と言った、という話もございます。どれも当時、一番手に入りにくいものでしたのに。それほど、養父は海苔が好きだったんでしょう。
 その影響かDNAか分かりませんが、私も海苔が大好きで、幼いころからしょっちゅう海苔海苔と言っておりました。しかし戦後の食糧難の時代ですから、海苔はなかなか手に入りません。ばあやが自分の田舎の千葉の親類から買い求めてくれていたようです。

 今のように黒々とした美しい海苔ではなく、もっと紫色っぽい海苔。それを片面だけさっと炭火であぶります。ガスはまだございませんでしたから。軽くあぶると色が少し黒くなり、パリパリのおいしい海苔になる。両面をあぶっちゃいけません。パリパリになりすぎてしまいますから。

 お弁当箱にご飯を敷き詰め、その上におかかを乗せ、さらにその上に海苔を敷く。もう一段重ねることもあります。だから「のりだんだん」。これがね、熱いうちも大変おいしいんですが、冷めてもおいしいんですよ。それをおはしで区切って食べる。これがあれば、おかずも、梅干しもいらない。

 学校だけでなく、夜の舞台がある時も、ばあやのお弁当が多かったですね。最後に食べたのは高校時代でしょうか。母親代わりだったばあやも65年に亡くなりました。私が二代目吉右衛門を襲名したのは翌年でして、ばあやにその姿を見てもらえなかったのだけが心残りです。
 舞台の合間にいろいろなお弁当を頂戴(ちょうだい)しますけど、どれも素晴らしいお味ながら、やはり三つ子の魂でしょうか。昔の味というのは、ふとよみがえり、食べたいなあ、と思うものです。味だけでなく、いろいろな思い出も同じですね。

 今思えば簡単なようで、実は手間のかかったお弁当でした。ご飯は火をおこして炊いていたし、かつお節も家で削っておりました。手間ひまかけた手作りのおいしさは、インスタントでは味わえません。歌舞伎も同じ。手間ひまかけた舞台を、ぜひ劇場で味わっていただければ幸いです。

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■ごちそうさま(取材を終えて)
 今どきの子どもは、お煮しめ中心の「茶色いお弁当」を嫌がるらしい。彩り重視で、アニメの主人公を食材で描く「キャラ弁(キャラクター弁当の略)」も大流行。一方、吉右衛門さんの「のりだんだん」は一面真っ黒ながら、聞くからにおいしそう。弁当は見かけより味。今度息子に作ってやろう。

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 ■人物略歴
 ◇なかむら・きちえもん
 歌舞伎役者。1944年、東京生まれ。母方の祖父、初代吉右衛門の養子となり、66年10月、二代目を襲名。屋号は播磨屋。5月1~25日、新橋演舞場で「鬼平犯科帳」の長谷川平蔵役のほか、「隅田川続俤」の法界坊に10年ぶりに挑む。
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プロフィール

おぐにあやこ

Author:おぐにあやこ
名前■おぐにあやこ
生年■1966年 ひのえうま
仕事■07年秋まで新聞記者。仕事を辞めて渡米。11年、新聞記者に出戻り。
趣味■読書、歌、旅
目標■ちょっと背伸びして、
 疑問符を感嘆符に変える事
苦手■勧善懲悪


著書■
▼「薬(ドラッグ)がやめられない 子どもの薬物依存と家族」(青木書店)
「ベイビーパッカーでいこう 赤ん坊とザックかついでスペインの旅」(日本評論社)
「魂の声 リストカットの少女たち」(講談社)
「いいじゃない いいんだよ 大人になりたくない君へ」(共著、講談社)
「アメリカなう。」(小学館)
「アメリカの少年野球 こんなに日本と違ってた」(径書房、ミズノスポーツライター賞)
「?が!に変わるとき  新聞記者、ワクワクする」(汐文社、読書感想画中央コンクール課題図書、高校生の部)

訳書■
「自傷からの回復 隠された傷と向き合うとき」(みすず書房)

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