スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

ホットドッグとフライドポテト

(9月27日)

渡米2日目。
ワシントンDCにある動物園に行く。
ここの目玉は、パンダ。
上野動物園と同じですな。
ところがところが。
噂によれば、「さすが米国。日本じゃあダラダラしてることの多いパンダが、こっちではむちゃくちゃ活動的なのよー」だそうなので、朝からまずはパンダ舎へ。
いやはや確かに。
むちゃくちゃ派手に動くパンダなのだった。
こういうのって、お国柄が出るんだろうか……、うーむ。

ところで。
昼ご飯を食べようとしたところで、息子に言ってみた。
「ホットドックくらい自分で注文してみなよ」

息子は半年前から、ベネッセのBEGOという英語教材にお世話になっている。内弁慶で引っ込み思案で英語塾みたいに人間相手に英語を習うのを極端に嫌ったヤツなのだが、家庭でパソコン相手にゲーム感覚でできるところが良かったらしい。
BEGOソフトを相手に、

Hot dog, please.

と息子が何度か言ってるのは、すでに聞いたことがあった。
だったら、使ってみなよ。
言葉は、誰かと会話するための道具なんだから……。
そんな思いが私の中にはずっとあったのだった。

が、案の定、息子はさっと表情を硬くし、「絶対に嫌。それだったら食べない」。
息子は、言えないんじゃない、怖いのだ。

渡米後の息子は、私が誰かに英語で話しかけるたび、さっと私の背中に隠れる。
誰かに英語で話しかけられたら、それが例え、ハローの一言だけだったとしても、何も答えず私の顔を見る。
通じないのではないか、という不安。
何か聞かれても分からない、という不安。
みじめな自分を誰かに見られる、という不安。

ははは、悪いけどさ。
母ちゃんはもう何年間も、そんな不安とお付き合いしてきたのよ。
バカみたいに費やしたその時間の中で、導き出した結論は一つ。

言葉は誰かとつながるためのものだから。
つながりたいと思う気持ちがなければ、言葉は内側から生まれてこない。
ほしいもの、好きなこと、逃したくないもの、失いたくないもの、そんな切実な必要性に駆られてようやく、ごちゃまぜの不安感やらコンプレックスを乗り越えていけるんだ、ってこと。

だから私は、あっさり息子に言いはなってしまった。
「ホットドッグは、あんたの担当。自分で言えるようになるまで、ホットドッグを食べるのはあきらめな。ハンバーガーでも何でも別のものを注文するなら私がやってあげる。でもホットドッグは、母ちゃんは絶対に注文しないから」

……実は息子、食事や味に関してものすごく保守的だ。
慣れ親しんだ味でなければ、ほとんど食べない。
かつてシアトルで寿司を食べたがった時、フードコートの安いキュウリ巻きを食べさせたら、「きゅうりが固い。醤油の味が違う。海苔の香りがしない」と言い放ち、一切口をつけなかったヤツだ。
前夜も、せっかく夫の職場の方がイタリアンに連れて行ってくださったというのに、息子は食べるには食べたものの、「やっぱりピザは、○○(東京で行きつけの店の名前)のほうがおいしいね」とのたまい、私に冷や汗をかかせてくれたばかりである。

今朝は大まじめに、「あんたの舌がどんな味に慣れているかということだけで、ほかの国の料理の味の判断をしないほうがいいよ。知ってる味と違うならば、その違いを楽しめるようにならないと、食べることで幸せにはなれないよ。せっかくアメリカに来たんだから、アメリカでおいしい物を探そう。一つひとつ、おいしいと思えるものを増やしていきなさい」と説教したばかり。

ここまで味覚超保守派の息子が、昨年夏のシアトル旅行で唯一食べたのが、球場のホットドッグと、マクドナルドのフライドポテト(ちなみにハンバーガーには一切手をつけなかった……)、それからショー付きのレストランで出た美味創作イタリアンだった。
特に、ホットドッグは息子の大好物ときている。
このホットドッグほしさに、自分の中に高く高く築いちゃった壁を一つ、自力で乗り越えてもらおう、と画策したのだった。

が、息子は私に似て頑固なヤツなので、そう簡単には落ちない。
「だったら、ホットドッグなんて食べなくていい!」

あんまり頑固な息子に腹を立て、頑固では絶対に負けないはずの母ちゃんは、ついつい説教してしまった。
「あんたが英語をしゃべるのが怖いのは良くわかる。通じなかったらどうしよう、とか、へたな英語を聞かれるのが恥ずかしいとか、母ちゃんだって父ちゃんだって、今だってそういう不安はいっぱいあるんだよ」
「でもあんたは1カ月後、学校に行かなきゃいけない。母ちゃんはもう助けてやれない。あんたは自分でほしいもの、好きなもの、嫌いなもの、してほしくないこと、全部、自分で表現しなきゃなんない。母ちゃんがもしあんたなら、学校に行くまでの1カ月間に、恥にも不安にも全部サヨナラできるよう、少しずつ準備するだろうな」
「母ちゃんもそうだったから正直に言うけど、最初の一言を発するまでの時間が長くなれば長くなるほど、どんどんと英語をしゃべる勇気がなくなるんだよ。早いうちに乗り越えちゃいな」
「言葉って不思議なもので、伝えたい、言いたい、という気持ちがたくさんあれば半年でも言いたいことを言えるようになっていく。その気持ちがなければ、アメリカに1年いたって2年いたって言葉は増えていかない。逆に、聞くのも同じ。この人たちの話なんか分からなくてもいいや、と思ってしまったら、お終いだ。この人たちの気持ちが、言葉が知りたい、っていうあんた自身の気持ちが一番大事なんだよ」

