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記事247◆ラブレターを綴ろう、の記事

■掲載年月日 2006年10月19日
■ラブレター、綴ろう
■物思う秋、妻に夫に恋人に


 物思う秋。でも思ってるだけじゃ、伝わらない。手紙を書きませんか。恋人に、妻に、夫に、綴(つづ)る大人のラブレター。ほらほら、恥ずかしがらないで。だって秋だもの。


 最近の若者はラブレターをあまり書かないらしい。電子メールのこの時代、パソコン画面でコピーを繰り返せば、「好き好き好き」と100回重ねた言葉の文も1分以内にできあがり。クリック一つで送信完了だ。
 こんな時代だからこそ大人がラブレターを書こうじゃないか。そう。年を重ねた大人にしか書けない大人のラブレター。ところが青春時代ならいざ知らず、今さらラブレターを書くのは案外、難しい。

 まずはラブレターの達人で作家の小嵐九八郎さん(62)に教えを請うた。小嵐さん、これまでに書いたラブレターは「合計750通ぐらいかな。このうち妻へが500通」とか。高校1年の時、1学年上の女性に一目ぼれ。9年間、ラブレターを書き続け、見事恋を成就させた。初めて床を共にした日、「手紙が効いたのよね」とささやかれたそうな。このお相手が今の愛妻というから、お見事!

 「ラブレターの中身は相手との関係で書き分けねばなりません。名乗り合う前の相手なのか、恋人一歩手前なのか、すでに恋人なのか、夫や妻なのか。例えば『すました時の唇の縦じわがいいね』と書いた手紙を、名乗る前の相手に渡せばただのストーカーです。しかし、恋人一歩手前の相手になら、さりげなく接吻(せっぷん)したい思いをにおわせることもできるでしょう?」

 なるほど。恋人向けと夫や妻向けに分け、コツを整理してもらった。
 「恋人や恋人以前の相手には直接的な表現より、何重にも意味が取れる含みのある文章がいい。相手の重荷にならず、あれこれ想像してもらうことで恋が盛り上がるから」となかなか高度なテクニック。

 例えばこれ。

 <横山大観の絵をがらにもなく見にいきました。桜の絵がすごい。でも桜も散るんですよね。現実の桜は。それで○○子さんを思っちまいましたよ。青春、疾走してください>

 小嵐さんがある女子大生に出したハガキだ。「思っちまいました」は単に「思いついた」から「愛(いと)おしく想(おも)った」まで解釈が可能。最後に「青春、疾走して」とオジサンらしい余裕を見せるあたりが心憎い。

   *

 では、夫や妻へのラブレターはどうか。「こちらは逆。普段なかなか言えない感謝やおわびの思いを極力ストレートに書く。多少気恥ずかしいくらいの言葉をはっきりとね」。ご自身、仕事で5日も家を空ければ、必ず妻に手紙をしたためるという。例えばこんなふうに。

 <今朝、眉山(びざん)という山に登り徳島市内を見渡した。霞(かす)む海が見え、あの先におまえがいると、はや、里ごころ。この城下町は藍染(あいぞ)めが昔から盛ん。取材より、おまえへの土産探しで忙しい。火の用心>

 肝心の思いはどんな言葉で伝えよう? 「愛してます」だろうか。それとも……。

 ところが小嵐さんは「愛の告白なんていらない。自分の思いなどは手紙の1割でいい。9割は相手中心に書く。例えば、相手の良さを自分なりの言葉でほめてあげる。美しい人に美しいといっても喜ばれない。むしろ本人が欠点と思っている点をほめる」。例えば、絵が上手と自分で思い込んでいる口下手の女性にはこんな感じ。

 <デフォルメの奔放な絵手紙に感激です。赤いカラス瓜(うり)と、なお青い葉が、過ぎた夏と秋を二重写しにしていて、音なき音楽を思いました。寡黙なあなただけが描ける世界です>

 確かに「好き」と言われるより、ほめられるほうが人間はずっとうれしいのかも……。

    *

 「『好き』『愛してます』は、できれば書かないほうがいいほどです」とおっしゃるのは法政大社会学部の田中優子教授だ。著書「江戸の恋」(集英社新書)で江戸時代の恋文について書いている。

 「江戸時代、遊女にとって恋文を書けるかどうかは命綱でした。さらにさかのぼれば、源氏物語の男女は相手の顔を知らないままで恋をする。つまり手紙に恋をするというわけ。文字、文体、織り込む詩歌、背景に見え隠れする教養や精神性……。手紙は人となりを伝えるのに格好の手段なのです」

 江戸時代の寺子屋では、手紙文でできた往来物と呼ばれる教科書がよく使われた。「手紙を手本にすることで、言葉遣いや表現を覚えると同時に、人間関係を築く技術も身につけ、大人になっていった。手紙はコミュニケーションの基本です」と田中教授はいう。

 しかし、田中教授自身は「好き」「愛してます」と書いた手紙を送ったり、送られたりしたことはないという。「私がこれまでに書いたのも、もらったのも、『好き』『愛してる』という言葉のないラブレター。ずっとそのほうが魅力的だと思います。だって『好き』や『愛してる』という言葉は勝手に自己完結している感じで、相手には届かないですから」

    *

 小嵐師匠の著書「せつない手紙 こころを伝える綴り方講座」(ちくま新書)に愛妻へのこんな手紙を見つけた。

 <いとしの妻よ。照れるのでいいにくいけれど、本当は離れて一人で眠るときも、いっしょに手をつないで眠るときも、必ずおまえを五分間、凝縮して思っています。いままでこのことを隠していてごめんよ。(中略)死ぬ時は、最愛のおまえに看取(みと)られて死にたいと改めて強く思う毎日だ>

 やけに直球勝負の表現に「こんな情熱的な手紙、ほしいな」とうっとりしつつ、読み進めた私は途中であぜん。なんとこれ、小嵐さんの「悪さが発覚した時」の手紙。でも、手紙のおかげで妻は「ちょっぴりだけ機嫌を回復させてくれた」という。

 なーんだ、あきれた。

 でも、さすがは「大人のラブレター」。許せないことまで、つい許しちゃうかも。

 「達筆でなくていい。むしろ素朴な思いを伝えるには達筆でないほうがいい。手触りを大事に、紙を、ペンを、切手を選ぶ。手紙が相手に伝える繊細さや重さは電話や電子メールの比じゃありません」と小嵐さん。

 澄んだ秋の空の下、アナタも思いを手紙に託してみては?

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プロフィール

おぐにあやこ

Author:おぐにあやこ
名前■おぐにあやこ
生年■1966年 ひのえうま
仕事■07年秋まで新聞記者。仕事を辞めて渡米。11年、新聞記者に出戻り。
趣味■読書、歌、旅
目標■ちょっと背伸びして、
 疑問符を感嘆符に変える事
苦手■勧善懲悪


著書■
▼「薬(ドラッグ)がやめられない 子どもの薬物依存と家族」(青木書店)
「ベイビーパッカーでいこう 赤ん坊とザックかついでスペインの旅」(日本評論社)
「魂の声 リストカットの少女たち」(講談社)
「いいじゃない いいんだよ 大人になりたくない君へ」(共著、講談社)
「アメリカなう。」(小学館)
「アメリカの少年野球 こんなに日本と違ってた」(径書房、ミズノスポーツライター賞)
「?が!に変わるとき  新聞記者、ワクワクする」(汐文社、読書感想画中央コンクール課題図書、高校生の部)

訳書■
「自傷からの回復 隠された傷と向き合うとき」(みすず書房)

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