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記事215◆ダルデンヌ兄弟監督インタビュー

■掲載年月日 2005年11月16日
■ベルギー版ニート映画
■兄弟監督が見た、日本の若者

 今年のカンヌ国際映画祭でパルムドール大賞を受けた映画「ある子供」。日本では「ベルギー版ニート映画」という観点での前評判も高い。12月10日の公開を前に、来日した兄弟監督のジャン・ピエール・ダルデンヌ、リュック・ダルデンヌ両氏に話を聞いた。兄弟2人が見た日本の若者像とは……。

□■東京の孤独

 2人は「ある子供」を含め4作品でカンヌ国際映画祭の主要賞を受賞した名監督。これら4作品のすべてに若者の主人公が登場する。
 「ある子供」の主人公は20歳の青年ブリュノ。定職に就かず、仲間と盗みを働いて暮らしている。18歳の恋人ソニアに赤ちゃんが生まれ、ブリュノは父親になるが、父親としての実感はない。赤ん坊はカネになると聞き、自分の赤ん坊を売り飛ばしてしまう。

 「ベルギーの若者の失業率は20%。映画の舞台である街スランは、鉄鋼の街です。4万人の雇用があったのに、経済危機で3万人が職を失いました。貧しい階層に生まれ、社会のどこにも居場所がなく、麻薬の密売を始めるなど、貧困の中で大人になれない若者たちがたくさんいます」

 これがダルデンヌ兄弟の描いた「ベルギー版ニート」の姿だという。

 一方、日本でも今、「ニート」問題は論議の的だ。ダルデンヌ兄弟も来日中、日本の若者をもっと知るため、東京都内の区民講座に出かけた。今月3日夜、世田谷区の代田区民センターに集まったのは20代の若者からシニア世代までの約50人。「ある子供」の上映会後、ダルデンヌ兄弟が登場し、会場の日本人と本音で語り合った。

 この時、2人をドキリとさせたのは、25歳の女性の言葉だ。「地方から上京し、フリーターを1年間やっています。親の援助もないし、帰る実家もない。いつも不安です。いつか病気で働けなくなったら、私もブリュノみたいになるんじゃないか、って」

 弟のリュックさんは翌日、私とのインタビューでこの女性の話を持ち出してため息をついた。「彼女の発言を聞いた瞬間、東京という街が別の姿になった。巨大な街で、独りぼっちで自分の位置づけが分からなければどんなにか不安だろう。それまでエキゾチックに見えていた東京という街が、人間が生きるのを妨げる恐ろしいものに見えたのです」

□■質問攻め

 もう一つ、ダルデンヌ兄弟の心に残った区民講座での発言があった。それは年配の男性の言葉だ。「主人公ブリュノは盗みをしてでも生きようとしている。すごい生命力だ。しかし日本では逆のことが問題になっている。それは若者の生命力の希薄さです」

 ダルデンヌ兄弟は言う。「確かに主人公ブリュノは孤独だが、常に生きようとする側にいる。生命力の強い人間です。ベルギーでは現実に、失業中の若者は『我々は失業者だが犬ではない』という名の組織を発足させ、互いに助け合っている。人とつながることを知っている。これは親や祖父母から受け継いだものだと思う。貧しい階層の親や祖父母たちは、政治闘争や労使闘争を通して権利を勝ち取ってきた世代だから。しかし、豊かな階級の子供が同様に強い生命力を保てるかどうか疑問に感じている」。だからこそ、日本の若者に興味があるという。

 インタビューの席で、ダルデンヌ兄弟が逆に質問してきた。日本の若者について情報収集しているらしい。「『引きこもり』や『ニート』の人はどこでどんなふうに暮らしているのですか」

 ケース・バイ・ケースだが、両親と一緒に暮らす人が比較的多いことを説明した。するとリュックさんが首をひねった。「まさか一日中、コンピューターに向かってるわけないですよね? せめて両親とは会話するんでしょう?」

 「引きこもり」と呼ばれる人たちの中には、親との接触も避ける人もいると説明すると、2人は信じられないと驚き、「いったい彼らは何歳なのですか?」と聞く。

 引きこもりは長期化している。主流は、20代後半と30代といわれる。2人は深刻な顔で「私たちもぜひ、ベルギーで生きる欲求の落ちている若者が増えていないか調べてみたい」というのだった。

 リュックさんの質問は続いた。「子供はいつか親に反抗し、乗り越えていくものだ。私も17歳の時に父に反抗し、家を出た。家を出ていかないとしたら、日本の親は高圧的で『成功しろ』と子供に押しつけているのだろうか。子供は拒絶できないのだろうか」

 さて、どうだろう。いったい何が「成功」なのかも不透明なこの時代、親たちは昔ほど「成功しろ」と言わなくなったのではないか。むしろ、「やりたいことを見つけろ。好きなことをすればいい」という親が多い。「ニート」問題でも、「やりたいことがわからない」と立ち止まってしまう若者の存在が指摘されている。

 そんなふうに説明すると、リュックさんはようやく納得したようにうなずいて語った。「子供の欲望を先回りし、満たしてしまってはいけない。それは欲望が生まれる前に殺してしまうのと同じこと。欲望というのは、何かが欠けた時に生まれてくる。争いや葛藤(かっとう)を避けようと、社会が先回りしすぎているのではありませんか」

□■人は変わる

 映画の中で、ブリュノは少しずつ成長する。赤ん坊を売り飛ばしながらも、ソニアの深い悲しみに触れ、盗みの仲間だった子供を守ろうとする中で、人間らしい感情を取り戻していく。映画の最後に残るのは「希望」だ。ダルデンヌ兄弟は言う。「どんな人間であっても、人は変わることができるのです」
 では、何が人を変えるのか。何が、大人になれなかった若者を成長させるのか。「それは他者との出会いです。私たちの映画の登場人物は、自分の殻に閉じこもっている人が多い。しかし他者と出会うことで、立ち直っていく。特に、同世代の他者との出会いや友情、助け合いでね」

 こちらが質問するはずが、質問攻めに遭ったインタビュー。別れ際、2人は言った。「もっと日本の若者の話を聞きたかったですよ」
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プロフィール

おぐにあやこ

Author:おぐにあやこ
名前■おぐにあやこ
生年■1966年 ひのえうま
仕事■07年秋まで新聞記者。仕事を辞めて渡米。11年、新聞記者に出戻り。
趣味■読書、歌、旅
目標■ちょっと背伸びして、
 疑問符を感嘆符に変える事
苦手■勧善懲悪


著書■
▼「薬(ドラッグ)がやめられない 子どもの薬物依存と家族」(青木書店)
「ベイビーパッカーでいこう 赤ん坊とザックかついでスペインの旅」(日本評論社)
「魂の声 リストカットの少女たち」(講談社)
「いいじゃない いいんだよ 大人になりたくない君へ」(共著、講談社)
「アメリカなう。」(小学館)
「アメリカの少年野球 こんなに日本と違ってた」(径書房、ミズノスポーツライター賞)
「?が!に変わるとき  新聞記者、ワクワクする」(汐文社、読書感想画中央コンクール課題図書、高校生の部)

訳書■
「自傷からの回復 隠された傷と向き合うとき」(みすず書房)

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