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記事159◆記者の目「リストカットするあなたへ」

私が初めて新聞に書いたリストカットの記事です。
すでに拙著「魂の声 リストカットの少女たち」(講談社)の原稿がほぼできあがりつつあった時、「それでも新聞記者なんだし、新聞でも書ける場所を探してみよう」と思い、「記者の目」という欄を選びました。この欄は、すべての社員に門戸を開いている欄だったからです。
この記事や、次の記事への反響が大きかったことで、社会面での連載が実現したのでした。


■2004年09月01日
■記者の目:リストカットするあなたへ
■いつか抜け出せる日まで--心の叫び、言葉にして


 今もリストカットを続けているあなたへ。夏休みが終わり、学校が始まりますね。久しぶりの学校で、不安な気持ちでいないか心配しています。

 あなたの思いを理解したくて、私は自傷経験のある10~30代の20人に会ってきました。多くは若い女性です。「生きるために切ってる。何が悪い?」と言われたこともあれば「やめたい」と泣かれたこともあります。浅い傷のついた手首に包帯を巻き、言葉にならないSOSを出す人もいれば、誰にも知られないよう上腕や太ももだけを深く切り裂く人もいました。
 自傷の形はそれぞれ違っているけれど、一つだけ共通していたことがあります。リストカットは言葉にできない「心の叫び」だということ。自傷以外の方法で「叫び」を表現できるようになるまで、切らねば生きていけないのですね。

 あなたは一人ではありません。東海女子大の長谷川博一教授(臨床心理学)が2~3年前、7大学の学生を対象にアンケートをしました。有効回答数654人のうち女子で7・6%、男子でも2・4%の人に自傷経験がありました。女子では13人に1人です。首都圏の私立中高校の養護教諭は「毎日必ず一人はリストカットした子が保健室に来る」と教えてくれました。

 切る理由は一人ひとり違います。「親がわかってくれない」と10代の少女たちは言いました。でも親に本音でぶつかったことはありません。嫌われるのが怖くて親の前では「よい子」の仮面を必死にかぶっているのです。いじめがきっかけだった子もいます。ある男子中学生は友達に「キモイ」と言われるたびカッターで手首を切っていました。心の悩みを打ち明けられる友達は一人もいない、と言いました。
 深刻なのは幼少期に親から虐待を受けた人たちです。米国の専門家は「自傷者の6~7割が被虐待者」と説きます。実際、私の会った人の半分近くは虐待のトラウマに苦しんでいました。

 あなたはどんなときに切りますか。切ると落ち着きますか。私の出会った人たちはみな「血の色になぐさめられた」「血だけは裏切らない」と言いました。
 自傷は自殺未遂の亜種でも周囲の関心を引くための行為でもありません。爆発しそうな怒りや悲しみを一時的に抑え、感情を制御するための行動です。だからやめるのはとても難しい。

 あなたはたぶん切っても痛みを感じないでしょう。多くの人がそうです。解離という現象のためです。長い間自傷を続ければ、エスカレートしていきます。何針も縫う傷を何本もつけたり、1リットル近い血を注射器で抜いたり、皮下脂肪が焦げるまで肌を焼いたり……。以前のやりかたでは効かなくなるのです。

 寂しいから自傷する。自傷するたび、誰にも言えない秘密が増えていく。だからさらに孤独になり、また切ってしまう――。多くの人がこの悪循環に陥って、抜け出せずにいます。

 あなたはクスリに頼ってはいませんか? 私の会った20人のうち12人までが心療内科や精神科の処方薬の大量服薬、つまり一気飲みを繰り返しています。「クスリ、飲んじゃった」という涙ながらの未明の電話を何度受けたことでしょう。

 切ることでどうにか生きていけるのなら、今は切ったっていい。少しずつ、自傷以外の方法を見つけていけばいい。でも大量服薬はやめてください。後戻りがとても難しいから。

 自傷は伝染します。米国のある研究者は自傷がよく見られる場所として刑務所と精神病院の入院病棟を挙げました。「自由を抑圧された空間で他人の自傷を目にする機会が多い」のが理由です。今のネット社会とどこか似ていませんか。
 血まみれの手首の写真がネットで公開され、あるいは携帯メールで友だちから届き、「死にます」宣言が繰り返されるネットの世界は時に危険です。見ているうちに切りたくなること、ありませんか?

 もちろん「メル友」も大切な出会いです。最初はメル友でも、カウンセラーでもいい。できるだけ多くの人と出会いを重ねてください。人との距離を取るのは難しい。誰かに思い入れ過ぎて避けられたり、裏切られることもあるでしょう。でも傷つきながら重ねる出会いの一つひとつがあなたの力になるはずです。いつか自傷に頼らず、心の叫びを言葉にできる日がきっときます。

 17歳で自傷を始め、しばらくやめられなかった私がえらそうなことは言えないけど。でも私は多くの出会いに救われました。

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プロフィール

おぐにあやこ

Author:おぐにあやこ
名前■おぐにあやこ
生年■1966年 ひのえうま
仕事■07年秋まで新聞記者。仕事を辞めて渡米。11年、新聞記者に出戻り。
趣味■読書、歌、旅
目標■ちょっと背伸びして、
 疑問符を感嘆符に変える事
苦手■勧善懲悪


著書■
▼「薬(ドラッグ)がやめられない 子どもの薬物依存と家族」(青木書店)
「ベイビーパッカーでいこう 赤ん坊とザックかついでスペインの旅」(日本評論社)
「魂の声 リストカットの少女たち」(講談社)
「いいじゃない いいんだよ 大人になりたくない君へ」(共著、講談社)
「アメリカなう。」(小学館)
「アメリカの少年野球 こんなに日本と違ってた」(径書房、ミズノスポーツライター賞)
「?が!に変わるとき  新聞記者、ワクワクする」(汐文社、読書感想画中央コンクール課題図書、高校生の部)

訳書■
「自傷からの回復 隠された傷と向き合うとき」(みすず書房)

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