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記事114◆サーカスを見に行く、の記事

子どものころ、木下大サーカスを家族で見に行ったんだ。
それがあまりに懐かしくて。
つい、むきになって取材しちゃった。
そんな記事。


■掲載年月日 2002年12月25日
■木下大サーカス、100周年
■今年最後の夢を見物
■高みを目指す技と芸--今日より明日

 赤いテントが目に入った瞬間、郷愁で胸がいっぱいになった。幼い日、心ときめかせて見た木下大サーカス。100周年を迎えたという2002年の暮れ、千葉・幕張の赤テントに、今年最後の夢を見に行った。

 赤いテントの中では、古典芸「7丁椅子」が演じられていた。高さ2・5メートルの台の上に七つの椅子を積み上げ、傾いた椅子の上で逆立ちする。椅子がぐらぐら揺れるたび、観客は悲鳴すら上げられず、息を詰める。

 演じているのは中園栄一郎さん(30)。19歳の時、空中ブランコに一目ぼれして入団した。道具置き場にホコリの積もった古い椅子を見つけた時、先輩から「昔、7丁椅子って芸があったんだ」と聞かされた。すでに演じる者もなく、ビデオも残ってなかった。手探りで技を復活させるのに3年かかった。
 スポットライトの中で、逆立ちの技が決まった。緊張に満ちた沈黙が一転、拍手喝さいへと変わる。この瞬間が中園さんは一番好きだ。

 ▲テント裏は生活の場▽▲

 まばゆいほどに華やかなテントも、裏側に一歩出るとそこはもう生活の場だ。雨上がりでぬかるんだ無舗装の地面に40以上の白いコンテナハウス。そして動物用のオリ。約60人の団員と、キリンやライオンなど8種21頭の動物が一緒に暮らしている。
 昔はテントをベニヤ板で仕切って住んだものだが、今は冷暖房完備のコンテナに変わった。食事は主に弁当。共同炊事場もある。風呂は順番だ。幼児から中学生まで7人の子供がここに暮らしている。昔はもっと多かったが、年に3~4度も転校するため、いじめや勉強の遅れを案じ、子供が学齢期を迎える前に母親が退団し、定住するケースも増えているそうだ。

 空中ブランコ乗りの久保田千都世さん(35)は4歳、小学3年、中学生の3人の子をここで育てている。「上の子が小学校に入学した時、退団も考えました。子供を犠牲にはできないから。でもあのころ、仕事が一番楽しい時期でどうしても辞められませんでした」
 揺れる妻を支えたのは、サーカス育ちの団員で夫の勝人さん(38)の言葉だった。「大丈夫。僕は親とサーカスで一緒に暮らせてよかった。楽しかった。転校だって今ではいい思い出だ」

 今、中1の息子は全国に友だちがいる。「お母さん、きれいだったよ!」。千都世さんが舞台を降りると、時折子供たちの声が飛んでくる。

 ▲観客数世界一目指す▽▲

 木下サーカスは中国・大連で1902年、軽業や曲芸中心に旗揚げした。ロシア巡業で空中ブランコを覚え、大正時代には動物を加えて発展。戦後も50年代から海外公演を行ってきた。

 サーカスを取り巻く状況は厳しい。娯楽の少なかった50年前、国内に40もあったサーカスが、今はわずか3団体。テレビの登場がサーカスを斜陽産業に押しやったのだ。世の中が豊かになるにつれ、入団希望の若者も減った。そんな中、「木下」は新人を積極的に育て、海外からも人材をスカウトし、順調に観客数を伸ばしてきた。現在年間120万人。米国リングリング・サーカスに次ぐ世界第2位だ。4代目の木下唯志社長(52)は「次の100年で世界一を」と夢を語る。

 さらに最近、サーカスに夢を求める若者が増え始めている。就職難も背景にあるのかもしれない。「普通の会社員になりたくない」「手応えのある仕事をしたい」「人々に夢を与えたい」。そんな具合だ。

 高校の体操部出身で昨年入団した高岡由侑(よしゆき)さん(19)は「僕にしかできない芸を生みたい」が夢。今年入団した木下英樹さん(23)は社長の二男だが現在、下積み期間中。テントの外で切符を切りながら「夢は空中ブランコ」という。
 サーカスには、夢を持たない人はいない。「夢いっぱい」はサーカスのお決まりの形容詞だが、テントを満たす「夢」は実は団員たちの技にかける思いなのかもしれない。

 ▲やっぱりここが一番好き▽▲

 フィナーレは空中ブランコだ。右から左、左から右。10人近い団員が自在に飛ぶ。久保田夫妻の姿ももちろんあった。口べたなんだ、と逃げ続け、ほとんど話をしない勝人さんに尋ねたことがある。サーカスをやめよう、と思ったことはありますか――。

 「僕は小さいころからサーカスの世界しか知らない。だから外の世界を見たいとは何度も思った。でも結局外に出なかった。ここが一番好きなんだ。子供も僕らのサーカスを見ればきっと分かってくれる。だって、僕もテントで父さんの背中をずっと追いかけてきたんだから」

 昨日より今日、今日より明日。
 高みを目指し続けるサーカスの夢は、とてもまぶしくて、なぜか心に染みた。

 終演。出し物がすべて終わっても、観客の拍手はしばらくやまなかった。子供よりも、大人の方が幸せそうな顔をしていた。夢が必要なのは、子供より大人の方なのかもしれない。


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プロフィール

おぐにあやこ

Author:おぐにあやこ
名前■おぐにあやこ
生年■1966年 ひのえうま
仕事■07年秋まで新聞記者。仕事を辞めて渡米。11年、新聞記者に出戻り。
趣味■読書、歌、旅
目標■ちょっと背伸びして、
 疑問符を感嘆符に変える事
苦手■勧善懲悪


著書■
▼「薬(ドラッグ)がやめられない 子どもの薬物依存と家族」(青木書店)
「ベイビーパッカーでいこう 赤ん坊とザックかついでスペインの旅」(日本評論社)
「魂の声 リストカットの少女たち」(講談社)
「いいじゃない いいんだよ 大人になりたくない君へ」(共著、講談社)
「アメリカなう。」(小学館)
「アメリカの少年野球 こんなに日本と違ってた」(径書房、ミズノスポーツライター賞)
「?が!に変わるとき  新聞記者、ワクワクする」(汐文社、読書感想画中央コンクール課題図書、高校生の部)

訳書■
「自傷からの回復 隠された傷と向き合うとき」(みすず書房)

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