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★でっちあげ (著・福田ますみ)

★でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相 (著・福田ますみ)

なんとも重たいノンフィクションを、一気読みしてしまった。
小学生の男児が担任教師から「早く死ね、自分で死ね!」と執拗に言葉や暴力によるいじめを受け、PTSDにより長期入院を強いられ、自殺未遂を起こした、として、男児の両親が担任教師を相手取り民事訴訟を起こした件を取材した本。
「全国ではじめて『教師によるいじめ』が学校や市教委から正式に認定された事件」として有名だ。

初報は朝日新聞。「小学4年の男児の母親が担任教師から家庭訪問を受けた際、自分の曾祖父が米国人だと話した途端、担任の男性教諭がその男児を執拗にいじめ、これがもとで、教諭は学級担任を外された」というのが記事の内容だった。
これを各紙が追いかけ、ワイドショーが報じ、「いじめ教師」の話題は一気に全国へ。教師は停職6カ月の処分を受け、最後は「被害児童」の両親が多額の賠償金を求め、民事訴訟に持ち込んだ、という展開。

しかし、訴訟の過程で、実は母親の親戚にそもそも米国人などいなかったこと、重篤なPTSDだとした医師の診断が実は母親の訴えの上にしか成り立たないこと、などが明らかになり、最後は、PTSDを招くほどの暴力やいじめの存在は判決で否定された、という。

一人のエキセントリックな保護者の抗議に、浮き足だった校長や教頭が冷静に情報収集することを怠り、担任教師に「やったんだろう。正直に謝罪したほうがいい」とせっつき、説得し、担任教師も「保護者の言い分が理不尽でも、保護者との関係を決定的に破綻させてはならない」という思いから、一部認めているうちに、学校や市教委が早々に「いじめ・暴力はあった」と認定してしまった、というのが、著者の取材した結果、見えてきた真相だったのだという。

この教師の代理人を務めた弁護士の見立てによると、片づけの苦手な男児が母親になじられ、責められた際、精神的に追いつめられて、自分がこれ以上怒られないように、教師を悪者にし、母親にウソをついたのが、一連の「全国初認定のいじめ教師」騒動の始まりだった、というから、切ない。
この本を読んでいて一番いたたまれなかったのは、母親の期待に沿うために、どんどんとウソの証言をエスカレートさせるしかなかった男児の姿だ。

この本は、子育て中の母親、教師、弁護士など、色々な立場の人が読んで、それぞれにいたたまれなくなる本だと思う。
まして、メディアに属する者ならば、特に。

結果的に、初期に報道された中身のほとんどが、後に裁判で否定されたことになる。
この本の著者は、当時、報道に関わった新聞や週刊誌の記者に取材している。中には、保護者側のエキセントリックな訴えを丸ごと信じ、続報を重ねた記者もいる。多くの記者が当時、教師による体罰やいじめを信じて疑わず、報道したのだ。

ものすごく怖い話だ。
想像してみる。保護者から、切々とあまりにひどい教師の体罰といじめを聞かされたとする。学校を取材すれば、校長は「いじめや体罰は確かにありました」という。
市教委は教師によるいじめである、と全国で初めて認定している。さらに、専門の医者が記者会見まで開いて、「男児は重篤なPTSDだ」と断定する……。

私がその取材現場にいたとして、同じように「いじめ教師」の記事を書かなかっただろうか?
正直言って、自信がない。

著者は、「真相を探る方法はほかにもあった」と書く。
少しでも小学校周辺を取材し、親や子どもたちの話を聞けば、そんな一方的な話にはならなかったはずだ、と。
正しいと思う。

もしも校長が、市教委が、いじめや体罰の存在を隠蔽したり、否定したりすれば、私は、がむしゃらに近辺を聞き込むだろう。そうやって、自分の眼と耳と勘をフル回転させて、真実に迫ろうとするだろう。
でも。
校長や市教委があっさり認めてしまっていて、おまけに医者が「PTSDです」と断言してしまっている時、同じような丁寧な取材を果たして私は常にできるだろうか、と自問する。

