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記事254◆親子でイカを求めて函館へ、の記事

当時「旅したい」という連載がありまして、コンセプトは記事が誰かと2人で旅をしてルポを書く、というもの。2人、というのがネックで、どうやっても自分のプライバシーを切り売りするため、会社の経費で旅ができるおいしい企画のわりには、書き手が全然いなかった。
話が回ってきたので、二つ返事で引き受け、東京から一番遠くて、記事も書きやすそうな場所を選んだ、というわけ。

■掲載年月日 2006年11月18日
■旅したい
■生きた教育?食欲? 函館朝市へ

◇母ちゃん。すごい。ホントに透明なイカだっ!
◇イクラ、カニ、ウニ…海鮮好き、小2息子大喜び

 小学2年生の息子がテレビを指さし、こう言った。「このイカ、透明だ! 刺し身のイカは白いのに」。テレビ画面では透明なイカの群れが青い海を悠々と泳いでいる。その途端、息子に透明なイカを無性に見せたくなった。「よし、行こう」。
 かくして私は息子を連れて、函館へ――。

 朝7時15分。函館朝市は観光客で大にぎわい。「サケでかーい」「カニが動いてる!」。海鮮物好きの息子はすっかり興奮している。威勢の良い売り子たちの掛け声をくぐり抜け、まずは今回の旅の目的、「透明のイカ」を探す。
 たどりついたのは、函館朝市名物の活(い)きイカ釣り。釣り堀でイカを釣り上げ、その場で刺し身にしてもらう。泳ぐのは早朝に水揚げされたばかりの数十匹のヤリイカ。スルメイカより小ぶりだが透明感がある。息子が釣り堀をのぞき込み、叫ぶ。

「母ちゃん。すごい。ホントに透明だっ!」

 息子は緊張した顔で、釣り糸をそっと釣り堀にたらした。しかしヤリイカは元気いっぱい。すぐに逃げてしまう。息子は段々と弱気になってきて「これを釣ってもいい?」。指さす先にはプカプカと浮かぶ死にかけのイカ。おいおい。前日は「一番大きいのを釣るぞ!」と宣言していたんじゃなかった?

 それでも数十秒後、「ひっ」という息子の声の後に、ピューッとイカが水を吐き出す音が続き、元気なヤリイカを釣り上げた。
 めでたしめでたし。

     ◇

 息子はイカに目がない。刺し身との出合いは満1歳のころで、まだおっぱいを吸っていた。保育園時代、スルメや塩辛の深遠なる味にもはまり、今年の夏休みはイカを自由研究の素材に選んだ。スーパーで買ったスルメイカをハサミや包丁で解体し、炒め物や刺し身、内臓を使って好物の塩辛も作った。さらにイカ墨で習字や絵も描いた自由研究は随分と好評だったらしい。

 息子を函館まで連れてきたのは、東京のスーパーに並ぶイカと海で泳ぐイカがつながっていると知ってほしかったから。実は私、「魚の切り身が海で泳いでいる」と勘違いしているらしい今どきの子どもを笑えない。昔、イクラを食べながら「海をキラキラと泳ぐ姿はすてきでしょうね」と言い、大恥かいた。息子に同じ轍(てつ)を踏ませたくなくて、昨冬は自宅でイクラをふ化させ、サケの稚魚を親子で荒川に放流しにも行った。

 だから、今回の旅は「自由研究の最終章」と位置づけた。そう。キャッチフレーズは「生きた教育」。決して母親の食い気を満たすための旅ではないのだ。

     ◇

 息子の獲物を早速さばいてもらった。調理代込みで1杯1000円(時価)。ウネウネと足をくねらせるイカが、見る見る刺し身へと姿を変えるのを、息子がじっと見つめている。生き物が食べ物に変わる瞬間だ。
 おろしたてのイカ刺しは、ところてんのように透明で、角が立っていて美しい。コリコリとした食感。感動の味なのである。この日はヤリイカだったが、スルメイカの日は内臓も刺し身で食べられるそうだ。
 「ホントに透明だね」「吸盤が口に吸い付くぅ」「おしょうゆは付けないほうがいいよ。甘いのが分かるから」。さっきの弱気はどこへやら。我が家の「イカ食い」君は、実に幸せな、いい顔をしている。

 ふと思う。
 「おいしい」と「幸せ」は似ているな。

 見る見るうちに刺し身の皿は空っぽ。「次はイクラ丼だっ」と立ち上がるころには、「透明なイカ」はすっかり腹に収まり、「生きた教育」なんて大義名分は私の頭から抜け落ちていた。イカ、イクラ、カニ、ホタテ、ウニ……。あとはもう、食欲の導くままに。

 異国情緒漂う北の街で、我々親子はロマンチック路線に背を向け、ただ幸せをムシャムシャと食べ尽くしたのだった。

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プロフィール

おぐにあやこ

Author:おぐにあやこ
名前■おぐにあやこ
生年■1966年 ひのえうま
仕事■07年秋まで新聞記者。仕事を辞めて渡米。11年、新聞記者に出戻り。
趣味■読書、歌、旅
目標■ちょっと背伸びして、
 疑問符を感嘆符に変える事
苦手■勧善懲悪


著書■
▼「薬(ドラッグ)がやめられない 子どもの薬物依存と家族」(青木書店)
「ベイビーパッカーでいこう 赤ん坊とザックかついでスペインの旅」(日本評論社)
「魂の声 リストカットの少女たち」(講談社)
「いいじゃない いいんだよ 大人になりたくない君へ」(共著、講談社)
「アメリカなう。」(小学館)
「アメリカの少年野球 こんなに日本と違ってた」(径書房、ミズノスポーツライター賞)
「?が!に変わるとき  新聞記者、ワクワクする」(汐文社、読書感想画中央コンクール課題図書、高校生の部)

訳書■
「自傷からの回復 隠された傷と向き合うとき」(みすず書房)

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