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ヒラリーと涙 (と日本のメディア)

月曜日にヒラリーさんが涙ぐんだ、という報道を見て、最初に思ったのは、「戦略かな、それとも思わず泣いちゃったのかな」 だった。
米国のメディアは、何度も何度もヒラリーさんが涙ぐむシーンを放映したらしい。
米国では過去に、感極まった姿をさらしたせいで選挙戦から落ちこぼれた候補者もいたというし、テレビ局によっては「感情的になる人にこの国は任せられない」的なコメントを採用したらしい。
どう考えても、戦略としてはあまりに危険だ。
それとも、生半可な戦略じゃもうダメだ、と背水の陣で、ありえない戦略をあえて採ったんだろうか。

翌朝の新聞でその時の質疑応答を読み返し、私なりに、戦略ではなく、むしろ「思わず泣いちゃった」 んだろうと結論付けた。
ヒラリーを泣かせた質問は、これ。

My question is very personal. How do you do it? How do you keep upbeat and so wonderful?

「あなたはどうしていつも前向きで素晴らしくいられるの?」 ってな感じだろうか。

背水の陣だった彼女が、本気で 「涙」 や 「人間らしい感情の吐露」 を戦略として使うつもりなら、この手の質問の時に泣いちゃったりしない気がした。
むしろこの質問、ヒラリーさんにとっては、自分を丸ごと受け止めてくれるニュアンスを持ってたんじゃないかな。
「いつも強気で前向きな自分を維持しようとがんばってるあなたってほんと、すごいよ」

って、そんな風に。

ところでところで。
この日、ネットで読んだ朝日新聞の記事の見出しは、「ヒラリー氏の目に涙。『うそ泣き』の見方も」 だった。

(ちなみに、「うそ泣き」 は英語で、crocodile tears. ワニの涙、なんだって)

あれこれネットで日本のメディアを調べてると、「うそ泣き」 でなくても、「涙」 に注目した記事がとても多かった気がした。
一方、我が家で購読しているワシントンポストの場合は、文中で

Her voice cracked, and her eyes appeared to well with tears.

と書いているけれども、見出しは

"It's Not Easy,"An Emotional Clinton Says

特に、見出しには tears の文字はなかった。
その後の関連記事の中でも、たいがい emotional や emotion って言葉が多用されるだけで、tears や、まして crocodile tears なんて文字はほとんど目にしなかった気がする。

もしかして日本のメディアって、「涙」 が大好き?
まあなあ。
小泉元首相が相撲を見て 「感動したっ」 と目を真っ赤にしたら、数々のテレビがこの映像を何度も何度も流したしなあ。
「絶対に泣ける!」 や 「全米が泣いた!」 で、モノがたくさん売れる国だもんな。

だいいち。
こうやってあれこれ 「涙」 記事をめぐって調べちゃう私自身が、「涙」大好き日本メディアの一員なのかも……。

自戒しつつ、翌日のニューハンプシャーの投票結果は結構夜遅くまで、テレビにかじりついちゃった。直前の世論調査で引き離されていたヒラリーさんが辛勝し、それも女性に票を伸ばしたと聞いて、少々複雑な気分。
私自身が、ヒラリー「うそ泣き」説に、「冗談じゃないわよっ! ちょっと泣いただけで、『だから女はダメ』 などと言う男社会を生き抜いてきたのよ。わざとこんな場面で泣くわけないでしょっ!」 などと憤ってしまったクチである。
少なくとも、ヒラリーさんをめぐって「うそ泣き」説がわき起こった段階で、女性投票者はついジェンダーを意識するし、思わず彼女をかばっちゃう気がする。

「こういう結果が出ると、やっぱりあれは『うそ泣き』としか思えないよな」
なーんていう知人の男性記者の声を聞くにつけ、「確かに、あの涙自体は、戦略でなかったにしても、かなり、でかかったよな」 と思ってしまう。

民主党支持者で、日本茶が好きで、「アメリカのケーキは甘すぎてダメ」という志向を持つ米国人女性(白人)は、これまでも 「女性であるヒラリーが健闘しているのも、黒人であるオバマが健闘してるのも、どちらも私はうれしいの。だからどちらに投票するのかすっごく迷ってしまうわ」 と言っていた。
今回のニューハンプシャーの結果、どう思う? と尋ねたら、「すごくうれしい」 という返事。 

彼女によると、
「オバマには揺り動かされるけれど、あまりに演説が上手過ぎて、演説だけでいいの?って不安になっちゃった。そんな時、ヒラリーが人間的な一面を見せたでしょう? 彼女はもっと人間的な一面を見せていいのよ。 え? 『うそ泣き』? それはありえないわ。アメリカでは男が泣くよりずっと、女が泣くほうがあれこれ言われちゃうの。そんな危険な戦略、使うわけないわ。ただ……。感情を吐露したことが、今回の選挙では helpful だったのは間違いないと思うけどね」

つまり、やっぱり彼女も、ヒラリーさんの「思わず涙」に取り込まれたクチ、というわけ。
投票前の世論調査よりも、ずっと女性票がヒラリーさんに流れた一番の原因は、あちこちで報道されているような、「人間的な一面」 を見せたこと自体ではないと思う。
むしろ、ちょっと涙ぐんだだけで、「あのヒラリーが emotional になったぞ!」「あれも戦略じゃないか?」 などと大騒ぎした報道 (多くの場合がネガティブな) が、逆に、女性のハートに火をつけちゃったんじゃないかな。

一夜明けて、米国メディアはヒラリーさんの勝因分析に躍起になってる。
もちろん、勝因の一つとして 「人間的な一面を見せたこと」「投票日の前日に彼女のニュースが垂れ流され、露出度がアップしたこと」 を多くのメディアが触れている。でも、これらのニュースの中でも emotion って文字はよく見たけれど、tears はなかった気がする。
日本ではどうかな、と見てみると……。

産経新聞の記事で、ヒラリーさんの勝因は「涙」と米国紙が分析した、という見出し。
でも、この記事を読むと、米国紙からの引用部分には 「涙」 の文字は出てこない。
実際、引用元のワシントンポストでも、勝因分析として、<声を詰まらせ、感情を吐露した瞬間が投票直前に何度も何度もテレビで放映されたこと> と書かれているだけで、「涙」 そのものへの言及はない。

それでも。
私が日本で整理部 (見出しをつける部署) にいたら、この記事に絶対、 「涙」 という見出しをつけちゃう気がする。
私も、日本のメディアも、やっぱり好きなのよ、涙が。

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プロフィール

おぐにあやこ

Author:おぐにあやこ
名前■おぐにあやこ
生年■1966年 ひのえうま
仕事■07年秋まで新聞記者。仕事を辞めて渡米。11年、新聞記者に出戻り。
趣味■読書、歌、旅
目標■ちょっと背伸びして、
 疑問符を感嘆符に変える事
苦手■勧善懲悪


著書■
▼「薬(ドラッグ)がやめられない 子どもの薬物依存と家族」(青木書店)
「ベイビーパッカーでいこう 赤ん坊とザックかついでスペインの旅」(日本評論社)
「魂の声 リストカットの少女たち」(講談社)
「いいじゃない いいんだよ 大人になりたくない君へ」(共著、講談社)
「アメリカなう。」(小学館)
「アメリカの少年野球 こんなに日本と違ってた」(径書房、ミズノスポーツライター賞)
「?が!に変わるとき  新聞記者、ワクワクする」(汐文社、読書感想画中央コンクール課題図書、高校生の部)

訳書■
「自傷からの回復 隠された傷と向き合うとき」(みすず書房)

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