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ハードワーク 低賃金で働くということ(著・ポリートインビー)

★ハードワーク 低賃金で働くということ(著・ポリートインビー)

英国ガーディアン紙の女性記者が、最低賃金の仕事をし、その範囲内で暮らしてみる、という体験ルポルタージュ。
同種のレポートはこれまでにもいくつも存在しているけれど、この本の特徴は、

・記者が思春期の息子を持つ女性であること
・会社員記者であること

の2点だと思う。
だから、例えば、よくある潜入ルポのように、何年も身分を隠して労働現場に潜入し、暮らしの隅々までを味わう、というような形を取っていない。
会社から得た短期休暇を利用して、1週間ずつ「最底辺」と言われる仕事を体験するだけ。時には自宅に帰り、家族とも時間を過ごしている。
効率よく取材するため、家を借りたり、家具をボランティア組織から買う時は、身分と取材趣旨を明かし、協力を求めてもいる。

だから、他の潜入ルポと比べれば、当たり前だけれども、「お嬢様のおままごと」的なにおいがするし、それは誰より著者のトインビーさん自身が自覚していて、

「数週間ではなく、一生ここで暮らすとしたらどんな気持ちになるだろう。正直なところ、私にはわからない。これは私の暮らしではなく、そこで生きている自分が想像できないからだ。4階の部屋の汚れた窓際に立っていると、カシミールかアフガニスタンの丘陵に立つ外国特派員のような気分になるときもある。が実際には10分もあれば、本当の家に逃げ帰れるのだ」

と書いている。
「外国特派員」とはあまりに正直な感想で、筆者はとても誠実な人なんだろう。
本書の内容自体にそれほどおもしろさを感じなかったのだけれど、それでも、そういった彼女の立場をあれこれ思ってしまったのは、私自身が同種の仕事をしようと思ったら、似たような制限の中でしかできないんだろうな、と自覚しているから。

・会社員だし。
・家族持ちだし。

だから、本書のルポルタージュの甘さをあれこれ感じる一方で、55歳の母ちゃん会社員記者が、できる範囲で、誠実にテーマに取り組んだのだと、やっぱり思ってしまうのだった。

ただし、この人、普段はものすごくいい暮らしをしてる人なんだろう。
「こんな暮らし、信じられない!」と怒っている中身の中には、「へ?それって日本じゃ中流の暮らしだぞ」と思う部分もあるし(部屋の広さとか)、そもそも最底辺の暮らしを体験するはずなのに、借金してボランティア組織で家具を買う時に、テーブル1つにベッドサイドテーブル2つに鏡付きのサイドテーブル1つを買ったりしてる。テーブルが4つもある暮らしって……。

労働問題、特に搾取されている低賃金労働者と女性について高い問題意識を持ち、正義感を原動力に取材する一方で、「こんなおままごとみたいな体験じゃあ、現実は分からない」と本書で何度も素直に認めているあたり、好感は持てたけれど、やっぱりどこか物足りなかった。

さらに、1点だけ、どうしても抵抗を感じてしまった点があった。

彼女は、時には取材相手に自分の取材趣旨を打ち明け、協力を求めている。例えば、低賃金の人が暮らす公団住宅の隣人には、身分を打ち明け、暮らしの中で思うところを取材したりもしている。
でも、1週間ごとに探した低賃金労働現場では、同僚に一切自分の身分を明かしてない。
明かしてないのがいけない、と言うのではなく、身分を明かさず、体験労働しているということへの同僚への申し訳なさとか後ろめたさとかが一切本書には出てこないことがすごく不思議だった。
自分なりの思いをあれこれ書き込んであるルポルタージュなのに、そのあたりに一切触れてない。

「貧しいけど、頑張ってればいいことあるわよ」なーんてなぐさめてくれたり、励ましてくれたりした職場の仲間たち(少なくとも相手は、トインビーさんを同じ境遇の中年女性と思って付き合っている)に、ウソをついて働いているわけで、私だったらそれがより良い取材のためだったとしても、心苦しいし、そんな迷いが取材の足を引っ張ったり、逆にそんな悩みから別の物語が見えてきたりもして、その「迷い」自体も書いてしまう気がする。
トインビーさんは、その点、割り切れたのかな。



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……といっても、おぐにさんも「労組に守られた
大手新聞社の社員」という、ぬくい位置にいる訳で。

その位置から「“低賃金で働く”をルポする
“さらに恵まれた”女性記者」についてあれこれ
いわれても。どちらも贅沢な……としか言えません。

まあ、捨てろっても無理なことでしょうけどね。

アジアンさん。

>どちらも贅沢な……としか言えません

確かに……。
そういう面は否めないし、だから、余計にこの本、あれこれ気になっちゃったんでしょうねえ。
ふむふむ。
プロフィール

おぐにあやこ

Author:おぐにあやこ
名前■おぐにあやこ
生年■1966年 ひのえうま
仕事■07年秋まで新聞記者。仕事を辞めて渡米。11年、新聞記者に出戻り。
趣味■読書、歌、旅
目標■ちょっと背伸びして、
 疑問符を感嘆符に変える事
苦手■勧善懲悪


著書■
▼「薬(ドラッグ)がやめられない 子どもの薬物依存と家族」(青木書店)
「ベイビーパッカーでいこう 赤ん坊とザックかついでスペインの旅」(日本評論社)
「魂の声 リストカットの少女たち」(講談社)
「いいじゃない いいんだよ 大人になりたくない君へ」(共著、講談社)
「アメリカなう。」(小学館)
「アメリカの少年野球 こんなに日本と違ってた」(径書房、ミズノスポーツライター賞)
「?が!に変わるとき  新聞記者、ワクワクする」(汐文社、読書感想画中央コンクール課題図書、高校生の部)

訳書■
「自傷からの回復 隠された傷と向き合うとき」(みすず書房)

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