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出張治療の新米整体師さんの話

リストカットの取材で出会った21歳の彼女が、整体を学び始めた。
「おぐにさん、肩こり、腰痛、ありません? 出張治療に行きますよー」という。
仕事の昼休みに、来てもらう約束をした。

約束の正午より10分前、卓上の電話が鳴った。
受付の女性から。「おぐにさんにお客さんです」。
慌てて1階の受付に駆けつけたら、いた。
胸張って立っていたその姿を見ただけでもう、十分に胸がいっぱいになった。
頬がピンク色なのがうれしかった。こんなに健康そうに見える彼女は初めてだ。
彼女との、この2年間を思い出した。
血の気のない顔。生気のない表情。「死にたい」「消えたい」のメール。ODの後のヘロヘロになった電話……。

彼女は足下に半畳分くらいもある大きな荷物を持っている。
「治療用のマットも持ってきちゃいました」という。
試しにその荷物を持とうとしたら、とんでもなく重かった。
こんな大きな荷物を、この子が、アパートから駅までの徒歩15分の道を歩いてきたんだと、電車の中で周囲の人の目も気にせずここまでたどりついたんだと思うと、もう、鼻の奥がつーんとした。

地下の女性休憩室の畳部屋で、肩こりの治療をしてもらうことにした。
らくだ色のトレーナーを脱いだその下に、整体師さん用の白衣を着ていた。
「おぐにさん、びっくりさせちゃっていいですか?」
いたずらっぽい笑いとともに彼女が差し出した小さな紙片。名刺だった。差し出し方まで堂に入っていた。

ああ、もう限界。
結局、泣いちまったぜ。
ほんと、よくここまで持ち直したね。

肩胛骨の部分を伸ばす。
片手で頭を支え、もう片手で肩を押す。
気持ちいい、ほんと。
「まさか、あなたに癒やされるなんてねえ」と夢うつつの私。
「本当に。私が人を癒やす側に回るとは。えへへ」と彼女。

自傷衝動が消えたわけじゃない、という。
過食だって時々するという。
眠れないのも相変わらずだという。
「でも、寝なくても死なないと分かったし。ストレス解消だぞーっと食べちゃう。過食しても落ち込まない。部屋のあちこちに『どんなに辛くても明日はくる。なぜなら、明日とは『明るい日』と書くから』って書いた紙を貼り付けてあってね。落ち込んだら、それを見るの」
この2カ月、ただただハイテンションで突っ走っているだけなら、途中で派手にまたすっころぶだろう、と案じていたのだけれど、彼女なりに何度も何度も小さく転びながら、時に、休みながら、ここまで歩いてきたのだと知って、少し安心した。
「今、21歳かぁ。私が21歳の時って、まだ自傷してたぞ」と私が言って、2人で笑った。

今日はだから、肩が軽い。
ついでに、心まで軽くて、温かい。

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プロフィール

おぐにあやこ

Author:おぐにあやこ
名前■おぐにあやこ
生年■1966年 ひのえうま
仕事■07年秋まで新聞記者。仕事を辞めて渡米。11年、新聞記者に出戻り。
趣味■読書、歌、旅
目標■ちょっと背伸びして、
 疑問符を感嘆符に変える事
苦手■勧善懲悪


著書■
▼「薬(ドラッグ)がやめられない 子どもの薬物依存と家族」(青木書店)
「ベイビーパッカーでいこう 赤ん坊とザックかついでスペインの旅」(日本評論社)
「魂の声 リストカットの少女たち」(講談社)
「いいじゃない いいんだよ 大人になりたくない君へ」(共著、講談社)
「アメリカなう。」(小学館)
「アメリカの少年野球 こんなに日本と違ってた」(径書房、ミズノスポーツライター賞)
「?が!に変わるとき  新聞記者、ワクワクする」(汐文社、読書感想画中央コンクール課題図書、高校生の部)

訳書■
「自傷からの回復 隠された傷と向き合うとき」(みすず書房)

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