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記事217◆「あらしの夜に」の読まれ方…作者インタビュー

■掲載年月日 2005年11月24日
■「あらしのよるに」の読まれ方
■異種の友情が問う、私自身の人間関係
■7巻250万部

 現実でも、絵本の世界でも、オオカミはヤギを食らうもの。ところが、この動物の友情を描いた連作絵本「あらしのよるに」(講談社)がシリーズ全7巻で250万部を売る人気だ。12月10日のアニメ映画の公開を前に、作者の木村裕一さん(57)と人気のヒミツについて考えた。

□■恋愛論から企業論まで

 「あらしのよるに」が出版されたのは11年前の94年。主人公はオオカミとヤギ。嵐の夜、真っ暗な小屋の中で、食う者と食われる者が互いにそれと知らず、一緒に雨宿りする。オオカミは相手のことをオオカミ仲間と思い、ヤギの方も相手をヤギ仲間と信じ、「明日、この小屋の前で」と再会を約束するのである。
 再会の直前で物語が終わる、というこの結末は当時、物議をかもした。木村さんによると「『あの終わり方は無責任。続きが気になる』と言う人もいれば、『続きは不要。書くな』という人もいた。賛否両論だった」という。

 ところが95年、この絵本が講談社出版文化賞絵本賞を受賞。周囲の続編への期待は高まり、翌96年、続編「あるはれたひに」を出版。続編は、互いの姿に驚いたオオカミとヤギが、それでも友情を大切に思い、一緒にお弁当を持ってピクニックに出かける話。途中で弁当を谷底に落としてしまったオオカミが、食欲と友情とのはざまで葛藤(かっとう)する。
 「続編には大人の反響が急増した。若い女性からは『葛藤するオオカミがかわいい。こんな男性ならすぐに好きになっちゃう』なんてね。実はヤギは当初オスを想定していたのですが、途中で性別をオスともメスとも分からないように書き換えた。その結果、『オオカミ=男、ヤギ=女』というふうに、恋愛論として読む大人の読者が増えたのでしょう」
 第3巻(97年)、4巻(99年)、5巻(00年)と続編を重ねる中、オオカミにはガブ、ヤギにはメイという名前もついた。捕食関係にあった2匹の秘密の友情はそれぞれの仲間にばれ、いつしか2匹は群れの中で孤立を余儀なくされていく。

 大人の読者はさらに多様な読み方をし始めた。「企業の社内報からも取材を受けました。群れの論理と個人の友情との間で葛藤するこの絵本には、企業か個人か、という命題が隠されている、というわけです」
 いつしか反響の多くが、子供から大人へと変わっていった。自らの不倫体験に重ねて苦しい思いを書きつづった若い女性。「高校生の息子と夫に絵本を勧めた後、あこがれの男性にも勧めちゃいました」という主婦からの告白。演出家の宮本亜門さんのように、民族や宗教対立の問題として読んだ人もいた。

□■結末の結末

 木村さんは02年、第6巻「ふぶきのあした」を出した。完結編のつもりだった。2匹は群れから飛び出し、雪山を越え、種族の違いを超えてともに暮らせる緑の森を目指す。しかし、メイを守るため、ガブは雪崩に巻き込まれる。それを知らぬメイは、緑の森にたどりつき、ガブの名を呼び続ける。
 6巻目の出版までに、すでにシリーズを通して14万部を売り上げていたが、人気が爆発したのは6巻目出版の直後だった。数カ月後には100万部を突破。「もう一度2匹を会わせてやって」という手紙やメールが殺到した。朗読会では女児が泣きじゃくり「7巻目を出してください」と訴えた。

 「僕は『絵本の結末はハッピーエンド』という従来のセオリーを破ってしまったのでしょう。しかしハッピーって、幸せって、何でしょう? 単に長く生きることですか。僕らは何のために生まれてきたのか。何が一番大切なのか。ガブとメイは納得し、覚悟のうえで一緒に雪山を越えようとした。あの結末は2匹にとっては単なる悲劇ではない。『ハッピーエンド』とも言えると思った。だから次を出す気はなかった」

 ところが今年11月、木村さんは第7巻「まんげつのよるに」を出版した。
 「僕はある日、これまでの物語には一つだけ、大切な要素を描いてこなかったと気付いた。それは『心は変わる』ということ。1~6巻では、2匹が葛藤を乗り越え、友情を築く姿を描いた。でもね、たとえ深い友情であっても、心が変わることはある。それが生きるということ。悲しいけれど、悲しむべきことではない、受け入れるべきこと。それを描いてみたくなった」

 11年かけて完結したこの絵本は、12月10日からアニメ映画「あらしのよるに」(東宝系)として公開予定だ。

□■本音の関係が新鮮

 大人の読者はなぜ、この連作絵本に心をとらわれたのか。
 シリーズを終えて今、木村さんはこう考える。「僕は1~7巻すべてで、2匹が本能の部分では食う食われるの関係だという原点にこだわった。ガブは空腹になるとメイがエサに見えて苦しむし、メイもガブが肉食であることを頭で理解しつつ心情的には受け入れない。2匹が友だちであり続けるためには、本能を克服するしかない。人間もそうだ。いつも本能を理性でコントロールして暮らしている。嫌いな上司だって殴らないで我慢する。好きな相手にいきなり抱きついたりしない。2匹の物語が大人の心に染みたのは、みな葛藤の中で生きているからではないでしょうか」

 多くの子供が、大人が、身近な人間関係に重ねて2匹の物語を読んだ。木村さんは言う。「ガブもメイも相手に真剣に立ち向かい、思いを率直にぶつけて、互いの違いを許し、認め合い、乗り越えることで心のきずなを深めた。でも、私たちはそんな本音の関係を身近な人々と結んでいるでしょうか。こんな時代だからこそ、大人にも子供にもガブとメイの関係が新鮮に映ったのかもしれませんね」
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プロフィール

おぐにあやこ

Author:おぐにあやこ
名前■おぐにあやこ
生年■1966年 ひのえうま
仕事■07年秋まで新聞記者。仕事を辞めて渡米。11年、新聞記者に出戻り。
趣味■読書、歌、旅
目標■ちょっと背伸びして、
 疑問符を感嘆符に変える事
苦手■勧善懲悪


著書■
▼「薬(ドラッグ)がやめられない 子どもの薬物依存と家族」(青木書店)
「ベイビーパッカーでいこう 赤ん坊とザックかついでスペインの旅」(日本評論社)
「魂の声 リストカットの少女たち」(講談社)
「いいじゃない いいんだよ 大人になりたくない君へ」(共著、講談社)
「アメリカなう。」(小学館)
「アメリカの少年野球 こんなに日本と違ってた」(径書房、ミズノスポーツライター賞)
「?が!に変わるとき  新聞記者、ワクワクする」(汐文社、読書感想画中央コンクール課題図書、高校生の部)

訳書■
「自傷からの回復 隠された傷と向き合うとき」(みすず書房)

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