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カレッジ授業報告 蛍の光のナゾの巻

月曜日の授業報告。
この日も、イラン娘2人組のラナとラハは、ヒソヒソ声で私語をやめない。
授業に支障はないのだろうが、私の 「英語聞き取り能力」 はちょっとした雑音で半減する。本当なら、授業をヘッドホーンで聴きたいほどの状態なわけで、はっきりいって、イラン娘は無邪気でかわいいけど、ちょっと閉口するオバサン学生なのだった。

まあ、これも、英語聞き取り訓練のうちか、とあきらめて必死で授業に耳を傾けていた時のこと。黒人女学生のクリストラがいきなり、「先生」 と手を挙げた。
彼女は、毎回出席してくれる生徒ではないが、とても深い思考力の持ち主で、おまけに人種差別の歴史などについては圧倒的に他の学生より知識もあるので、彼女の質問にははっとさせられることが多い。
難があるとすれば、彼女の英語が、誰の英語より聞き取りにくい、ということ。
ところが、今回の彼女の発言は実に明快で明瞭で、オバサン学生にもはっきりと聞き取れた。

「えっと……、ラナとラハだっけ? 私、思うのだけれど、あなたたちがずっとさっきから私語を繰り返しているのって、とっても rude だと思うわ。私はこの授業が聞きたくて、ここに来ているの。ほかのみんなもそうだと思う。 私はあなたたちのこと好きだけれど、でもね、ここはちゃんと静かにしてくれないかしら」

おおおおお。
オバサン学生はひたすら感動。
この毅然とした態度。途中で、「You know I like you...」 なんて言葉をはさんだりする余裕の言い回し。イラン娘2人はもう小さくなり、素直に、「ごめんね」 と謝った。

その日、イラン娘2人は発言はしたけど、私語は慎んでくれた。
すごいなあ。日本でこういうこと言える学生っているかなあ。
というか、同じ状況が日本であった時、十代の私にこれが言えたかなあ。無理無理。
今なら言えるかなあ……。これも自信なかったりして。

日本の学校でこんなことやったら、「かっこつけてる」 とか 「先生の前でいいカッコしやがって」 とか言われ、やっぱり、いじめの対象になっちゃうのかしらん、などと思うと、あらためてクリストラは立派だ、と素直に感動してしまったのだった。

おまけに、まさに授業では、黒人に対する人種差別の歴史についての話が展開されていたわけで、クリストラのこの発言は、むちゃくちゃ圧倒的な強さを持っていたのだった。うーむ。
なかなか、良いものを見せていただきました、って感じなのだった。

ズーク先生はその場面に、まったくなんのコメントもせず、何もなかったように授業を進めてくれて、これにもホッとした。日本の先生なんかだと、ついつい自分が主導権を握りたくて、あるいは生徒の勇気に乗じて、「そうだぞ、クリストラの言う通りだ」 とか言いたがったりするじゃない?
そういう先生って、なんか、やだもんね。

ズーク先生もそうだが、よくよく考えたら、この国の先生って、小学校の先生からカレッジの先生にいたるまで (といっても、中学と高校の授業は見たことがないが)、「静かにしなさいっ!」 と直接的な物言いて生徒を怒らない気がする。

小学校だと、ちょっとした手遊びや合図、部屋の電気を付けたり消したりすることなどで、子どもたちの関心を集め、集中させる、という手段をとることが多い。あと、「まあ、随分静かに聞いてくれるのね。うれしいわ! あなたたちの集中力に感謝しなきゃね」 などと、ちょっと静かになった時にさりげなく子どもたちをほめたり。
カレッジのズーク先生の、イラン娘2人への決まり文句は、
「意見があるなら、どうか全員とシェアしてね」 だ。
(もっとも、これじゃイラン娘に通じず、彼女たちはすっかり若いズーク先生をナメちゃったのだが)。

それはそうとして、今回の授業。
まず、hate crime に触れ、例えば、どんなシンボルが使われているかについて、このサイトのいくつかのシンボルについて検討した。
特に、ズーク先生が、ナチズムのカギ十字について 「これは、実はインドなどでは宗教的なシンボルとして使われていたマークなんだよね」 と言った。いわゆる、時計と反対回りにカギが向いたマークが、あちこちで幸運のマークだとか、太陽を示すマークとして古くから使われてきたことを言ってたんだろう。

ユダヤ人の女の子がすっと手を挙げて、
「つい最近も、このカレッジの駐車場を歩いていたら、ある車の中に 『カギ十字』 を刻んだキーホルダーが飾ってあって、ドキリとしたの。でもよくよく見たら、『ああ、オリジナルな意味で使ったグッズなのね』 と分かったんだけど……」
と言った。
何気なくどこかを歩いていても、視界の隅に 「カギ十字」 らしきマークを見ただけで、どきっとする人生があるんだなあ、と、こんどはこちらがドキリとさせられた。
私だったら見落としてしまってお終いの何かに、ドキリとしたり、許せないと思ったり、傷ついたりする人たちがたくさんいて、また、その逆もあったりして、そんな風に世界ができているんだなあ、とあらためて思う。

この日の授業は、主にパワーポイントを使った講義形式が多かった。
その中で、ひとつだけビックリした史料があった。
ズーク先生が、「奴隷制廃止論者(abolitioninst)の歌」 として紹介した映像がこれ

先生は 「歌えといわれても、僕は楽譜が読めないから、どういう歌か分からないんだけど……」 というが、ほんの数秒のうちに見て取った限り、ひえええ、これ、蛍の光じゃん!