いっぱい落とし穴はある。
思いこみ。
思い入れ。
下手な正義感。
偏見。
先に話を聞いてしまった相手への強すぎる共感。
さらには、
時間のなさ。
もっと正直に言えば、普段なら当然踏むべき手順を、プライベートな予定(自分の子育てを含めて)や体調不良、テーマの好き嫌いや興味関心の違いで、つい、怠ってしまうことだってある。
うん。
あった。

しみじみと、怖い仕事だなあ、と、ただひたすらに、襟を正すのみ。

一時は「いじめ教師」「殺人教師」とまでレッテル張りされた担任教師は訴訟の陳述書の中で、「今の時代、残念ながら、担任と保護者の関係では、担任の方がものを言えません」と、一時は体罰やいじめをみとめ、保護者に謝罪してしまった理由を述べている。

どんな権威が認定した「事実」でも、本人が認めた「事実」でも、真実ではないことがあるんだ、と改めて肝に銘じました。

著者はあとがきで、「私が、この事件の深層に少しでも肉薄することができたとすれば、川上(教師)に長時間話を聞けたことが大きい。さらに、それに先立つ聞き込みによって、既存の報道から受けた先入観を払拭し、ニュートラルな気持ちで取材に臨めたことも幸いした。この幸運がなければ、私もまた、川上を体罰教師と決めつけた記事を書いていたかもしれない。その差はほんの紙一重だ」 と書いている。

確かに「紙一重」。
でも、「紙一重」の差って、ものすごく薄いようで、実はそうでもないんだ。
それをひたすら、心に叩き込んだ夜でした。

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教師によるいじめについて

[book][本][media][教育]「血が穢れている」覚えてます? 本棚 ...と思いそうなものであるのですが(もっとも、尋常ではないから大ニュースになるですけど)、仮に自分が取材者であれば、校長が体罰(程度は別として)を認めていたこと、市教委が全国で初めて教師によるいじ

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でっちあげ、その後

拙著、「でっちあげ 福岡殺人教師事件の真相」をお読みいただき誠にありがとうございます。著者の意を汲み取っていただき感謝しております。
さて耳寄りな情報が一つ。原告側親子は、3月5日付で教諭への控訴を取り下げました。しかし、福岡市との控訴審は続行する構えです。詳しくは、「公式サイト新潮社」の下段、更新情報の「でっちあげ事件、その後」を参照ください。今後とも、この事件に関心をお寄せいただければ嬉しいです。

福田ますみさん。

著者の方のご登場、ありがとうございます。
本当にいろいろと考えさせられた本でした。

公式サイト、拝見しました。
今後もチェックさせていただきます!
プロフィール

おぐにあやこ

Author:おぐにあやこ
名前■おぐにあやこ
生年■1966年 ひのえうま
仕事■07年秋まで新聞記者。仕事を辞めて渡米。11年、新聞記者に出戻り。
趣味■読書、歌、旅
目標■ちょっと背伸びして、
 疑問符を感嘆符に変える事
苦手■勧善懲悪


著書■
▼「薬(ドラッグ)がやめられない 子どもの薬物依存と家族」(青木書店)
「ベイビーパッカーでいこう 赤ん坊とザックかついでスペインの旅」(日本評論社)
「魂の声 リストカットの少女たち」(講談社)
「いいじゃない いいんだよ 大人になりたくない君へ」(共著、講談社)
「アメリカなう。」(小学館)
「アメリカの少年野球 こんなに日本と違ってた」(径書房、ミズノスポーツライター賞)
「?が!に変わるとき  新聞記者、ワクワクする」(汐文社、読書感想画中央コンクール課題図書、高校生の部)

訳書■
「自傷からの回復 隠された傷と向き合うとき」(みすず書房)

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