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★われ大いに笑う、ゆえにわれあり (著・土屋賢二)

★われ大いに笑う、ゆえにわれあり (著・土屋賢二)

正直に言ってしまうと、私はかなり、哲学者という存在に弱い。
別に、なんとなくカッコイイ感じがするから、とか、ものを考えてそうだから、とかいうんじゃなくて、実際に、すごい言葉を持っている人が多いからだ。
私がこっそり、心の師と仰いでいるのは、鷲田清一さん。
彼にはインタビューもしたし、彼の本の書評もブログに書いたりした。

でも今回ご紹介するのは、「笑う哲学者」 の異名を取る、土屋賢二さんのユーモアエッセイ。
初版96年の本で、文庫もとっくの昔に出てる。でも私は最近読んだ。
歌の発表会を前にして、身につまされるくらい、面白かったので、久しぶりに書評に残しておくことにした。

その名も、「趣味は苦しい」 と名付けられた一章がある。
土屋氏の趣味は、ジャズピアノである。とんでもない労力と時間と金を費やしてきた、と書く。
さらに、

金と労力を奪われるだけならまだいい。問題なのは、それだけ苦労しても苦しみしか得られないことである。

と来る。
発表会を前に、おろおろしている私なんかもうここで、拍手喝采、である。

苦悩は大きくなったり小さくなったりしながら、結局は次第に大きくなって行く。絶望の淵からはい上がっては、もっと深い絶望の淵に沈むという経験を繰り返しているうちに、劣等感が身体にしみこみ、性格は暗くなる。ついには、芸術的能力がないくせに性格だけ 「芸術家タイプ」 という、最悪の人間になってしまう。

だって。
またしても、「性格だけ 『芸術家タイプ』」 というところに、膝を打ち、思わず大爆笑。
おまけにここまで書いておいて、次はこうだもの。

金と労力を奪われながら苦しみに耐え、絶望的努力を続けているのをふりかえってみるたびに思うのだが、もしこれが仕事だったら、とても耐えられないところである。つくづく趣味でよかったと思う。

ははは、この一文、色紙か何かに書いて、額縁に入れて、ピアノの前に飾っておきたいよ。
たしかに、つくづくピアノや歌が趣味で良かった。
なーんて思えば、発表会なんかも、頑張ってみようかな、という気持ちになれるじゃあないか。
……って、そうでもないんだけどね。
やっぱり怖いし、しんどいぞ。

さて、土屋さんは 「趣味は苦しい」 の一章の後に、続けて、今度は 「趣味は楽しい」 という文章も書いている。
今度は一転、趣味がいかに楽しいものか、というのをものすごくシニカルに綴っている。
なるほど、今度は 「趣味は楽しい」 と書きたいんだな、と読者に思わせたところで、いきなり、文章が思わぬ方向に走り出す。

さらに深くこの趣味を追究していくと、そこには、単純な喜びの域をはるかに越える、すばらしい体験が待っている。それは、偉大な苦悩の体験である。(中略) 大芸術家や名スポーツマンが味わっているのと同じような高尚な苦悩なのである。

………ははは、また苦しみの話かよ。
しかし、土屋さんの指摘するのは、もっともだと思う。ただの趣味で、ものすごく低レベルであったとしても、真剣にやっている者にしてみれば、結局自分の実力に最後まで満足できないものだ。
土屋さんは、「その苦悩の大きさは一流の音楽家と比べても遜色ない」 というのである。

つまり、土屋さんが 「趣味は楽しい」 と説く理由とは……。

このように芸術的創造の苦悩を一流音楽家と共有する、これほどうれしいことがあるだろうか。ただ、はっきり、うれしいと思ってしまうと、苦悩でなくなるところがつらいところである。
一流になりきっていくにつれて、苦悩も深く大きくなってくる。何も知らない他人から見ると、「実力もないくせに何を好きこのんで苦しんでいるのか、まるで金を払って拷問してもらっているようではないか」 と思われるだろう。しかしこのように辛酸をなめればなめるほど、一流に近づいたような気になるのである。一流になったつもりになるためには、苦しみまで含めて模倣することが必要なのである。
音楽とか野球のような、なんの役にも立たないことのために絶望するという体験は、他では決して味わえないものである。ありがたいことに、実力がない者でも、このような貴重な体験が得られるのだ。
一流との違いは、わずかに実力の差だけである。


いやはや、やっぱり土屋さんはすごい。
発表会を前にして、私が、ウンウンとうなりつつ、苦悩を楽しんでいる状態の浅はかさをこうも見事に喝破されちゃうともう、開き直るしかないわー。
下手くそなりに、苦悩しながら、楽しんでやるぞ~、って気にもなってくるじゃあないか。
やっぱり、哲学者ってなんとも怖い存在だ……。
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プロフィール

おぐにあやこ

Author:おぐにあやこ
名前■おぐにあやこ
生年■1966年 ひのえうま
仕事■07年秋まで新聞記者。仕事を辞めて渡米。11年、新聞記者に出戻り。
趣味■読書、歌、旅
目標■ちょっと背伸びして、
 疑問符を感嘆符に変える事
苦手■勧善懲悪


著書■
▼「薬(ドラッグ)がやめられない 子どもの薬物依存と家族」(青木書店)
「ベイビーパッカーでいこう 赤ん坊とザックかついでスペインの旅」(日本評論社)
「魂の声 リストカットの少女たち」(講談社)
「いいじゃない いいんだよ 大人になりたくない君へ」(共著、講談社)
「アメリカなう。」(小学館)
「アメリカの少年野球 こんなに日本と違ってた」(径書房、ミズノスポーツライター賞)
「?が!に変わるとき  新聞記者、ワクワクする」(汐文社、読書感想画中央コンクール課題図書、高校生の部)

訳書■
「自傷からの回復 隠された傷と向き合うとき」(みすず書房)

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