スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

■エリック・ハイドシェックのピアノリサイタル@朝日浜離宮ホール

■エリック・ハイドシェックのピアノリサイタル

ハイドシェックが最初にすごいと思ったのは、前回の発表会に弾いたシューベルト即興曲90-4の研究をしている時。ツィメルマンに内田光子にルプー。本当に色々な人の演奏を聞き比べたけれど、ハイドシェックだけが「変」だった。

変、というのは言い当たらないか。
ハイドシェックの90-4は、A-B-A構成のうち、最後のA部分で、いきなり、右手のメロディーを抑え、左手の和音伴奏の中に新しいメロディーが立ち上がるのです。

実は即興曲90-3はもっとすごい。
90-4の場合は「意外性」の美しさだけれど、90-3は歌の美しさ。
そもそも天上の曲のように美しい作品なのだけれど、これも左手にとんでもなく美しい、切ないメロディーが生まれ、「な、なんだっ! これはっ!」と。

宇和島ライブで最初にこれをやった時、観客が自宅に戻って楽譜とにらめっこしたとか、そういう逸話も聞いた気がする。

んなわけで、今回は、ハイドシェックを聴きに行きました。
実は、同じ日に、セルゲイ・シェプキンがバッハの作品を弾く、というコンサートが墨田トリフォニーホールであって、すごく迷った末、先にチケットを確保していたハイドシェックのほうを選んだ、という経緯もありました。

さて。ハイドシェックのこの日のプログラムは。

モーツァルト:ロンド イ短調 K.511
モーツァルト:ソナタ第12番 ヘ長調 K.332
ベートーヴェン:ソナタ第17番 ニ短調 「テンペスト」
フォーレ:ノクターン第9番 ロ短調
フォーレ:ノクターン第10番 ホ短調
ショパン:舟歌 嬰ヘ長調 Op.60
ドビュッシー:「前奏曲集 第2集」より“ビーノの門”
ドビュッシー:「版画」より“グラナダの夕べ”
ドビュッシー:「前奏曲集 第1集」より“さえぎられたセレナード”

ところが、最初の「ロンド」で、正直なところ、「あちゃー、やっぱりシェプキンに行くべきだったか」と思ってしまいました。
CDで聴いてる分には、うちのプレーヤーやスピーカーの質の悪さのせいもあるのですが、音の響きの善し悪しなんてそんなに気にならないのです。だからリズムの揺らし方とか解釈の意外性とかをつい重視しちゃう。
でも、こうして生で聴くと、ハイドシェックの音は決して私の好きな音ではなかった。タッチが不明瞭なモーツァルトというのも私の好みとは違う。

次のK332は、とても比較的好きな音色だったこともあり、少し気を取り直しました。
が、問題のテンペスト。
ハイドシェックといえばテンペスト、といわれるほどの彼の代表作だったりするわけですが、私の知識のなさもあるでしょうし、何よりすでに小姑のようになってしまっていた私の心には、ミスタッチばかりが目立ち、正直言って、気持ちが乗れませんでした。

それなのに、前半最後のこの曲が終わった途端、派手にスタンディングオベーションしちゃうお兄ちゃんとかもいて。
「私が全然理解できないだけ?」と、よけいに自分の気持ちが冷めるばかり。

ただ、後半のドビュッシーは私は好きでした。
フランス人の彼が、フランスものを弾くと、不思議とただのフランスものに終わらない、という音の色彩の不思議な感じが。

でもでもでも。
最後の最後に私が、「やっぱりハイドシェックを聴きにきてよかった!」と心底思ったのは、アンコールの時かもしれません。
なんとなんとなんと!
バッハ!
(あとで聞くと、鍵盤協奏曲第5番だそうです。実は最後の曲もバッハかと?思っていたら、左手のための自作曲の「バッハ風」だそうで)

こんなバッハ、初めて聴いた、と思いました。
「こんなのバッハじゃない!」と嫌う人も絶対にいると思う。
でもね、私はこのバッハを聞いて、しみじみ感じたのです。

ああ、この人はただひたすらに歌いたいんだ、って。
楽譜をきちんと読んで、再構成しながら、音を創り出していくのも、時にとんでもないところからありえないようなメロディーが立ち上る不思議さも、この人がピアノで歌うことをとても大切にしているからなんだ、って。

難しいことはわかりません。
でも、あんなに揺れる、あんなにロマンチックな、あんなに感情豊かなバッハは、本当に初めてでした。
同じように弾きたいかと言われたら、自分がバッハを弾く時に求める音とはぜーんぜん違うけど、でも、「このバッハを聞くために、私は今ここにいるんだ!」と素直に演奏を聴けたことに感謝できました。

そろそろ70歳くらいのおじいちゃん?
いつまでもお元気で! と最後は素直に拍手してしまいました。
スポンサーサイト

トラックバック


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

嬰ヘ長調について

嬰ヘ長調

コメントの投稿

非公開コメント

ハイドシェックの演奏

 おぐにあやこさん、はじめまして。3月2日私も聴きに行ってきました。私はモーツアルトが良くないと思いました。テンペストも一楽章の提示部は駄目。展開部からやっと調子が出ました。
 後半は良かったと思います。フォーレやドビュッシーは良くて当たり前なのですが、ショパンの美しさには驚きました。
 宇和島ライヴのような凄みはありませんが、苦難を乗り越えてまた新境地を見出したような気がいたします。正に完熟の演奏と言えるでしょう。今後が本当に楽しみでず。
 来年の6月6日はサントリー・ホールでリサイタルが行なわれます。今からワクワクします。
プロフィール

おぐにあやこ

Author:おぐにあやこ
名前■おぐにあやこ
生年■1966年 ひのえうま
仕事■07年秋まで新聞記者。仕事を辞めて渡米。11年、新聞記者に出戻り。
趣味■読書、歌、旅
目標■ちょっと背伸びして、
 疑問符を感嘆符に変える事
苦手■勧善懲悪


著書■
▼「薬(ドラッグ)がやめられない 子どもの薬物依存と家族」(青木書店)
「ベイビーパッカーでいこう 赤ん坊とザックかついでスペインの旅」(日本評論社)
「魂の声 リストカットの少女たち」(講談社)
「いいじゃない いいんだよ 大人になりたくない君へ」(共著、講談社)
「アメリカなう。」(小学館)
「アメリカの少年野球 こんなに日本と違ってた」(径書房、ミズノスポーツライター賞)
「?が!に変わるとき  新聞記者、ワクワクする」(汐文社、読書感想画中央コンクール課題図書、高校生の部)

訳書■
「自傷からの回復 隠された傷と向き合うとき」(みすず書房)

最近の記事
最近のコメント
最近のトラックバック
月別アーカイブ
カテゴリー
RSSリンクの表示
ブログ内検索
RSSフィード
リンク
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。