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記事180◆精神科なだいなださん、インタビュー

■掲載年月日 2004年12月14日
■この国はどこへ行こうとしているのか。
■精神科医・なだいなださん

 ◇無念でならない米同時テロ後の世界
 ◇イエスが生きていたらブッシュの戦争を支持していたでしょうか?

 なだいなださん(75)のお宅の窓からは、鎌倉の名刹(めいさつ)、円覚寺の裏山が見えた。鳥の甲高い声。生き物の気配がまだ北鎌倉には残っている。

 ●死にきれなかった神

 「ニーチェは『神は死んだ』と言った。もう100年以上前のことです。しかし、神は死に切れなかったのでしょうねえ」。なださんは穏やかな表情を崩さぬまま、心底残念そうにつぶやいた。
 「神は死んだ」という言葉には学生時代、大きな影響を受けたという。人間は神に頼らなくてもより理性的に生きられるはずだと信じ、「無神論者」をあえて名乗ってもきた。
 だからこそ2001年の米同時多発テロ後の世界が無念でならない。キリスト教原理主義を後ろ盾に戦火を広げる米国のブッシュ政権を常に批判してきた。イラク戦争に反対し、デモにも参加した。

 「今の世を見ていると結局、人間は誰かに頼らなければ生きていけなくなってしまったようです。『理性的に生きよう』『神に頼らず踏みとどまろう』という人も大勢いるのですが、神様を復活させて手軽に安心したいために、宗教に回帰した人がたくさんいたのでしょう」

 精神科医としてアルコール依存症の治療に長くかかわってきた。「精神科医の存在意義を追究すると宗教に突き当たる」と考え、2002年には「神、この人間的なもの」(岩波新書)を出版した。その本の中で、世界三大宗教の始祖、キリスト、ブッダ、ムハンマドは集団的精神療法家だったと書き、彼らの一神教は孤独から人間を救い出し、一つにまとめるための原理だったと結論付けた。

 「ブッシュ大統領が口にする『神』は『イエスキリスト』ではない。イエスが登場する新約聖書ではなく、それ以前の旧約聖書の神です。旧約聖書の神は荒ぶる神。オナンなんか、オナニーをしただけで殺されたわけですから。イエスはそんな殺伐とした神ではなく、許しの精神を提唱した人間でした。神を克服しようとしたのがイエスだったのです。イエスの時代から2000年間、人は後退してきたのではないか。イエスが生きていたらブッシュの戦争を支持したでしょうか?」

 ●「イズム」は「中毒」に

 神の名を唱えるテロリズムと、別の神の名を唱える戦争。そこに、宗教には無頓着な日本が追随してゆく。
 「日本は抽象的な概念をとらえるのが苦手な国。例えば『イズム』という言葉をごらんなさい。日本では全部違う言葉に訳され、物事の本質が見えなくなってしまう」

 なださんは指折り、例を挙げ始めた。「アルコーリズム、クリスチャニズム、マルキシズム……。ほらね。それぞれ『アルコール中毒』『キリスト教』『マルクス主義』と訳されている。これを全部『中毒』と訳してごらん」

 口に出してみる。キリスト中毒、マルクス中毒……。

 「物の本質が見えてくるでしょう? ブッシュ大統領はキリスト中毒です」

 ●100点満点主義

 なださんの両眼に、今の日本はどんなふうに映るのか。
 「バカが多くなっちゃったね」となださんは力なく言った後、「いや、バカという言葉はちょっとあれだね」と別の言葉を探し、口ごもった。最初に例に挙がったのはこのお二方。「小泉(純一郎首相)がそう。ブッシュはもっとそうだ。言葉の端々に教養のなさが感じられる」

 教養、ですか?

 「教養にはこんな定義がある。『すべてを失った時にもすべてを忘れた時にも残っているものが教養である』とね。言葉はなくとも、感じさせるもの。例えばチェコスロバキア共和国(当時)の初代大統領マサリクがそうです。小説家チャペックの書いた『マサリクとの対話』という本の中に『マサリクとの沈黙』という章がある。マサリクの沈黙がいかに深いか、語らなかったことがいかに大きかったかが書かれている。教養とはそういうものです」

 その点、今の日本には「すごい」と思える政治家や官僚がいないという。

 「学校の『100点満点主義』が悪い。間違えると点を引く。正しいことを積み重ねても100点を超えることはない。例えば本を何冊読むかという競争であれば、100冊だって200冊だって無限に積み重ねていける。ところが100点満点主義では、人生のほんの小さく区切られた四角の中を、何度もなめるように勉強して、100点に近づこうとする。四角の外側のことはすべて無意味で、外側を勉強すれば成績が落ちるときている。こんな競争の末にエリートとなった人に国を任せたら、間違えないことだけが最高の価値を持つ国になって当たり前でしょう?
 人間はねえ、間違えないで生きていけるものじゃない。間違ったらフォローする。どうフォローするかが人間の生きる技術だ。人の上に立つ者がみんなこれだから、世の中に小うるさい人が増えてくる。他人の失敗にガミガミ言いたがる人がね」

