スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

★ディープ・スロート 大統領を葬った男(著・ボブウッドワード)

★ディープ・スロート 大統領を葬った男(著・ボブウッドワード)

ウォーターゲート事件について下調べしてから読まないと、一瞬、事件概要を忘れちゃってるとついていけない話もあるので要注意。
この本は表紙を開いたその瞬間に、まず、ひるんでしまった。
最初に「主な登場人物」のリスト。ここに40人以上の似たような名前が並んでるのをみて、しみじみ、「ああ、だから私は優秀な調査報道記者にはなりえなかったんだ」と痛感する。ぜったいにこんな煩雑な人間関係、覚えられないもの。
事件報道でも調査報道でも、事件の深層をきちんと把握するために記者はチャートを書く。主要な人物を図示し、その間に金の流れやら関与の存在の有無を書き込んでいく。事件が複雑になれば、チャートはとんでもなく複雑になる。例えば、どれだけの情報を得たとしても、私にはイトマン事件やリクルート事件のチャートなんて一生書けないだろう。
そんなことを考えながら、トホホな気分で本を読んでみた。

それにしても。
「ネタ元」を守ること。だけれども常に「書く」という方向を向き続けること。特ダネを取ること。
ものすごく誠実で、でも下心たっぷりで、なんとか相手を利用したいと思っていて、守りたいとも思っていて、気付けば同じ事件の渦中でともに伴走しているような気持ちにすらなって、でもある時、そんなのまやかしだと思い知らされ、負けたり、勝ったりしながら、時には怒鳴られたり、怒鳴ったり、取引したり、交換条件をつけたり……そういう極めて打算的でありながら、打算だけではわりきれない、時に泣き出しそうになってしまうほどの情のようなものも育まれてしまったりする、フシギな刑事さんたちとの関係を、思わずふっと思い出したりしてしまった。
私はなんともできの悪い事件記者でしたが。

一番ウッドワードが人間的に思えたのは、一連の報道がピュリッツァー賞を取った後、何十年間も、ネタもとの「ディープスロート」が自分や報道についてどう考えているのか、なぜ協力してくれたのかを気にしながら、すっかり関係が切れたまま、自分から連絡を取ることができなかった、という経緯を読んだ時だった。
ネタ元を最後の最後まで守るためには、下手に自分から声をかけないほうがいい、というのはたぶん、自分への言い訳だ。
でも、20年以上も、心のトゲであり続けたところが、私には妙にリアルで、そうだよなあ、と思ってしまったのだった。

ディープスロートと再会してからの、ウッドワードなりの解釈はとりあえず、自分の都合に沿った筋書きって感じ。再会シーンはとてもスリリングでしたが。

ウッドワードは何度も「すべてを公表したら、彼は大統領を葬った男として英雄視されるだろう」という期待なんかも書いているけど、私はついつい、「正直に書けよ。違うでしょ。彼が公表し、英雄視されたり、世間を驚かしたりしてくれれば、自分もネタもとを守り続けるというくさびから解かれ、以前の著書には書き尽くせなかった暴露話を全部洗いざらい書いてしまえるから、それを望んでいるんでしょーが!」と思ってしまった。

でも、決して、イヤな気持ちでそう思ったわけではない。
常に「書く」方向を向いているのは、記者の習性だもの。

大きな病気を告知された瞬間、いつか書けるように、と頭で文章をひねりだした、という知人がいる。古い個人的な手紙を手元に残すかどうかの判断をするのに、「いつかこれを本に書くことがあるかどうか」という価値基準で取捨選択する(これは私もそうだ。実際、「いいじゃない いいんだよ」を書くのに、高校時代の男友だちからもらった手紙の束は大変役立った)。
どんなイヤなこと、ショックなことがあっても、すぐに頭の中で原稿体にしてしまうこの習性。ネタもとや取材相手を守るために、公表を待つことはあっても、「いつか書くぞ」と心では思い続けてしまうしつこさ。
どうしようもないよね、これだけは。

一つの発見は、ウッドワード氏がはじめて「ディープ・スロート」なる情報提供者に出会ったのは、新聞社に入社する前だった、ということ。
よく、マスコミ志望の若い人に「学生時代から勝負は始まってるよー。いろいろな人と出会っておくこと。つながっておくこと。学生時代に知り合った相手は、記者として会うよりもずっと利害関係のないところからスタートできるから、仕事を始めると、本当に助けてもらえるんだよ」と話してきたし、しみじみそれを実感する日々ではあるけれど、まさか「ディープ・スロート」もそうだったとは。

スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

おぐにあやこ

Author:おぐにあやこ
名前■おぐにあやこ
生年■1966年 ひのえうま
仕事■07年秋まで新聞記者。仕事を辞めて渡米。11年、新聞記者に出戻り。
趣味■読書、歌、旅
目標■ちょっと背伸びして、
 疑問符を感嘆符に変える事
苦手■勧善懲悪


著書■
▼「薬(ドラッグ)がやめられない 子どもの薬物依存と家族」(青木書店)
「ベイビーパッカーでいこう 赤ん坊とザックかついでスペインの旅」(日本評論社)
「魂の声 リストカットの少女たち」(講談社)
「いいじゃない いいんだよ 大人になりたくない君へ」(共著、講談社)
「アメリカなう。」(小学館)
「アメリカの少年野球 こんなに日本と違ってた」(径書房、ミズノスポーツライター賞)
「?が!に変わるとき  新聞記者、ワクワクする」(汐文社、読書感想画中央コンクール課題図書、高校生の部)

訳書■
「自傷からの回復 隠された傷と向き合うとき」(みすず書房)

最近の記事
最近のコメント
最近のトラックバック
月別アーカイブ
カテゴリー
RSSリンクの表示
ブログ内検索
RSSフィード
リンク
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。