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初めて書く 「人種」 の話

連日、食いモノのエントリーばっかりアップしていたのは、もちろん、週末においしいものを食べまくった、ということもあるのだけれど。
書きたくて、書こうとして、どう書けばよいか、ずっとこの1週間ほど引きずってきたテーマがあったりするんだな、これが。

人種、の話。
日本で15年以上記者をやってて、真正面からこれをテーマの記事を書いたことがない。
アメリカにわずか半年暮らしただけで、知った顔して書けるテーマでも、実はたぶん、ない。
だから、分からないなりに、感じたことを書いてみようと思う。

「オバマvsヒラリー」 を基本的には楽しんで来た私だけれども、一つだけ、できれば見たくないなあ、と思っていたことがあった。それは、2カ月前のエントリーにも書いたことだけど、

これからどうなるんだろう。
選挙戦、もっと熾烈になるのかな。
たまらないなあ、と思うのは、オバマ陣営も、クリントン陣営も、接戦が続けば続くほど、この数週間がそうだったように、お互いへの攻撃を強めるしかなくなるわけで。
互いへの攻撃を強めれば強めるほど、ジェンダーだとか、人種だとかが何となしに対立軸になってしまうわけで。

「黒人初の大統領」 が誕生しても、
「女性初の大統領」 が誕生しても、
それまでの過程で、私たちはたぶん、できれば直視したくないようなたまらないこの国の現実をたくさん突き付けられちゃうんじゃないか、と。
そんな予感がする。


というような話。
今回の、オバマ氏が通う教会の、ジェレミア・ライト氏という黒人牧師の発言と、それに対する大きな反発、それに対するオバマ氏のスピーチまで、一連の流れを追いながら、この国についてたくさんのことを学んだ気がした。
「できれば直視したくない」 ことも含めて。

ライト牧師は、「God bless America (アメリカに神の恵みがあらんことを)」 と言う代わりに、「God damn Ameria (アメリカに神の呪いがあらんことを)」 と言い、アメリカのことを 「KKKの国」 と称し、2001年の米国同時多発テロのことについても、「米国が海外でやってきたようなこと」 で、「ヒロシマやナガサキでは、もっと多くの人の上に原爆を落とした」 と語った。
これら、とっくの昔の演説や、すでにDVDとして発売もされている発言が、YouTube や テレビで何度も何度も放映され、この牧師を人生の師としていたオバマ氏に対して、「こんな、反アメリカ的な発言を繰り返す奴を慕うオバマが、大統領としてふさわしいのか」 という問題が浮上してしまった。

人種の対立を超えた unite を訴え、大きな hope の物語を語ってきたオバマ氏だけに、その師の 「反白人」「反米国」 的な発言が繰り返し報道されたのは、とても痛かったと思う。

彼は、自分の立場をスピーチした。
たぶん、このタイミングで、日本の多くのメディアもそれを報じたと思う。

このスピーチ、私は聞き逃したんだけど、その後、YouTubeで何度も聴いてみた。
それは、危機管理、って側面から見れば、極めて高度なテクニックだったし、政治家の演説として見れば極めて完成度の高いものだったし、内容そのものも、人の心を打つ力を持っていたと思う。
実際、米メディアの多くのジャーナリストが彼のスピーチを非常に評価した。

「すばらしい」「非常に勇気ある演説だった」「(この国への)大事な贈り物だ」「雄弁だった。アフリカンアメリカンだけが、こうも真っ直ぐに人種について語ることができるのだ」

何人かの専門家は、オバマ氏ができうる最高のパフォーマンスで窮地を挽回したかのように論じているけれど。
本当にそうかな、と思ってしまった。
この問題、いったん噴き出したからには何度も何度も彼の足を引っ張るんじゃないかな。
特に、もしも彼が民主党候補としてノミネートされたならば、その後で、必ず蒸し返される話しなんじゃないかな。