「ちょっと待った~! それ、日本じゃ卒業式とかお別れの場面で普通に歌ってる曲ですっ」
……と私が発言したかというと、ははは、そんなとっさの発言ができるわけないじゃあないですか。
でもまあ、結論からいうと、黙ってて良かった~。

一瞬、「蛍の光」 は、奴隷制廃止論者の歌を下敷きにできたのか、と度肝を抜かれたけれど、これを読む限り、そうではなかった。

つまり、「Auld Lang Syne」 という原曲があって、これ自体は別れの場面で歌う曲で、このメロディーを借りて、奴隷制廃止論者が歌詞をつけた、というだけの話なのだった。
ああ、びっくりした~。

この日は授業の後、少しズーク先生と話しをした。
彼が、この授業の教科書として選んだ、
Black Rednecks and White Liberals という Thomas Sowell の本について。

「今回の課題だった第3章には、すごーく困惑させられました。なるほど、著者のいうように、奴隷制度は世界中で見られた制度であって、人種差別自体より歴史が長いというのは分かります。でも、『アメリカより、トルコなどイスラム社会のほうが奴隷をひどく扱ってきたじゃないか』 だの、『欧州とアフリカに住む今の人々の格差に比べれば、アメリカにいるそれぞれの子孫の格差なんて小さいもんだ。アメリカに連れてこられてなかったら、もっと貧しい暮らしをしていたはずだ』 だの、そういう物言いってどうなんでしょう?」

みたいなことを、ヒジョーにたどたどしい英語でどうにか伝えると、彼もうなづいて、「いや、まあ、Sowell ってそもそも、非常に controversial な論客だからね。これが、非アフリカンアメリカンだったらまた違うんだろうけれど、彼自身が アフリカンアメリカンというところがメディアの中でも意味を持ってるんだ」 という。

「私もSowellのウェブサイトやらあれこれ見にいって、彼のオバマ大統領批判なんかも読んだから、彼の政治的スタンスはだいたい理解しているけれど、彼が、『アメリカにおいては、職場の男女差別はもはや存在しない。残されている問題は、結婚するとか子どもを生むとか、個人の選択によるものだ』 みたいなことを言ったのには、むちゃくちゃ仰天しました」

と正直に伝えたら、ふむふむとうなずいていた。
ズーク先生なりに、なぜこの著者の本を教科書に選んだかの意図をあれこれ説明してくれたので、

「その選択は好きだし、実際、議論を活性化させるには良い本だと思います」 と答えておいた。

……なーんて話をしちゃったから、また、第四章も読むしかないなぁ。
ズーク先生自身、授業中に、「本を読んでこなくても、議論に参加してくれればいい」 と言っちゃってるから、もはや、生徒の半分はリーディングの課題を一切やってない模様。イラン娘なんて、下手したら本も買ってないんじゃないかなぁ。
「読まなくていい」 といわれても、知識を十分にインプットして準備しない限り、その場で議論なんかとうていできない私だから、ああ、やっぱり今夜も夜なべして、辞書をひきひき読書するしかないのだ。

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プロフィール

おぐにあやこ

Author:おぐにあやこ
名前■おぐにあやこ
生年■1966年 ひのえうま
仕事■07年秋まで新聞記者。仕事を辞めて渡米。11年、新聞記者に出戻り。
趣味■読書、歌、旅
目標■ちょっと背伸びして、
 疑問符を感嘆符に変える事
苦手■勧善懲悪


著書■
▼「薬(ドラッグ)がやめられない 子どもの薬物依存と家族」(青木書店)
「ベイビーパッカーでいこう 赤ん坊とザックかついでスペインの旅」(日本評論社)
「魂の声 リストカットの少女たち」(講談社)
「いいじゃない いいんだよ 大人になりたくない君へ」(共著、講談社)
「アメリカなう。」(小学館)
「アメリカの少年野球 こんなに日本と違ってた」(径書房、ミズノスポーツライター賞)
「?が!に変わるとき  新聞記者、ワクワクする」(汐文社、読書感想画中央コンクール課題図書、高校生の部)

訳書■
「自傷からの回復 隠された傷と向き合うとき」(みすず書房)

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