それから半時間、ものすごく険悪なムードのまま、ふたりで動物園デート。
平日の昼間だから、園内にいるのは基本的に幼児連れ。
それでもいくつかの小学校や中学校から、集団で見に来ているグループがいた。
息子は、同じ年格好の子ども集団が来ると、どんなに見たい動物であっても、その園舎からすっと離れてしまう。
怖いんだろうなあ、きっと。
学校に行ったら、こんな中に混じるんだ、と想像しちゃうんだろうなあ。
どんな子でも、いきなり米国の現地校に入った時には多かれ少なかれ適応できずに苦労するとは言うけれど、息子の場合は、なんというか、ああいう性格なものだから、それ以前の段階で、いっぱい不安感を抱え込んでしまっているのだった。

結局、息子はあざらしの園舎の前で座り込んだ。
お腹がすいて、お腹がすいて、どうしようもないのだ。
「もうだめだー」
「じゃあ、帰ろうか」
「どうして帰るんだよっ!」
「だって疲れたんでしょ」
「違う。お腹がすいたんだ」
「じゃあ、何か食べる? あ、でも母ちゃんは、ホットドッグは私は注文しないからね」
「………」

母ちゃんの兵糧責めはまだまだ続く。
息子が対案を出してきた。

「あのさ。Hot dog, please じゃなくて、Hot dog、って一言だけでもいいかなあ」

いいんじゃない?
どっちにしても、あんたがホットドッグを食べたいって気持ちは伝わると思うよ、と私が返すと、あっさり息子は立ち上がった。
「おれが Hot dog を頼むんだから、母ちゃんがフライドポテトくらい頼んでよね!」
了解、了解。
ざまーみろ。
やっぱり人間、空腹感には勝てないのだ。

さて、さっきと違う窓口でメニューを見たら、Hot dog 単品ではなく、Hot dog combo にしたら、そこに french fries (フライドポテト)も付いてるじゃないか。息子に説明し、Hot dog combo を注文させてみることにした。
息子はもう一度ひるみ、「Hot dog combo」 と何度かこっそり練習し、それから大きな声でようやく言った。

Hot dog combo, please!

これが、息子の米国での初めての英語。
外国の人を前に何かを伝えようと口にした最初の言葉が、Hotdog combo なのだった。

以下、親子の会話。

息子 「あーあ、フライドポテト、もう一つ食べたいなあ」
私  「自分で注文したら金くらい出してやるよ」
息子 「母ちゃんの嘘つき! 自分で注文するのはホットドッグだけでいいって言ったじゃないかっ!」
私  「でも、フライドポテトのおかわりは高くつくのよ (これはウソ)」

しばし悩んでいた息子だったが、french fries を何度か練習した後、今度は、

french fries, please!

子音のpとlが並ぶのが苦手なのか、あんなに嫌った「please」の一言だったのに、結局はついつい付けてしまうのが息子の生真面目さなんだろうなあ。
私なんか未だに、めちゃくちゃな語順の英語で格闘してるっていうのにさ。

5分後、息子は安堵しきった顔で、しみじみと2袋目のフライドポテトを食べながら、幸せそうにこう言った。

「おいしいなあ。自分で注文したから、よけいにおいしいよ」。

この言葉に、今度は母ちゃんが、へなへなへなと体中の力が抜けてしまう気がした。
そうなんだよ。
言葉は、通じるとうれしい。
母ちゃんはあんたに、それを伝えたかったんだ。

さて。
これから1カ月。
息子はどんな風に、英語への不安を克服していくのかな?
……という以前に、そもそも私の英語力問題の解決への道のりも、なかなか厳しいものがあるんだけどねえ。


スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

じ~ん

アメリカでの新生活開始、おめでとうございます!
えりすけ@ムギ畑海外班(?)です。

>「おいしいなあ。自分で注文したから、よけいにおいしいよ」。
・・・じーん。涙が出てしまいました。
がんばれ~息子君!!!

読みながら、私もわくわくしています。
世界中の街のサービスアパートメントに1~2ヶ月ずつ滞在しながら旅行するのが老後ライフの夢なので、うらやましい~。
プロフィール

おぐにあやこ

Author:おぐにあやこ
名前■おぐにあやこ
生年■1966年 ひのえうま
仕事■07年秋まで新聞記者。仕事を辞めて渡米。11年、新聞記者に出戻り。
趣味■読書、歌、旅
目標■ちょっと背伸びして、
 疑問符を感嘆符に変える事
苦手■勧善懲悪


著書■
▼「薬(ドラッグ)がやめられない 子どもの薬物依存と家族」(青木書店)
「ベイビーパッカーでいこう 赤ん坊とザックかついでスペインの旅」(日本評論社)
「魂の声 リストカットの少女たち」(講談社)
「いいじゃない いいんだよ 大人になりたくない君へ」(共著、講談社)
「アメリカなう。」(小学館)
「アメリカの少年野球 こんなに日本と違ってた」(径書房、ミズノスポーツライター賞)
「?が!に変わるとき  新聞記者、ワクワクする」(汐文社、読書感想画中央コンクール課題図書、高校生の部)

訳書■
「自傷からの回復 隠された傷と向き合うとき」(みすず書房)

最近の記事
最近のコメント
最近のトラックバック
月別アーカイブ
カテゴリー
RSSリンクの表示
ブログ内検索
RSSフィード
リンク
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。