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記事177◆60歳のラブレター、という記事

■掲載年月日 2004年11月19日
■「60歳のラブレター」--手紙の主を訪ねて
■定年夫婦だからこそ伝えたい思いがある--それぞれの晩秋


 子育てを終え、定年を迎え、2人きりで向かい合った夫婦だからこそ、伝えたい思いがある。今さら言えない言葉もある。伴侶(はんりょ)への思いをつづった手紙を収めたベストセラー「60歳のラブレター(4)」(NHK出版)がこの秋出版された。夫から妻へ、妻から夫へ。それぞれの「ありがとう」と「愛してるよ」にあなたは何を思うだろうか――。

■愛妻弁当

 《団塊の世代の宿命として、ただもくもくと働くことが美徳だと感じてきた私も定年を迎えた今日、その呪縛も解けた。当たり前のことが当たり前でないと初めて感じた日、妻が作ってくれた弁当を初めてゆっくりかみ締めながら食べた。そしてお腹(なか)が満たされる前に胸が温かいもので満たされた。私は水場に立つと、空になった弁当箱を丁寧に丁寧に洗った。今こそ、気付かなかった一言、言えなかった一言を言おう。恵美子さん、ありがとう。これからは貴女(あなた)のために生きていたい》

 手紙の主、埼玉県所沢市の徳治さん(60)と妻恵美子さん(58)に会いに行った。
 会社勤めの30年間、共働きの恵美子さんに毎日弁当を持たせてもらいながら「ありがたいとすら思ってなかった」という徳治さん。定年後も変わらず愛妻弁当を家に置いて出勤する妻の姿に初めて感謝の気持ちがこみ上げ、恋文にしたためた。もちろん妻には秘密。「本に収録されなければ隠し続けるつもりでした」という。
 本を見せられた恵美子さんは感激した。「うちのお父さん、『ありがとう』すら言ったことがない人。娘たちに『誕生日に何がほしい?』と聞かれた私は『お父さんの愛がほしい』って言ったものでした。結婚生活34年が報われた。この人と一緒になってよかった!」

 では、その後の徳治さんの定年ライフは? 実は勤務先の食品会社に嘱託で戻った。愛妻弁当は今も続いている。弁当箱は洗っているかと尋ねたら「いや、それは……」と苦笑い。傍らで恵美子さんが「お弁当箱を洗った夫を見た時は定年で弱気になったかと心配しました。私はあのラブレターでもう十分」と言ってにこにこ笑うのだ。

■企業人間

 「60歳のラブレター」に見る「定年夫婦」の姿はいろいろだ。
 大阪市の女性(67)は《あの豪放磊落(らいらく)な性格と大きな笑い声で、いつも周囲をなごませていたあなたが、すっかりひきこもり人間になってしまって、人に会いたくない、人と話もしたくないって1日テレビのお守りをしている姿を見るのはとても悲しい……。会社を息子に譲ってからのあなたの急変ぶりがとても寂しい。さあ、元気を出して外に出ましょう》

 仙台市の女性(52)は《最近、危ないですね、私たち。それもかなり深刻。企業人間の夫と子育てに追われる妻。気付いたら2人の距離は埋められぬほどに。これからの人生に必要なのは「今少しの思いやり」と「違いを尊重し合う気持ち」。それと、軽いあいづち程度は打ちましょうね!》。手紙の冒頭の「世界中で一番キライ……そして一番大好きなアナタへ」に深い思いがこもる。

 切ないのは伴侶に先立たれた夫や妻の手紙だ。神奈川県の男性(64)はこうつづる。

 《「病気になると会社は冷たいものよ。ほどほどにしなさいネ」と、君は夢中で働く私に忠告していたっけね。案の定、私は身体をこわしたが、君はいさめるどころか献身的に看病してくれたね。家計も大変だったよね……ありがとう……それなのに神様、なんで私ではなく愛妻、慶子を奪っていったんですか。60歳の定年から4年間ずーっと、キャンピングカーにおまえの写真と位牌(いはい)を積んで旅してる。おまえと一緒にこれからもずーっと。分かるかい。見えるかい》

 子連れ同士で再婚した奈良県の妻(60)から夫(65)へ。

 《自動車マンを退職し、定年のない運送業でがんばるあなたが大好きです。ずっとずっとこのままでいたい。私より先に往(ゆ)かないでね》

 静岡県の男性(85)は《おそまきのラブレターを贈りたい》で始まる静かな手紙の中で、妻の介護の日々をつづり、妻の発病を見落としたことを悔やみ、最後をこんな言葉で締めている。

 《60年間言わなかった言葉を今。「私がそばにいる限り、安心してすべてを私に任せなさい。何一つ心配することはないのだよ」》

 「60歳のラブレター」は2000年、「長い歳月をともに歩んできた伴侶への思いを一枚のはがきに」と住友信託銀行が募集したのが始まりだ。過去4回で応募数は計4万7000通を超え、これをまとめた本は第1~3集の合計で約29万部も売れた。

 なぜ普通の人のラブレターがここまで読まれるのか。「景気低迷や企業倒産、リストラ、中高年の自殺急増などを背景に、みなが心の温まるドラマを求めていたのでしょう。作り物ではない、実際の夫婦の生の人間ドラマが人の心を打ったのではないでしょうか」とNHK出版の担当者はいう。

 「夫婦一緒に読み、話し合うことができました」「久しぶりに夫に優しくなれました」「妻に不満ばかりいっていた自分が恥ずかしくなった」などの反響が多く、読者の夫婦仲にも不思議な効果をもたらしたようだ。
 多くの応募者たちは、自分の妻や夫に秘密で手紙を応募したようだ。今さら照れくさくて面と向かって言えない「ありがとう」や「愛している」という言葉も、応募の形だったからこそ素直に書けたのだろう。この本を妻へのプレゼントにした中高年男性も多い。「自分では書けないが、僕からのラブレターだよ」というわけだ。

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プロフィール

おぐにあやこ

Author:おぐにあやこ
名前■おぐにあやこ
生年■1966年 ひのえうま
仕事■07年秋まで新聞記者。仕事を辞めて渡米。11年、新聞記者に出戻り。
趣味■読書、歌、旅
目標■ちょっと背伸びして、
 疑問符を感嘆符に変える事
苦手■勧善懲悪


著書■
▼「薬(ドラッグ)がやめられない 子どもの薬物依存と家族」(青木書店)
「ベイビーパッカーでいこう 赤ん坊とザックかついでスペインの旅」(日本評論社)
「魂の声 リストカットの少女たち」(講談社)
「いいじゃない いいんだよ 大人になりたくない君へ」(共著、講談社)
「アメリカなう。」(小学館)
「アメリカの少年野球 こんなに日本と違ってた」(径書房、ミズノスポーツライター賞)
「?が!に変わるとき  新聞記者、ワクワクする」(汐文社、読書感想画中央コンクール課題図書、高校生の部)

訳書■
「自傷からの回復 隠された傷と向き合うとき」(みすず書房)

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