再就職して最初に与えられたテーマは、「没後30年 向田邦子さんブーム」 でした。
「没後30年、は夏の話なので、今さらもう遅いんだけど、まあ、読書の秋ってことで」 などとデスクからこのテーマを告げられたとき、ああ、これは、デスクの厳しくて温かい思いやりなんだな、とわかりました。
私が向田さんのファンであることは、当然デスクは知っていたはずだし、
だからこそ、再就職第一号の記事テーマとしてはふさわしい、と配慮くださったのだろうし、
一方で、「だからこそ、つまらん記事を書いてくるなよ」 という意図もビシバシと伝わってくるわけで、
これは大変な課題をのっけからいただいてしまったわ、というのが、私のホンネなのでした。
おまけに、夏にブームだった話を、はて、どうやって料理すりゃいいんだ?
わけもわからず、夏の間に出版された関連書を読み漁り、ある方に取材依頼したけど諸事情あって断られました。
でも、不思議なことってあるもので、その方が、取材を断る電話の中で、私に言った一言が、結局今回の取材の方向を決めてくれたのでした。
「人はね、他人の記憶を頼りにしても仕方ないんだよ。
自分自身の家族の記憶、生活の記憶が必要なんだよ」それまで、「向田さんの作品を読むと、どうして、自分自身の家族の記憶がよみがえるんだろう……」 というところでとどまっていた私の前に、すうっと1本の道が開けたような気がして。
その向こうに、津波によって水と泥を被った家族アルバムと、それを懸命に修復するボランティアの学生さんたちが見えた気がしたのでした。
最初から絵を描いて、帳尻あわせのように取材してしまうのがイヤで、どこに向かうのか分からないまま、取材した今回の記事、どこへ向かうのか自分でもドキドキしましたが、最後はこんな記事になりました。
花こぼれ、なほ薫る 今も向田邦子作品--という理由
4年ぶりに新聞記者の仕事を再開するにあたって、言葉の持つ力について思いめぐらせることができたのも、貴重な時間となりました。
あれこれ戸惑うことの多い毎日ですが、また、ジタバタとやってみよう、と思っています。
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