スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

記事168◆リストカット連載「あした、会えたら」1

■掲載年月日 2004年11月15日
■あした、会えたら リストカットの子どもたち/1

□生きてる価値ない
□「いい子」…深夜に自傷

 「生きてる価値がない」「血をみて死にたい気持ちを落ち着かせてる。消えたい気持ちがなくならない」。自傷に悩む若者が集まるインターネット掲示板に少女(19)は毎晩のように書き込んでいた。

 「消えたい」と手首を切り、赤い血を見ないと死にたい気持ちが抑えられないという。「リストカット」は自らの手首や前腕の皮膚をカッターなどで浅く切る行為で、自殺とは違う。心の中で必死にSOSを叫ぶ。なぜなのか。どうして自分を傷つけないと生きていけないのか……。

   ×  ×

 自傷行為が思春期の女性、特に中高生の間で広まり、医者やカウンセラーへの相談が急増している。90年代に大きな社会問題となった米国では200万人以上といわれ、日本でも数十万人と指摘される。相談に訪れる人は氷山の一角で、昼間は明るい「よい子」を演じ、深夜になって自傷する子が多い。

 東海女子大の長谷川博一教授(臨床心理学)は01~02年、大学・短大計7校の学生約650人を対象に、子供時代の親子関係と現在の行動について約700項目のアンケート調査をした。「リストカットなどの自傷をしたことがあるか」という質問に、女子で7・6%、男子で2・4%が「はい」と答えた。女子では実に13人に1人の割合だ。

 米国の多くの専門家は、自傷者の6割前後が親から身体的・精神的虐待を受けていた、と指摘する。長谷川教授がリストカットと関係の深い要因を調べたところ、親のしつけに関しては、身体的虐待は9位にとどまった。「友人が来ると、親があとでその友人の悪口を言った」が最も強い関係があった。親が友人関係を強く監視したり、コントロールしようとしたことを示す別の2項目も10位までに入った。

 長谷川教授は「幼少期に親、特に母親から強い否定、監視、支配を受け、本当に伝えたいことを押し殺してきた子が多い。中学生くらいまでなら母親への働きかけでリストカットが治まるケースもある」と指摘する。

   ×  ×

 「生きている価値がない」とインターネットに書いた少女に会いたい。掲示板の主宰者に取材の意図を伝え、橋渡しを頼んだ。少女から「会ってもいい」と言ってきたのは今年2月だった。
 待ち合わせ場所のJR大宮駅前で、少女はひざを抱えしゃがみ込んでいた。こちらを見上げた顔が驚くほど白かった。

 少女の名は「ショコラ」。ネット掲示板の参加者の一人が、チョコレート好きの彼女にくれた名前という。

 中学の時のいじめがきっかけで、リストカットを始めた。高校1年のとき、スクールカウンセラーが母親に自傷のことを告げてくれた。「でもお母さんは何も言ってくれなかったんだ。とても寂しかった」

 喫茶店では遠慮した末にホットココアを注文した。「友達はいないの?」と尋ねると、無表情のまま答えた。「ひとりも……」

 5歳年上の姉も母も、いとこも叔母も、名門のお嬢様学校の出身。ショコラも小学校受験をした。「幼稚園のころから、問題が解けないと眠らせてもらえず怒鳴られた」。あの母の声。今も夢に見る。「落ちこぼれて別の高校に行きたいと切り出した時も、大学には行かないって言った時も、『あんたなんていらない』って何度も言われた」
 半導体関連の会社に勤める理系社員の父のことを尋ねると、「印象ない」と言う。「おはよう」「行ってらっしゃい」以外、めったに家族と言葉を交わさないという。

 1週間後の夜、私(記者)の携帯電話が鳴った。「薬、飲んじゃった。消えたい」。ろれつが回っていない。心療内科の処方薬や市販薬を約30錠一気に飲んだという。「お母さんに『家に帰ってこなきゃいいのに』って言われた」
 それから、ショコラの「飲んじゃった」コールが始まった。「消えたいよ……」。弱々しくうめく。「薬を飲む前に電話しておいでよ」と言ったが、「しらふじゃ怖くて電話できない」。心の叫びを言葉にできないから、切らずにいられない。

   ×  ×

 カッターやカミソリで手首や腕などの皮膚を浅く切る「リストカット」や「アームカット」は、主に思春期に始まり20代前半でエスカレートする。行き場のない怒りや悲しみ、孤独や不安が、なぜか血を見ると和らぐ。
 米国の臨床心理学者、トレーシー・アルダーマンさんは「自傷は人が困難と向かい合い、対処し、生き残るための行為です」と自著に記す。自傷する子供たちが「生きるために切る」と言うのはこのためだ。

   ×  ×

 ショコラと会って8カ月が過ぎた。「仲間ができたの」。台風一過で青空が広がった9月下旬、ポケットアルバムを見せてくれた。友達に囲まれてピースサインで笑うショコラが写真の中にいた。「仲間」という言葉を聞くのは初めてだった。心に病を抱える人の支援センターに通うようになり、そこで多くの友達ができたという。

 親元を離れ、今は6畳に小さなキッチンのついた部屋で暮らしている。自傷はまだ続いている。処方薬は強い薬が増えた。傷だらけの左手首から、切る場所が右足首になった。それでも週1回ほどに減った。「やっぱり仲間ができたからかな」

 もう一つのアルバムに、薄水色にチョウを散らした振り袖姿のショコラを見つけた。「えへへ。成人式の写真、一足先に撮っちゃった」。隣には父、母、姉。3人はショコラを包み込むように笑っている。ショコラは母親似なのだと初めて知った。
 「昔はあんなに親を恨んでいたのに。離れて暮らし始めたら、なぜだかそんな気持ちが少し減ってきている」

 無口な父は娘の振り袖姿を見て「きれいだな」とボソッと言った。母は「死んだおばあちゃんもきっと喜んでるよ」と妙にはしゃいでいたという。「お母さん、きっと愛情表現が下手なんだろうな」

 その夜、ショコラからメールが届いた。「寂しい。今夜、久々に泣いちゃってます」。また自分を傷つけようとしている。ショコラからの小さなSOSだった。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

おぐにあやこ

Author:おぐにあやこ
名前■おぐにあやこ
生年■1966年 ひのえうま
仕事■07年秋まで新聞記者。仕事を辞めて渡米。11年、新聞記者に出戻り。
趣味■読書、歌、旅
目標■ちょっと背伸びして、
 疑問符を感嘆符に変える事
苦手■勧善懲悪


著書■
▼「薬(ドラッグ)がやめられない 子どもの薬物依存と家族」(青木書店)
「ベイビーパッカーでいこう 赤ん坊とザックかついでスペインの旅」(日本評論社)
「魂の声 リストカットの少女たち」(講談社)
「いいじゃない いいんだよ 大人になりたくない君へ」(共著、講談社)
「アメリカなう。」(小学館)
「アメリカの少年野球 こんなに日本と違ってた」(径書房、ミズノスポーツライター賞)
「?が!に変わるとき  新聞記者、ワクワクする」(汐文社、読書感想画中央コンクール課題図書、高校生の部)

訳書■
「自傷からの回復 隠された傷と向き合うとき」(みすず書房)

最近の記事
最近のコメント
最近のトラックバック
月別アーカイブ
カテゴリー
RSSリンクの表示
ブログ内検索
RSSフィード
リンク
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。