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★自立クライシス (著・金子由美子)

★自立クライシス 保健室からの思春期レポート (著・金子由美子)

子どもたちの抱える現実を、学校の中で最も肌身に染みてしっているのは、保健室の養護教諭だと思う。特にリストカットの取材をしていると、それを痛感する。
だから保健室関連の本は、できるだけ手に取るようにしているのだけれど、経験と具体例の豊かさでは、この本はものすごく内容が濃いと思った。

いくつか面白い視点も提供している。

人間関係トラブルに対処する力が著しく乏しく、自信がない子は、むしろおとなしめの男の子に多い、という指摘。
著者はその背景について、「言葉でやり合い、話し合いで解決しようとする女の子に比べると、男の子は暴力的、攻撃的な行動が目立つ。だが、ケガをしたり持ち物を壊されたりすると物証が残るために、すぐ『事件』となってしまう。親が相手の家に直接抗議に行くこともある。学校でも『危機管理』意識が高まり、たいしたことがないと思われるような事件でも、担任教員が介入して『解決』してしまうことが増えている」と説明する。
つまり、男の子のトラブルは分かりやすい分、小学生のころからやたら親や先生が介入してしまうため、子ども同士で解決する力が特に男の子の間で育たないのではないか、という指摘だ。
やはり、トラブルを自分で解決する力というのは、小さいころからの積み重ねなんだろうな、と思った。

もう一つは、なぜ学校が被虐待児を発見するのが難しいか、という理由。
「親に嫌われるのを恐れて暴力に耐えている子どもたちは、勉強も運動もせいいっぱいに頑張ってしまう。友だちとのトラブルも回避し、極力目立たず、『普通』『優等生』の学校生活を送っている」
「虐待を受けている子は、親の権力的な支配に脅えている。その親と、管理的で厳格なタイプの教員とは、高圧的なイメージが重なり、心を開くことができないことが多い。また、気が向いた時にだけかわいがる、親の身勝手な優しさにも不信感を持っているため、優しいタイプの教員にも期待することができない」
非常に的を射た指摘だと思いました。

興味深かった指導例を2つ。

一つは、中学1年の時から、休み時間になると担任を追っかけて、「男子にいじめられる」などと毎時間のように耳打ちする女子生徒の話。特に一人の男の子の名前を挙げ、「授業中うるさかった」「先生に口答えした」などと校則違反や規則違反について毎日訴えるようになり、級友たちは、何でも告げ口しちゃうこの女子生徒にうんざりしている様子。
ある時は、ちょっと鞄にぶつかられただけなのに、大げさに倒れて見せ、親にも報告したらしく、母親は「いじめがおさまるまで学校に行かせない!」と大変な剣幕に。
しばらくは保健室登校が続くようになりました。
保健室では、クラスメートや小学校時代の先生の批判を延々としゃべりつづけ、ほかの生徒が養護教諭と会話しようとすると嫉妬し、「私の話、聞いてないでしょ!」と怒り出すしまつ。
さて、こんな女の子のことを、著者はどう指導したか。
なんと著者は、女子生徒を相手に、「私はあなたと話していて楽しくない時もあるのよ。人に話しかけるにはルールがあって、相手の人に話を聞いてらう時間があるかどうか、確認しなくっちゃだめなんだけど、あなたは保健室がどんなに忙しそうでも、かまわず自分の話ばかりするでしょ」とズバリ言ってしまうのです。
そして、この一言を突破口に、彼女の心を開いていくんですね。
やっぱりプロだなあ……と。

もう一つは、プライバシーを教える話。
友だちがいないと不安な子、一人でいられない子、友だちとの距離を測れない子が増えている、というのは、自傷取材をしていると、そのものズバリで感じる話ですし、私もかつて、そういう部分があっただけに、冷や汗タラタラなのですが。
そういう子たちの中には、ついつい、友だちに物理的に近付きすぎて、肌感覚としてうっとうしいと思われちゃう子がいるそうです。
そんな子たちにどう指導するか。

「人とは30センチの距離を取りなさい」と具体的に30センチの物差しを持ち出して、教えてやるんだそうです。それより近付くと、息づかいまで聞こえる。鼻息までかかる。他人にはこれ以上近付かれたくない、という距離があるんだよ、それ以上近付くと他人から警戒されちゃう。遠すぎても心が伝わらないけれどね、と。
いやはや、うまいなあ、と思ってしまった。

また、著者は「開かれた保健室」をモットーにしているようで、常時、何人もの保健室登校の子たちがいる状態で、子ども同士の「ピア・カウンセリング」が生まれる空間を上手に演出している点には、すっかり感服しました。

というのも、リストカットなどの取材をしていて、よく養護教諭から聞かされる話に、「少子化で子どもの数は減ったけど、保健室に来る子の数は増えるばかりで、おまけにそれぞれの子が以前より個別に話を聞いてもらいたがるため、ものすごく仕事が大変になった」というのがあるんです。
でも、著者の保健室では、まるで飽和状態みたいに生徒があふれかえっている中でも、なんとなしに、それぞれの子に居場所があって、何となしに、お互いの悩みを聞きかじり、何となしにそこに人間関係が生まれ、気付けば子ども同士で支えあったり、励まし合ったりといった仲間意識が築かれていく。
これは、もう、非常に高度な保健室運営だ、と感じました。

