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「職場に育児を持ち込まない」かぁ……

下のエントリーにレビューを書いた「ガール」(著・奥田英朗)という短編集の中に、「ワーキング・マザー」という小説がある。これが今も引っかかってる。
心に。

29歳で子どもを産んだ女性が32歳で離婚し、北海道の実家には帰らず、東京でシングルマザーとして子育てに仕事に孤軍奮闘する話なんだけどね。息子の小学校入学を気に、久しぶりに営業職に復帰した主人公はもう夢中で仕事をバリバリやり始めるんだけど、他部にいる同期の独身女性社員と仕事上のライバル関係になったことがきっかけで、なんとなく対立してしまうわけ。

この主人公は「育児を言い訳にしない」がモットーで、だから、職場の歓迎会で「子どもがいるなら飲み会ではなく昼食会にする?」などと上司から言われても「いえ、夜で大丈夫。私も飲みたいです」なんて答えてしまう。
後輩の女性社員なんかからは、「立派だなあ。育児を錦の御旗にしないから」「会社で女の人に育児を持ち出されたら、周りは何も言えなくなるじゃないですか。特に出産をしてない女性は、口さえはさめないようなところがあるし」「先輩は、子育てを一切理由にしないから立派なんです」などと言われている。

ところが、ある会議の席で、対立関係にある独身女性社員に日曜日の仕事への出勤を求められて、主人公は思わず「子どもの授業参観があるので」と発言しちゃうのね。
その途端、事情をあまりしらない男性社員たちに「ええ! ママさんだったんですか」とか「日曜日は出なくてもいいです。子どもとの約束が一番!」とかなぜかちやほやされ、あれよあれよという間に男性社員たちに守られている感じになり、厚遇を受け、会議は午後6時までに終わるというルールが男性社員の間で取り決められるわけ。
で、その間、くだんの独身女性社員はカヤの外に置かれるのね。

ただし主人公はこの後、「育児を錦の御旗にしてしまった」と大変反省し、「あの日はごめん。ルール違反だった」「仕事に育児を持ち込んだ」と独身女性社員に素直に謝るわけで、これを機に、2人はなーんとなくお互いに分かり合える、みたいな話で終わる。

何にこだわっているかというと、実はこの小説のストーリーとはまったく関係ないんだけど。
「育児を錦の御旗にしてはいけない」
「仕事に育児を持ち込むのはルール違反」
という考え方について。

私は、仕事に思い切り育児を持ち込んで来たし、どうしようもない時は「錦の御旗」を振りまくって乗り切ってきた気がするんだよね。

例えば、実家のヘルプが望めないうえ、子どもの性格上、ベビーシッターさんに保育園が終わった後の夜の保育を毎日お願いするのは無理だとわかった私は、育児休業から復帰する段階で、「保育園のお迎え時間に退社させてください」と頼まざるをえなかった。
夜のゲラチェックや原稿の問い合わせのために自宅の電話がなるたび、2歳の息子が半狂乱になって「母ちゃん、電話に出ないで!」と叫ぶようになった時には、「今の持ち場は無理です」と上司に吐露するしかなかった。
息子がストレスをためこみ、歩けなくなった時は、2週間も仕事を休ませてもらった。その直後しばらくは夕方4時や5時に保育園にお迎えに行かせてもらえるようにも頼んだ。

私が夕方早く退社した分、職場の同僚や先輩記者には随分と迷惑もかけた。
いつもいつも心の中で感謝していた。
そもそも、私が自宅でゲラをチェックできたのは、その時間まで職場に残り、ゲラを私の自宅までファックスしてくれた「誰か」がいたからで、その「誰か」は、ある時は上司であり、ある時は同僚だった。

だからこそ、同僚の誰よりもたくさんの原稿を出そう、良いものをコンスタントに出していこう、と努力はしてきたし、子どもを産んでからの私の原稿を書くスピードは、出産前の少なくとも3倍にはなっていると思う。でも、客観的に見れば、私は圧倒的に「子育て」を仕事に持ち込んできたし、正直言って、ここまで持ち込まねば、今まで働き続けては来られなかった。
それが私の子育ての現実だった。
子どもを言い訳にした、というよりも、子どもの心の健康を守りながら、自分も働き続けるためには、正直に会社でプライベートな弱味まで全部ぶちまけるしかなかった、というほうが本音に近い。

子育てを絶対に職場に持ち込まない主義の人から見ると、随分と甘えた態度に見えたと思う。
でも、職場で弱味を見せない人が、一方で、「あの人ばかり配慮されてずるい」などと私のことを言っていると風の噂に聞くたびに、「配慮してほしいなら正直に言えばいいのに」と思ったことも確かだ。
「配慮してほしい」と言った途端、リスクを負う。
100%仕事人間ではいられません、と宣言するわけで、「使えないヤツ」と烙印を押されるわけだから。職場に育児を持ち込む時は、常にそのリスクを意識し、覚悟してきたつもり。

「育児を職場に持ち込まない」と言い張りながら、心の中で不満をためこむぐらいなら、どうしようもない時は「ごめんなさい!」と育児を理由に配慮をお願いいたとしても、常に心の中で周囲の人に感謝し、配慮してもらった分の結果を仕事で出そう、と努力し、より良い原稿を出していくほうが、ずっと前向きなんじゃないの?という思いもあるんだよね。

職場にプライベートを持ち込むべきでない、という考え方が根強い社会で、「職場に育児を持ち込むのはよくない」という考えの主人公を潔く描いた小説を読みながら、
「私はこの7年間、職場でプライベートをまき散らすような仕事の仕方をしてきたんだよなぁ」
とつい考え込んでしまった。
人生を何度やり直しても、同じ道しか選べない類の話ではあるんだけどさ。

感謝してもしきれないほどに常に支えてくれている上司や同僚の顔を思い浮かべながら、笑顔で励ましてくれた人たちの中にはもしかしたら心の中で「子育てを持ち出されるとこっちは何も言えないもんなあ。はぁ~~」とため息の一つくらいついていた人もいたのかもしれないと、思ったりもする。
でも結局はこの働き方でしか私は子育てと仕事の両方を回していけないし、だから、「ごめんなさい」と謝るよりは、「ありがとう」と笑顔で言うことにしよう。



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プロフィール

おぐにあやこ

Author:おぐにあやこ
名前■おぐにあやこ
生年■1966年 ひのえうま
仕事■07年秋まで新聞記者。仕事を辞めて渡米。11年、新聞記者に出戻り。
趣味■読書、歌、旅
目標■ちょっと背伸びして、
 疑問符を感嘆符に変える事
苦手■勧善懲悪


著書■
▼「薬(ドラッグ)がやめられない 子どもの薬物依存と家族」(青木書店)
「ベイビーパッカーでいこう 赤ん坊とザックかついでスペインの旅」(日本評論社)
「魂の声 リストカットの少女たち」(講談社)
「いいじゃない いいんだよ 大人になりたくない君へ」(共著、講談社)
「アメリカなう。」(小学館)
「アメリカの少年野球 こんなに日本と違ってた」(径書房、ミズノスポーツライター賞)
「?が!に変わるとき  新聞記者、ワクワクする」(汐文社、読書感想画中央コンクール課題図書、高校生の部)

訳書■
「自傷からの回復 隠された傷と向き合うとき」(みすず書房)

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