 ふと戦争下のイラクに行った若者たちに向けられた「自己責任論」を思い出した。なださんも「うむ」と一つうなずいて嘆息したのだった。

 「幾多の失敗を重ね、はい上がってきた人が上に立つ国であれば、小うるさい人はこんなに増えなかった。『失敗などいくらやってもいい。のびのびやれ』と若い人に言ってやれただろうに。窮屈だねえ。本当に窮屈だ」

 ●ストレスもバネに

 窮屈な、生きづらい世の中だ。だからこそ、ストレス社会と言われるのだろう。ところがなださん、「ストレスを忌み嫌うことはない」という。「人間にはむしろ適度なストレスが必要」と、「ストレス学説」を生んだ動物実験について教えてくれた。
 「極端な寒さの中にネズミをしばらく放置したら、血中のアドレナリン値が急上昇した。これは極端な暑さの下でも同じだった。これらは、環境に適応するための『ストレス反応』だったわけです。なるほど、暑さも寒さもストレスに違いない。でも四季の変化はやっぱりあったほうが良くないですか?」

 窓の外の山々を見る。ここ北鎌倉では今もオニヤンマが飛ぶという。冬には霜柱がすっくと立つという。

 「人間が人生に挑戦しようとする時には、ストレスを成長のバネにすることだってできる。向かい風を使って羽ばたく鳥のようにね。逆に受け身の人には風は自分を吹き飛ばすものでしかない。『適度のストレス』という時の『適度』はその人の生きる姿勢によっても変わってきます」

 ●「好い加減」が大事

 なるほど、今の社会はとかく極端だ。宗教だったら原理主義。学校では失敗を許さない「100点満点」主義。「癒やし」が大流行し、ストレスはすべて嫌われる。

 「人間は『いい加減』がいいんです。『いい加減』は『好(よ)い加減』ですからね」。けむに巻くかのような一言に、こっちまで笑ってしまった。そう。極端に走りがちな今の世が忘れてはいけないのは「いい加減」なのかも。

 こんななださんが一つだけ絶対に「いい加減」では済ませないことがある。「反戦平和」だ。理由を問うと、今度は心理学の巨匠、フロイトの話になった。

 「フロイトは政治的であることを拒んだ人だったが、彼ですら第一次世界大戦中、軍隊がヒステリー患者を厳罰にしようとした時、『これは詐病じゃない。戦争という大変なストレスの中で起きる病気である』と主張した。これらの病気を治療する立場にある僕ら精神科医が平和を主張するのは当然でしょう?」

 それからぐいっと湯飲みで茶を飲むと、このときばかりは身を乗り出して言った。

 「戦争というのは『いい加減』なストレスではないんだよ。『好い加減』なんてありえないんだ。親の死だって恋人の死だって、長い時間をかければいつかはその人を成長させるだろう。でも戦争はそうじゃない。極端な、人間を破壊させるストレスだ。我々を成長させてくれるようなストレスじゃない。断じてそうじゃない」

 最後に残ったのは、長い長い沈黙だった。


◇精神科医・なだいなださん
 1929年東京出身。慶応大医学部卒。精神科医。本名は堀内秀(ほりうち・しげる)。ペンネームは「何もなくて何もない」を意味するスペイン語から取った。2003年インターネット上でバーチャル政党「老人党」を創設し、話題を集めた。
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プロフィール

おぐにあやこ

Author:おぐにあやこ
名前■おぐにあやこ
生年■1966年 ひのえうま
仕事■07年秋まで新聞記者。仕事を辞めて渡米。11年、新聞記者に出戻り。
趣味■読書、歌、旅
目標■ちょっと背伸びして、
 疑問符を感嘆符に変える事
苦手■勧善懲悪


著書■
▼「薬(ドラッグ)がやめられない 子どもの薬物依存と家族」(青木書店)
「ベイビーパッカーでいこう 赤ん坊とザックかついでスペインの旅」(日本評論社)
「魂の声 リストカットの少女たち」(講談社)
「いいじゃない いいんだよ 大人になりたくない君へ」(共著、講談社)
「アメリカなう。」(小学館)
「アメリカの少年野球 こんなに日本と違ってた」(径書房、ミズノスポーツライター賞)
「?が!に変わるとき  新聞記者、ワクワクする」(汐文社、読書感想画中央コンクール課題図書、高校生の部)

訳書■
「自傷からの回復 隠された傷と向き合うとき」(みすず書房)

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