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記事283◆じゃりン子チエちゃんに会いたい、の記事

夏の連載企画は、ドラマやアニメのキャラクターで、今だから会いたい人物を選んで、思い入れたっぷりに書こう、という話になりまして。


■掲載年月日 2007年08月16日
■あいたくて 07夏
■昭和の主人公たち/4 チエちゃん
■「日本一不幸」でも、育った環境は「今より豊か」


 アスファルトを焦がす炎天下、大阪・通天閣の街を歩く。くし揚げ、どて焼き、ホルモン焼き。開発に取り残された街並みも、昭和風情が逆に受け、今では立派な観光地だ。若いカップルがあちこちで記念撮影する。

 この街を訪ねたのは、漫画「じゃりン子チエ」(作・はるき悦巳)の主人公チエちゃんに会いたかったから。働かぬ父テツに代わり、「うちは日本一不幸な少女や」とぼやきながらも、ホルモン焼き屋を一人切り盛りする小学5年生。けなげで強く、たくましかった。

 舞台は「大阪の下町」。劇場版(81年)で「通天閣の見える街」という設定が加わった。通天閣の足元で、チエちゃんの残像を尋ね歩く。しかし、街で返ってくる言葉は「チエちゃん? おらへんおらへん。漫画の話や」から「大阪人は、まあ言うたら皆、チエちゃんみたいなもんや」まで。路地を1本入れば観光客は消え、漫画のままの風景が広がっているのだが、ホルモンを焼いたり、げた履きで遊ぶ小学生など、どこにも見つからないのであった。

 当たり前だ。今どきの小学5年生は夏休みといえど塾通いに忙しい。いじめ自殺の相次ぐ教育現場では、何年も前から「生きる力」の教育が叫ばれてきたが、厚生労働省の研究によると「中学生の4人に1人がうつ状態」だ。ニートが社会問題となる一方で、子どもが職業体験するテーマパークが連日の大人気。こんな21世紀を、チエちゃんが見たら、なんと言う?

 「アホらし。うちなんかホルモン焼いて、父親食わせてるわ」。そんな声でも聞こえてきそうだ。

   ■

 そうか、声――。
 ふと思いつき、テレビ版でチエ役の声優を務めた元参院議員、中山千夏さん(59)を訪ねた。「家計を背負い、店を切り盛りする大人びた一面と、学校での素直な普通の小学生という一面とが、チエちゃんには自然に同居していた。それは根っこに『自分』がしっかりとあるから。働くことで社会とかかわっているからこそ『自分』ができたのだろうし、『自分』があるから社会とつながってもいけた。今の子どもたちは根っこに『自分』がないから、社会に出ていけない。大人になれない。だから苦しんでいるんでしょ」

 チエちゃんが今の時代にいてくれたなら。そんな思いを吐露したら、中山さんはフフフと笑って言う。「今なら学校でいじめられるかも。父親のことやげたのことで、他の子と違うからって。あるいは境遇の珍しさが面白がられ、テレビ出演させられて、視聴者のオモチャにされちゃうかもねえ」

 確かに今の社会で、チエちゃん一家は前途多難だ。テツは養育放棄で児童相談所に通報されかねない。同級生の母親は「あの子と遊ばないほうが」などと言い出しそうだ。地域コミュニティーが崩れた今、チエちゃんを陰に日なたに守ってくれるご近所さんの存在も期待できない。

 「チエちゃんの育った環境は今の子よりずっと豊かかも」と指摘するのは、東海学院大教授の長谷川博一さん(臨床心理学)だ。働かない父親。日常にいるヤクザや暴力。一見ひどい環境にも見えるが、「周囲の人間関係は豊かで相補的、循環性もある」と言う。
 例えば、ヤクザに強いテツも、娘のチエには頭が上がらない。チエは学校教師の言うことを素直に聞くが、テツはその教師を平気で殴る。「一人も完ぺきな人物はいないが、相互に関係を保ち、小社会が成立している。ところが今の子どもは家庭でも学校でも『教えられる存在』で、人間関係は一方向。閉ざされた家庭で完ぺきを演じようとする親が子どもに完ぺきを押し付ける。子どもには息苦しい時代です」

