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蛍の野の散歩

あまりの運動不足に危機感を感じたもので、最近、自宅裏の遊歩道を20分ばかり歩くようにしている。
もちろん、毎朝とはいかないのだけれど。
木漏れ日の中、鳥のさえずりをききながら歩く林の道は、とても気持ちよい。
自宅周辺の20分の散歩を楽しむたび、
「ああ、この環境になれちゃったら、もう二度と東京に帰れないよなあ」
と思う。

いつもは朝歩くのだけれど、ふと、夕方歩きたくなった。
というのも、アメリカ東海岸は今の季節、とても蛍が多い。
アメリカの蛍は、日本の水性の蛍と違い、陸性である。
だから、清流などなくても、あっちこっちに蛍が舞う。
夏時間だから、夜の8時半といってもまだ明るいのだけれど、その頃から、蛍が舞い始める。
庭を眺めているだけで十数匹は見つかる。
「ならば今夜は、蛍を見ながら、散歩しようよ」 ということになった。

広々とした芝生野原を、何十匹もの蛍が舞う光景は、とても美しいものだった。
東京にこの光景があったら、たちまち蛍の名所となるだろう。
この遊歩道はきっと、「蛍の道」 などと名付けられてしまうだろう。
「東京じゃ、押し合いへし合いしながら蛍を見たのにねえ」
椿山荘でかつて、蛍を見た記憶がまだある息子が、不思議そうに言う。

夕方の散歩では、蛍以外にも思わぬ収穫があった。
薄暗くなったこの時間帯、野生動物が動き出すのね。
まず、マウンドのピッチャーとバッターくらいの距離で、子鹿を見た。
昼間だったら、大あわてで逃げ出す子鹿が、薄暗闇の中だと、じっとこちらを見つめていた。
瞳がとても大きかった。

お隣のバージニア州ではよくいる野鳥なのだけれど、なぜか、あまりこの辺りでは見かけないブルージェイも、久しぶりに見た。
それから、ウサギが1匹。
なぜか巨大なカエルも。

帰りにまた、同じ子鹿を見た。
草をムシャムシャ食べていた。
近づいてみても、なかなか逃げようとしない。
ちくしょー、なめられているのか。
あんた、その調子で、うちのトマトの新芽を食い散らかしたんだろ。
ええい、害獣め!

と思ったが、やっぱり、子鹿はかわいいのだった。
悔しいけど、ほんと、大きな瞳は、かわいいのだった。
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プロフィール

おぐにあやこ

Author:おぐにあやこ
名前■おぐにあやこ
生年■1966年 ひのえうま
仕事■07年秋まで新聞記者。仕事を辞めて渡米。11年、新聞記者に出戻り。
趣味■読書、歌、旅
目標■ちょっと背伸びして、
 疑問符を感嘆符に変える事
苦手■勧善懲悪


著書■
▼「薬(ドラッグ)がやめられない 子どもの薬物依存と家族」(青木書店)
「ベイビーパッカーでいこう 赤ん坊とザックかついでスペインの旅」(日本評論社)
「魂の声 リストカットの少女たち」(講談社)
「いいじゃない いいんだよ 大人になりたくない君へ」(共著、講談社)
「アメリカなう。」(小学館)
「アメリカの少年野球 こんなに日本と違ってた」(径書房、ミズノスポーツライター賞)
「?が!に変わるとき  新聞記者、ワクワクする」(汐文社、読書感想画中央コンクール課題図書、高校生の部)

訳書■
「自傷からの回復 隠された傷と向き合うとき」(みすず書房)

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