ずっとずっと不思議だったんだ。
オバマ氏のミドルネーム (父親側の姓) が、「フセイン」 だということがネガティブキャンペーンにさんざ使い倒されていた時。
ラジオトークショー (たいていが保守路線) で、みながさんざっぱら、「バラック・フセイン・オバマ。フセイン、フセイン、フセイン。大統領候補のミドルネームを連呼しちゃ悪いかい?」 などと叫んでいた時。
「この国では、『フセイン』のミドルネームについて、ここまでネガティブキャンペーンを打てる人たちでも、人種については、表立って言えないんだなあ」 と思ったものだった。
本音の部分で、人種問題について、この国の人たちは何を考えているのだろう。
それを知る機会が、とても少ない。
私の周囲にいる人たちは、どんなテーマでも率直に語ってくれる人が多いんだけれど、それでも人種問題になると、とても慎重に慎重に言葉を選ぶ気がした。
たぶん。
それほど根の深いテーマでもあるんだろう。

オバマ氏の演説の中で、私が一番、どきりとしたのは、彼が自分を育てた白人の祖母について語っているところだ。
彼女から、黒人男性と道ですれ違う時の恐怖を聴かされ、子ども心に身がすくんだ、という思い出話には、たまらない思いがした。
こちらに来てとある黒人の社会学者が書いた文章を読んだことがある。
手元にないので厳密に引用できないが、以下のような話だった。

「大学にいる僕を、生徒たちは尊敬の眼差しで見る。しかし、一歩、大学を出て、街でエレベーターに乗ると、そこで乗り合わせた女性は、僕を脅えた目で見る。難しい社会学の専門書を抱えていたって、それは同じことなんだ。僕は、2つの人生を生きているようなものだ」

オバマ氏は、さらに複雑な人生をたぶん、生きてきたのだろう。
あらためてそれを痛感させられた。

もちろん、彼はこの挿話を、「なぜ自分が、ライト牧師と縁を切れないか」 を語るのに最も効果的に使っているわけで、非常に計算された部分でもある。
彼は、この国に人種差別が存在することを認めたうえで、再度 それを克服していこうと呼びかけ、こんな風に演説で自分の立場を表明した。

「私は黒人コミュニティーと縁を切れないように、ライト牧師を切り捨ててしまえない。人種や民族のステレオタイプ(な偏見)を何度か口にした私自身の白人の祖母と縁を切れないように、ライト牧師と縁を切れない」

悩んだ末の言葉だったんだろうな。
ライト牧師との関係を切らないと騒動は収まらない、しかし、あっさり切り捨てれば今度は多くの仲間を失う。
そしたらもう、極めて個人的な体験談を吐露して、心情的な理解を求めるしかないもんね。
それでも、騒動になった途端、騒動の渦中にいる問題人物との関係性をあっさり否定したり、切り捨てたりする政治家より、ずっと勇気ある演説だったと、私自身は思う。

あいかわらず、ラジオのトークショーのオバマ批判は、落ち着く気配がない。
「こんなアンチアメリカな人物は、大統領どころか、上院議員としてもふさわしくない!」
「私は無党派で、オバマを応援しようと思ってきたけれど、アメリカを悪く言うなんて許せない!」

彼の肌の色や人種について、あからさまに何かを言うことはなかった保守派のラジオトークショーで、一気に人種問題が 「解禁」 されちゃった感じ。この大変な盛り上がり振りをみながら、ふと思った。
実は、問題は、ライト牧師の騒動の前から水面下にずっと存在してたんじゃないか、って。
ライト牧師の 「過激な説教」 は一つのきっかけに過ぎず、実はみんな心のどこかで人種問題について気になってたんじゃないか、って。
「黒人には投票したくない」 とは堂々と言えないこの国で、オバマ氏を批判し、否定し、彼に投票しないことを堂々と表明できる 「立派な理由」 がとうとう登場しちゃったんじゃないか、って。

渡米から半年。
この国の人たちがここまでストレートに人種について語る姿を、初めて見た。
テレビで、新聞で、ラジオで。

「人種のことをあからさまに語るのは難しい。黒人の友人といる時には言わないことを、白人同士の友人の間でしゃべることはある。黒人たちもまた、白人に対する思いのあれこれを、僕には言わなくても、お互いに語ることはあるはずだ」 と、そんなことを吐露したリベラル派のコラムニストがいたり。
「今回のライト牧師の説教に対して、この国でわき起こった大きな反発に触れ、改めて、実はこの国の白人たちが私たち黒人のこれまでの怒りをまったく理解してなかったんだと痛感しました。ライト牧師の発言は、決して特殊なものではなく、ある時代の黒人の教会では普通に聞かれたものだったのに」と新聞に投稿した女性がいたり。