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養護教諭

長女がこの春、社会人になりました。仕事は保健室の先生です。「最後の砦」という朝日新聞の見出しを餞にあげました。金子さんのようなプロに育ってくれればいいなぁと思っています。

>もう一つは、なぜ学校が被虐待児を発見するのが難しいか、という理由。
>「親に嫌われるのを恐れて暴力に耐えている子どもたちは、勉強も運動もせいいっぱいに頑張ってしまう。友だちとのトラブルも回避し、極力目立たず、『普通』『優等生』の学校生活を送っている」

うぅっ!
その視点、ぜんぜんなかったです。
そしてこのあとの視点も。。。

>「虐待を受けている子は、親の権力的な支配に脅えている。その親と、管理的で厳格なタイプの教員とは、高圧的なイメージが重なり、心を開くことができないことが多い。また、気が向いた時にだけかわいがる、親の身勝手な優しさにも不信感を持っているため、優しいタイプの教員にも期待することができない」

勉強になりました。
私自身、わかってないことがたくさんあるんだと実感。
当たり前のことだけど、忘れてしまって、わかったつもりになっちゃうんですよね。

冷奴さん。

なんとなんと!!!
長女さんは、養護教諭になられたのですか。
子どもと関わる仕事の中では、最も大変で、もっともやりがいのある仕事の一つかもしれませんね。

子どもとの関係だけならまだしも、校長や担任教師などと上手に連携が取れないと、孤立しやすいお仕事でもあり、保健室にいながら、同僚や上司とのコミュニケーション能力が問われちゃうし。
親と生徒の板挟みにもなりやすいし。
日々のご苦労を思うと、もう、頭が下がります~。

くぼたさん。

>うぅっ!
>その視点、ぜんぜんなかったです。

そうなんです。
私も、この手の取材を結構してきたつもりで、ああ、盲点だったなあ、と。
点ではなく、線で、時間をかけて取材しないと見えないことってあるんだよな、と自戒したところです。

> 「親に嫌われるのを恐れて暴力に耐えている子どもたちは、勉強も運動もせいいっぱいに頑張ってしまう。友だちとのトラブルも回避し、極力目立たず、『普通』『優等生』の学校生活を送っている」

これって、ちょい流行遅れかもしれませんが、AC(アダルト・チャイルド)の「ヒーロー」「世話役」タイプに相当するような気がするのですが?
(参考:http://www.ask.or.jp/actype.html

> 「虐待を受けている子は、親の権力的な支配に脅えている。その親と、管理的で厳格なタイプの教員とは、高圧的なイメージが重なり、心を開くことができないことが多い。また、気が向いた時にだけかわいがる、親の身勝手な優しさにも不信感を持っているため、優しいタイプの教員にも期待することができない」

あ゛~、これって子供時代のアタシだぁ!わかるわかる(苦笑)。

いろんな立場の方々の、いろんな意見や視点を、素直に誠実に謙虚に聞ける自分でありたいですね。
一人でわかることや知ることは限られてるしね。

>点でなく線で、時間をかけて

時間をかけるのは、エネルギーがいるけど、あきらめずにいたいです。

U子さん。

そういう子ども時代だったんですねえ。知らなかったっす。

くぼたさん。

そうですねー。
無理せず、無理せず、時間をかけよう、って感じでしょうか。

読みましたよ

著者は、こども達の力を本当の意味で信頼できている先生だなぁと、本当に感心しました。
子どもが動き出すのを待って、力を引き出す。

子ども達だけじゃなくって、大人同士の信頼関係についても少し触れてありましたが、信頼しあうことが難しくなってきているな、と自分を振り返っても思いました。

まず大人同士が信頼しあえる関係を築けないとね。
あまり馬のあわない同僚や、上司とも信頼でつながる努力をしようと、この本を読んで思いました。
と思いつつ、今も上司の愚痴を言っていたところですが・・・
修行が必要なようです。

プロフィール

おぐにあやこ

Author:おぐにあやこ
名前■おぐにあやこ
生年■1966年 ひのえうま
仕事■07年秋まで新聞記者。仕事を辞めて渡米。11年、新聞記者に出戻り。
趣味■読書、歌、旅
目標■ちょっと背伸びして、
 疑問符を感嘆符に変える事
苦手■勧善懲悪


著書■
▼「薬(ドラッグ)がやめられない 子どもの薬物依存と家族」(青木書店)
「ベイビーパッカーでいこう 赤ん坊とザックかついでスペインの旅」(日本評論社)
「魂の声 リストカットの少女たち」(講談社)
「いいじゃない いいんだよ 大人になりたくない君へ」(共著、講談社)
「アメリカなう。」(小学館)
「アメリカの少年野球 こんなに日本と違ってた」(径書房、ミズノスポーツライター賞)
「?が!に変わるとき  新聞記者、ワクワクする」(汐文社、読書感想画中央コンクール課題図書、高校生の部)

訳書■
「自傷からの回復 隠された傷と向き合うとき」(みすず書房)

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