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★オリガ・モリソヴナの反語法(米原万里)

★オリガ・モリソヴナの反語法(米原万里)

ピアノの練習が忙しくて、なかなか本が読めない日々。
その中でも選んで読んだのがこれ。
お亡くなりになった米原さんの本を読もうと、まず手に取ったのが「ガセネッタ&シモネッタ」という翻訳エッセイもの。
楽しくは読んだが、「違うのよ、今読みたいのは、大宅壮一ノンフィクション賞を取った『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』みたいな長編なのよ」と思い、こちらを手に取ったのだった。
で、結論からいうと、大当たり。
この本、途中でやめられず、自宅から会社の自席まで、歩きながら読み続けてしまいました。階段の上り下りの途中も本を閉じることができませんでした。

チェコのプラハにあったソビエト学校での著者の経験をもとに書いた小説。
主人公「オリガ・モリソヴナ」は実在の人物だそうです。
最初、米原さんはこの本をノンフィクションとして書こうとしたそうです。「資料をあたって、本当にあったことを書けば、感動的なノンフォ句ションになると思った」と。
ところが「資料がまったく出てこない」。
それで結果的に小説仕立てにするしかなかったんだと。

なるほど。
実は私、この本を読みながら途中で何度も思いました。
短期間のロシア滞在で、昔の資料が偶然のように次々出てきて、おまけに偶然出会った人がことごとくキーマンで、ものすごい勢いで過去の謎が解けていく。
こんな風に運に恵まれた調査報道があったら、なんと取材していて楽しいだろう!って。
でも、現実は厳しいですよね。

米原さんは、ノンフィクションとして書かず、フィクションの形を取ったことで、登場人物をより魅力的に描くことにも成功しているし、よりドラマチックに描くことにも成功しているし、スターリン時代に行われた凄惨な粛清の現実を密度濃く、1冊の本に詰め込むことにも成功しています。

とても印象的だったのは、米原さんが池澤夏樹さんとの対談で語っておられる一言。
フィクションを書くよりノンフィクションを書くほうが手間暇かかる、フィクションであればそれが省ける、と思っていた米原さんは、実際に書き始めてそれが大間違いだったことに気付くわけです。

かなり事実を固めていないと、本当らしい嘘はつけないんですね。ノンフィクションでも、エッセイでも、ほんとうのことを書いているはずの作品はわりと嘘を紛れ込ませやすいんですよ。でも、フィクションで嘘をつくのは、何かとても恥ずかしかったです

なるほどなあ。
会社の学芸部のずっと先輩の記者さんが、私の顔を見るたびに、いつも言う一言があります。
「おぐにさん、創作も書いてみなよ」。
そのたびに、「無理ですよー」と返してます。
中高生時代、童話作家になるのが夢だった私は、結構いくつも童話を書きためた時期があって、いかに自分に創作能力がないか、骨身に染みているのです。
目の前にいる人が魅力的だから、その人を書きたいと思う。事実の重さに圧倒され、なんとかそれを文字で表現できないか、ともがく。
ところが、自分で創り上げた「登場人物」は、どう頑張っても、現実を生きている目の前の人よりも魅力的になってくれないのです。
それで、「やっぱりノンフィクションだよな」と。

米原さんのすごいところは、その両方でこんなにも読み応えのある、人が生きている重みをずっしり感じさせるような作品を生み出してこられたことなんでしょう。
本当に本当に、惜しい人を亡くしてしまいました。

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残念な死

オリガ・モリソヴナの反語法は2002年に読んだ本のベスト作品でした。米原さんはガセネッタ・シモネッタのようなこじゃれた咄にも味があり、全部読むことにしていたのに、がんで
なくなってしまうとは・・・。いちばんシャープな文章が書ける人と思っていました。ユーモアセンスが何ともいえなかったね。俺が一番よみたかったのは生涯独身だった彼女の「男出入り」の話。あれほどの大型美人が一人とはもったいなかった。その背景が知りたかったねー。日本のおのこでは受け止められないスケールの大きさと回転のよさがあったのかもなー。
プロフィール

おぐにあやこ

Author:おぐにあやこ
名前■おぐにあやこ
生年■1966年 ひのえうま
仕事■07年秋まで新聞記者。仕事を辞めて渡米。11年、新聞記者に出戻り。
趣味■読書、歌、旅
目標■ちょっと背伸びして、
 疑問符を感嘆符に変える事
苦手■勧善懲悪


著書■
▼「薬(ドラッグ)がやめられない 子どもの薬物依存と家族」(青木書店)
「ベイビーパッカーでいこう 赤ん坊とザックかついでスペインの旅」(日本評論社)
「魂の声 リストカットの少女たち」(講談社)
「いいじゃない いいんだよ 大人になりたくない君へ」(共著、講談社)
「アメリカなう。」(小学館)
「アメリカの少年野球 こんなに日本と違ってた」(径書房、ミズノスポーツライター賞)
「?が!に変わるとき  新聞記者、ワクワクする」(汐文社、読書感想画中央コンクール課題図書、高校生の部)

訳書■
「自傷からの回復 隠された傷と向き合うとき」(みすず書房)

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