メディアの内側にいる人達から、「勇気がある演説だった」「人種というテーマに対してこれほど率直な演説はほかにない」 といった評価が多く出ているのも、結局は、メディアの内側の人たちがこれまで、人種について書くことに、とてもとても慎重になってきた経緯があったからじゃないかな。
自分の実体験に照らしても、反省も含め、そんな思いにいたった。

今、すごくぎりぎりのところで、自分の体験に基づいて、自分の言葉で、この国の人達が人種について語り始めたのかもしれない。それが多数派でなかったとしても。
だから今はできるだけ、自分の政治信条やら思いこみを横に置いて、真っ直ぐに色々な人の声に耳を傾けてみよう、と思ってる。
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オバマが民主党候補になったら、マケイン本陣からはこのことについてのネガティブキャンペーンはないと思います。ただディベイトでは絶対に質問出てくるだろうし、マケインサポーターの出資によるコマーシャルでジャンジャンついてくるでしょうね。

でもオバマのサポーターもそういうときには、マケインやGOPをバンバン追求するネタはいっぱいあるんです。Bob Jones Uniってあからさまに異人種間の交際・結婚を禁止している大学(入学時に誓約書ニサインさせられる)があって、そこにブッシュもマケインもサポートを求めにいったり、スピーチしたりしているし、ニクソンとビル・グラハム(GOPのスピリチュアルリーダーみたいな人)の会話で、グラハム牧師が「世界中はユダヤ人でコントロールされている(から苦々しい)」っていっているテープが発見されたり、しているのですが、メジャーなメディアではほとんど話題になりません。

それはそういうメディアはコーポレーションに支配されているからであって、コンサーバティブな人々にとって不利な情報は流さないようになっているからです。だから一般人は(CNNとかMNBCを観ない人たち)全然知る余地のないところなんですよね。

そういう臭いものにフタ的なものが、本選挙では明るみにでると思います。

あとね、これまでのプライマリーの結果をみていると、今回の民主党の動員数って言うのはGOPをはるかに上回ってます。GOPに魅力的な候補がいなかった、というのもそうですが、民主党の支持者は本当にブッシュ政権に飽き飽きしていて、それが記録的な動員数に繋がっているはず。もちろんswing votesをひきつけるに越したことはないけど、今回のことでギャーギャー言っている人は、もともとオバマに投票しないだろう、という人たちだからほっといていいんです(笑)。オバマに投票した人たちが、心変わりするっていうのなら心配だけど、それも杞憂だと私は思います。

ところでイラク戦争5周年の日にチェイニーがインタビューされて、「国民の80%がイラク慰留に反対していますね」って聞かれて"SO?"って答えたことは読まれました?ものすごい独裁者ぶりにひっくりかえったのですが、全然話題にされませんよね、これもコーポレーションメディアの性なんです。

政治の話になると長くなってしまいます。すみませんでした。
プロフィール

おぐにあやこ

Author:おぐにあやこ
名前■おぐにあやこ
生年■1966年 ひのえうま
仕事■07年秋まで新聞記者。仕事を辞めて渡米。11年、新聞記者に出戻り。
趣味■読書、歌、旅
目標■ちょっと背伸びして、
 疑問符を感嘆符に変える事
苦手■勧善懲悪


著書■
▼「薬(ドラッグ)がやめられない 子どもの薬物依存と家族」(青木書店)
「ベイビーパッカーでいこう 赤ん坊とザックかついでスペインの旅」(日本評論社)
「魂の声 リストカットの少女たち」(講談社)
「いいじゃない いいんだよ 大人になりたくない君へ」(共著、講談社)
「アメリカなう。」(小学館)
「アメリカの少年野球 こんなに日本と違ってた」(径書房、ミズノスポーツライター賞)
「?が!に変わるとき  新聞記者、ワクワクする」(汐文社、読書感想画中央コンクール課題図書、高校生の部)

訳書■
「自傷からの回復 隠された傷と向き合うとき」(みすず書房)

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