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記事6◆年末連載 「他人の幸せ」に尽くした男が得た「自分の幸せ」

社会部に行って2カ月くらいのころでしょうか。
年末に遊軍記者やら方面回りでちょっとしたコラムを書くのが定番で、それを初めて書くことになったのがこれ。
東京で取材を初めて間もなかったこともあって、結局、長野支局時代の知人にご登場願ったのでした。

1995年 12月 21日掲載
■「他人の幸せ」につくした男が得た「自分の幸せ」

 今年夏、エイズが死の影を落とす長野県内の病室でタイの若い男性が訴えた。
 「キトゥン・ポー・メー(父さん、母さんに会いたい)」
 ほおが涙でぬれている。医師から、男性への病名告知の通訳を頼まれた 横田隆志さん(43)は「故郷へ行こう」と言うしかなかった。

 本人の出頭なしにオーバーステイの外国人を帰国させるのは至難の業だ。それでも横田さんは八月のある朝、車を長野から成田へと走らせた。倒したシートに点滴と酸素吸入を続ける男性がもたれている。
 医師「タイまでもたないかも」
 横田さん「彼を骨にして帰してたまるか」

 約十五時間後。男性は深夜、バンコクの病室で家族と再会した。不思議と食欲が戻り、刻みしょうがの入った母国のかゆをすすった。「先生がいなければ帰れなかった。ありがとう」。男性がやっとほほ笑んだ。
 横田さんのもとに、家族からの礼状と男性の訃報(ふほう)が届いたのは、その三週間後のことだった。

 横田さんと知り合って四年になる。「タイを訪れた時、優しくしてもらったから」と、独学でタイ語を覚え、スナックで働くタイ人の相談に乗っていた。
 「ピーモォー(先生)」。タイ人からそう慕われる彼は市民運動家ともボランティアとも違って見えた。
 「半ばは自己(わがみ)の幸せを、半ばは他人(ひと)の幸せを」。二十歳のころ始めた少林寺拳法のこの教えが生きる原点という。ただ私の目には「他人の幸せ」ばかりに肩入れしているように見えた。

 ある時、横田さんは外国人の支援に時間を注ぎ過ぎて、香川県にある少林寺拳法の本山から、手続きの遅れを理由に段位を格下げされた。「だれもおれを理解してくれないのか」。本山は、後に格下げを撤回したが、この時ばかりは男泣きに泣いたという。

 私はこの冬、そんな「孤軍奮闘する拳士」を久しぶりに訪ねた。
 今年だけで、帰国を希望する重症患者八人に同行したという。患者の分も含め経費はほとんど手弁当。タイ訪問の際に休みを取り、勤務先の病院からもらう給料は手取り十四万円の時もある。私は「自分の家はどうなるの」と泣いた奥さんのことを思い出していた。

 その時、彼が言った。
 「最近すごくうれしいことがあったんだよ。仲間が少しずつ増えてね」
 彼がかつて助けた地域で暮らすタイ人たちが、支える側に回ってくれた。タイ政府や別の基金からも寄付が届いた。
 そして最近、寄付のニュースを聞いた高校二年の息子(17)が「お父さん、本当におめでとう」と手を差し出した。息子が、家を空けることの多い父に初めて握手を求めた瞬間だった。いつの間にか自分より大きくなった手を握り返しながら「おれの生き方は間違ってない」と信じられた。

 「半ばは自己の幸せに」
 横田さんは、自分の幸せも知っている。
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お元気ですか~?

大変ご無沙汰していますが、お元気ですか?ときどき、歌姫の小国さんの事をおもいだしながら、Folling Love をくちづさんでいます。
あの頃に比べて、感性豊かな記者に会っていません。
支援活動は相変わらずつづいていますが、男のロマン&女房の不満 のまま、還暦を過ぎて尚医療従事者として、益々忙しい日々を送っています。二人の子供と四人の孫の成長を励みに、休日は嫁と屋根のない車で温泉巡りを楽しんでいます。
今、軽井沢の紅葉が見事ですよ!だんだん寒さがきびしくなり冬眠したいのに、させてもらえません。
小国さんもお体、ご自愛されて下さいませ。
プロフィール

おぐにあやこ

Author:おぐにあやこ
名前■おぐにあやこ
生年■1966年 ひのえうま
仕事■07年秋まで新聞記者。仕事を辞めて渡米。11年、新聞記者に出戻り。
趣味■読書、歌、旅
目標■ちょっと背伸びして、
 疑問符を感嘆符に変える事
苦手■勧善懲悪


著書■
▼「薬(ドラッグ)がやめられない 子どもの薬物依存と家族」(青木書店)
「ベイビーパッカーでいこう 赤ん坊とザックかついでスペインの旅」(日本評論社)
「魂の声 リストカットの少女たち」(講談社)
「いいじゃない いいんだよ 大人になりたくない君へ」(共著、講談社)
「アメリカなう。」(小学館)
「アメリカの少年野球 こんなに日本と違ってた」(径書房、ミズノスポーツライター賞)
「?が!に変わるとき  新聞記者、ワクワクする」(汐文社、読書感想画中央コンクール課題図書、高校生の部)

訳書■
「自傷からの回復 隠された傷と向き合うとき」(みすず書房)

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