 連載開始の78(昭和53)年から約30年で、こんなにも子どもを取り巻く環境が変容したのかと嘆じていたら、かつて担当編集者だった双葉社の大沢紀寛さんがこんな話をしてくれた。「あの漫画に描かれた風景は実は昭和30年代のもの。作者が子ども時代に見た風景です。連載当時すでにげたを履いた子や家業を切り盛りする子などいなかった。チエちゃんは、当時の読者にとっても懐かしさやあこがれの対象だったのです」

   ■

 チエちゃんの面影を探して、出会ったのは「平成のゴッド姉ちゃん」こと歌手の大西ユカリさん(43)。通天閣から徒歩1分のマンションに暮らし、新世界を拠点に、昭和歌謡からソウルミュージックまでを歌う。

 「チエちゃんと私、少し似てるかも。父親は娘の私のコートを質入れした金で友だちに酒をおごるファンキーな人。私は小学4年で祖母の勤め先の和菓子屋で店番のアルバイトをしました。2時間で300円やったかな。稼いだお金で野口五郎のレコード買った時は最高やった。親も、働いて稼ぐことをほめてくれた。早く大人になりたかったもんや」

 和菓子屋の向かいには、履物屋と荒物屋さん。困った時はそこの大人たちが助けてくれた。ほめたり、しかったり。「普通考えたら、チエちゃんの環境やったら子どもはグレるやろ。そやけど、あれだけの情に囲まれとったら、少々グレても心は曲がらんやろね。私は子どもがいないけど、いたら私が母にしてもらったような子育てを今もできたかなあ。子どもも変わったけど、大人も変わったもん」

 どきっとした。変わったのは大人。「チエちゃん」の不在ばかりを嘆いてきたけれど、漫画に登場する大人たちもまた、今の時代には見つけにくいのかも。

 ユカリさんと別れ、新世界の雑踏に放り出された。最後に見上げる通天閣。「チエちゃんは今も存在しうる」という長谷川さんの言葉がふとよみがえった。

 「まず大人が変わること。チエちゃんの周囲には、子どもと対等に遊ぶ大人や、威厳のある怖い人、頼りないほど優しい人、少々の悪事を笑い飛ばしたり、時には子どもをそそのかす人まで、完ぺきでない自分を隠さない大人が何人もいた。僕らが多様に地域の子どもに向き合えば、今もチエちゃんは生きていけるのではありませんか」

◇コミック発行は2000万部超
 青年コミック誌「漫画アクション」に1978~97年の約20年間連載された。作者は、はるき悦巳さん。80年度小学館漫画賞を受賞。小説家、井上ひさし氏も一般紙の文芸時評で「絵を地の文とみなせば、この作品は近来、出色の通俗・大衆・娯楽・滑稽(こっけい)小説のひとつと言い得よう、それもすこぶる実験的な」と大絶賛。
 81年春、アニメ映画化(監督は高畑勲氏)され、同年秋から毎日放送(TBS系)でテレビ番組も開始。90年代も再放送が続いた。
 双葉社によると往年のファンに加え、今は若い女性にも人気で、コミック発行部数は2000万部を超えている。
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プロフィール

おぐにあやこ

Author:おぐにあやこ
名前■おぐにあやこ
生年■1966年 ひのえうま
仕事■07年秋まで新聞記者。仕事を辞めて渡米。11年、新聞記者に出戻り。
趣味■読書、歌、旅
目標■ちょっと背伸びして、
 疑問符を感嘆符に変える事
苦手■勧善懲悪


著書■
▼「薬(ドラッグ)がやめられない 子どもの薬物依存と家族」(青木書店)
「ベイビーパッカーでいこう 赤ん坊とザックかついでスペインの旅」(日本評論社)
「魂の声 リストカットの少女たち」(講談社)
「いいじゃない いいんだよ 大人になりたくない君へ」(共著、講談社)
「アメリカなう。」(小学館)
「アメリカの少年野球 こんなに日本と違ってた」(径書房、ミズノスポーツライター賞)
「?が!に変わるとき  新聞記者、ワクワクする」(汐文社、読書感想画中央コンクール課題図書、高校生の部)

訳書■
「自傷からの回復 隠された傷と向き合うとき」(みすず書房)

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