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★わたしを離さないで (著・カズオ・イシグロ)

★わたしを離さないで (著・カズオ・イシグロ)

文学好きにはたまらない1冊です。
(ならばもっと早く読んでおけよ、と自分を叱責してしまうほど)。
テーマや、あらすじの一かけも、ここに書いてしまうと、将来の読者の読書の醍醐味を損ねてしまいそうで、とても慎重になってしまいます。

テーマや素材に触れずに、それでもできるだけのことを書いてみるなら、この本は、何より、カズオ・イシグロ氏の独特の世界をしみじみと味わうところに醍醐味があるなあ、ということ。
テーマや素材だけで言えば、例えば、「二十世紀少年」の漫画家浦沢直樹さんが書けば壮大な冒険物語にだってなりえるし、萩尾望都さんが書けば甘美な思春期コミュニティーの世界が描かれるのだろうし、生命倫理の立場からの告発小説にだってなりえるし、主人公たちに与えられた「運命」や「役割」に対し、立ち上がり、叛乱を起こすような歴史SF小説にだってなりえるはず。

それだけの可能性を持つテーマなのに、カズオ・イシグロ氏が描くこの物語の世界のいかに静謐なこと。
「運命」にも「役割」にも受容的で、たとえ悩んだとしても、心が荒れたとしても、それはあくまで自分や自分のほんの周辺だけに向けられる。
そんな主人公に不思議なリアリティーを感じるのはきっと、結局のところ、自分たちの生きる世界や、自分自身も、ああ、たぶん、そんな風なのだろう、と思い当たる部分がたくさんあるからなんだろう。

「私とは何なのか」という自問など入り込む余地もないような救いのない自分の運命や役割を、どんな風に人は受け入れるのか。
根拠のない噂が救いとなっていくさま。
閉じられた世界で、どんな大きな運命を前にしても、心を閉める小さなあれこれ。

これはすごいっ!と興奮していたら、邦訳出版前に原書で読んだ、という知人から「これはぜひ原書で読むべし」と言われた。
うむむ。そりゃ、そうだろうが。
この分厚さの本を原書で読もうと思ったら、私なら2週間はかかるだろうしなあ。

でも原書で読むことの意味をひしひし最近感じたのは、大好きなカニグズバーグの作品を今、少しずつ原書で読み始めているからかも。
一番好きな「13歳の沈黙」を昨夜、原書で読み終わりましたが、邦訳では心に残らなかった言葉の一つ一つが響くし、ラストシーンではぽろぽろと泣いてしまいました。

10歳くらいの少年が主人公の話なので、もしかしたら、邦訳を読んだ時より、自分の息子の年齢が主人公に近付いているから、より心に切なく響いたのかもしれませんが。

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カズオ・イシグロは、原書で「私達が孤児だった頃」を読んだことがありますが、そう、静謐っていう言葉がぴったりですよね。

でもそれまで児童書の類しか原書で読んだことがなかったので(恥)、語彙が豊富で、けっこうつらかったのと、やや話の流れが強引で、なんで、それだけの証拠でそこに行くのさ、とか、何も言わないでおいてけぼりかい、とか、わからないなりにつっこみたくなるんですけど。

この方のインタビューを、Emglish Journalで聞いたことがありますが、とても知的でステキでした。この雑誌、英語は難しいんだけど、インタビュー人選やニュースが秀逸で、他のメディアから得られない情報がいろいろでとても好きです。

エミュさん。

カズオ・イシグロ、原書で読まれましたかー。
私も、いつかトライしてみたいなー。
原語で読むなら、「日の名残」あたりにトライしてみたいかも。執事の英語って興味あるし。
プロフィール

おぐにあやこ

Author:おぐにあやこ
名前■おぐにあやこ
生年■1966年 ひのえうま
仕事■07年秋まで新聞記者。仕事を辞めて渡米。11年、新聞記者に出戻り。
趣味■読書、歌、旅
目標■ちょっと背伸びして、
 疑問符を感嘆符に変える事
苦手■勧善懲悪


著書■
▼「薬(ドラッグ)がやめられない 子どもの薬物依存と家族」(青木書店)
「ベイビーパッカーでいこう 赤ん坊とザックかついでスペインの旅」(日本評論社)
「魂の声 リストカットの少女たち」(講談社)
「いいじゃない いいんだよ 大人になりたくない君へ」(共著、講談社)
「アメリカなう。」(小学館)
「アメリカの少年野球 こんなに日本と違ってた」(径書房、ミズノスポーツライター賞)
「?が!に変わるとき  新聞記者、ワクワクする」(汐文社、読書感想画中央コンクール課題図書、高校生の部)

訳書■
「自傷からの回復 隠された傷と向き合うとき」(みすず書房)

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