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記事182◆幸せの雑学:石焼き芋

■掲載年月日 2005年01月18日
■幸せの雑学:石焼き芋
■05年は伝来史節目の年
■凍りつく冬の街ならではの味


 ここは東京・銀座の三越百貨店。着飾った客でにぎわう地下の食料品売り場を歩いていたら、香ばしい匂(にお)いが漂ってきた。甘くて妙に懐かしい。間違いない。これは石焼き芋である。力強い匂いのせいで、「いしや~きいも、おいも」の呼び声が頭の中をグルグル回り始めた。それにしても、銀座なのに、デパートなのに、なぜに石焼き芋の匂いなんだ?

 ●デパ地下進出

 香りの源は石焼き芋専門店「カドー・ドゥ・チャイモン」。きらきら輝くガラスのショーケースの中には黒い玉砂利が敷き詰められ、よい具合に焼けたお芋様が宝石よろしく鎮座する。
 オレンジ色のは、ねっとり甘い甘蜜安納芋(かんみつあんのういも)。紫は美(ちゅ)ら紅(べに)。白いシモン芋に黄色い神楽(かぐら)紅金時(べにきんとき)。カラフルでおしゃれである。全国の畑と契約し、その時々に一番おいしい芋3~4種類を糖度計で甘さを確かめ、焼く。100グラム300円を超える焼き芋は、大きいものだと1本1000円。結構な高級品だ。これを妙齢の女性が我も我もと買っていく。お気に入りの品種を5本、6本とまとめ買いする人。全種類1本ずつ買う人。多い日は1日800本、70キロも売れる。
 焼き芋は殿方に秘密でこっそり買い求めるもの、という複雑な女心も恥じらいも、ここには存在しない。客の8割が女性。「でも1回に買う量は男性客のほうが多い。年末年始は営業担当のサラリーマンが随分買ってくれた。取引先の女性社員の心をまず石焼き芋でつかもう、という作戦だそうで」。同店を経営する白ハト食品工業(本社・大阪府守口市)の東京ブロックマネジャー、佐々木さん(34)が教えてくれた。

 ●ガスはなぜ出るか

 石焼き芋には葛藤(かっとう)がある。おいしいが、少し恥ずかしいのである。冬の寒い街角で「いしや~きいも、おいも」の誘惑にあらがうのは難しい。でも「大好物」と人前では言いづらい。例のガスのせいだ。食べれば出る。それが宿命なのである。
 なぜ、サツマイモを食べるとガスが出るのか。サツマイモは食物繊維が多く、細胞壁が壊れにくい。だから消化酵素で分解されなかったでんぷんが食物繊維と大腸まで送られ、腸内細菌の格好の栄養分となり、大量の腸内ガスが発生する。
 これがおならの正体である。
 食べれば出るのは今も昔も変わらない。例えば古典落語「芋俵(いもだわら)」。芋俵に隠れて質屋に盗みに入る江戸の泥棒の話だが、最後のおちは「プー」というおならの音だ。
 焼き芋の歴史について、埼玉県川越市のサツマイモ資料館館長、井上さん(73)に教わった。南米では8000~1万年も前から食されていたサツマイモだが、世界に広がったのはコロンブスの航海後の話。中国を経て沖縄本島にもたらされたのは1605年。さらに100年後の1705年、鹿児島県に伝えられ、そこから全国に広まり、サツマイモとなった。
 だから2005年はサツマイモ史の節目の年だ。沖縄県嘉手納(かでな)町は9月30日~10月2日、「野國總管甘藷(のくにそうかんかんしょ)伝来400年祭」を予定。町役場に専門の担当課を新設する熱の入れようだ。一方、鹿児島県山川町でも11月に300年祭を行うという。

 江戸の町にサツマイモを広めたのは、1735年に江戸に種芋を持ち帰った青木昆陽だ。最初は人々に見向きもされなかったが、救荒作物として飢饉(ききん)が起こるたびに徐々に需要が増えていった。まず蒸し芋屋、続いて焼き芋屋が登場。幕末には、焼き芋は庶民の代表的な冬のおやつとなった。
 最初は素焼きの皿の上に芋を乗せ、木のふたをして蒸し焼きにした。商売の規模が大きくなると、今度は約1メートルもある大きな鋳物の鍋をいくつも並べ、かまどで焼くようになった。しかし関東大震災で多くの店が倒壊。その後は、陶器のつぼに芋を入れて焼く「つぼ焼き」が主流になった。

 ●移動販売は戦後

 リヤカーに石焼き釜を積んで行商する移動販売のスタイルが生まれたのは、第二次世界大戦以降の話だ。「サツマイモは、ひもじい戦中の記憶に強く結びついていたから、当時はあまり人気がなかった。だから人の多い駅前や繁華街、大きな病院の前など、人通りの多い場所を狙って売り歩いたのです」と井上館長は語る。
 高度経済成長期にはリヤカーの数もどんどん増えた。井上館長によるとピークは1970年ごろ。大阪万博前の最盛期には東京だけで1000人以上の売り子がいたという。しかしその後は減少の一途をたどった。「外国のファストフードとコンビニエンスストアの登場に、石焼き芋は負けてしまったのでしょう」と井上館長は語る。

 ●甘さの秘密

 江戸の昔、栗(くり)(九里)に迫る味だから「八里半」、さらには「栗より(九里四里)うまい」から「十三里」とももてはやされた焼き芋。あの濃厚な甘さの秘密は、焼き上げる温度にあるという。サツマイモのでんぷんを麦芽糖に変える酵素、アミラーゼが一番活発に作用するのは65~85度だ。この温度帯を長時間維持するほどに甘みも強くなる。だから遠赤外線でじっくり加熱する石焼き芋はおいしい。
 自宅でもあの味を、という人のために、「石焼き芋器」なる小石付きの鍋も数千円で売られている。インターネット上でも、多くの石焼き芋ファンが「あの味を自宅で再現しよう」とさまざまな試みを報告している。いわく「電子レンジの『強』ではなく『弱』で15分ほどチン」とか「ぬれた新聞紙に包み、さらにアルミホイルに包んでオーブンで40分くらい焼く」とか「いらないヤカンに小石を敷き詰め、その上に芋を置いてじっくり焼く」など。
 記者もいろいろ試したが、やっぱりどこか物足りない。暖かい自宅ではなく、凍りつく冬の街だからこそ、石焼き芋に幸せを感じるのかもしれない。
 20日は大寒。思い切り熱いのを1本、新聞紙なんかに巻いてもらって、ハフハフとやりたい季節が今年もやってきた。
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プロフィール

おぐにあやこ

Author:おぐにあやこ
名前■おぐにあやこ
生年■1966年 ひのえうま
仕事■07年秋まで新聞記者。仕事を辞めて渡米。11年、新聞記者に出戻り。
趣味■読書、歌、旅
目標■ちょっと背伸びして、
 疑問符を感嘆符に変える事
苦手■勧善懲悪


著書■
▼「薬(ドラッグ)がやめられない 子どもの薬物依存と家族」(青木書店)
「ベイビーパッカーでいこう 赤ん坊とザックかついでスペインの旅」(日本評論社)
「魂の声 リストカットの少女たち」(講談社)
「いいじゃない いいんだよ 大人になりたくない君へ」(共著、講談社)
「アメリカなう。」(小学館)
「アメリカの少年野球 こんなに日本と違ってた」(径書房、ミズノスポーツライター賞)
「?が!に変わるとき  新聞記者、ワクワクする」(汐文社、読書感想画中央コンクール課題図書、高校生の部)

訳書■
「自傷からの回復 隠された傷と向き合うとき」(みすず書房)

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