スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

記事196◆体操の佐藤弘道おにいさんインタビュー

■掲載年月日 2005年06月22日
■15万人の3歳児の定点観測
■子供は変わらない、子育てが変わった
◇NHKで12年間、体操のお兄さん・佐藤弘道さん


 NHKのテレビ番組「おかあさんといっしょ」の体操のお兄さんとして、佐藤弘道さん(36)がかかわった3歳児の数はおよそ15万人。出演開始の93年から12年間の定点観測の結果、「『子供が危ない』と言うけど、僕の出会った3歳児は昔も今も変わっていない」と力説する。では変わってしまったのは誰?

 「ひろみちおにーさん!」。佐藤さんの姿を見つけた幼稚園児たちが、ワッと駆けてきた。ここは埼玉県所沢市の小手指(こてさし)幼稚園。佐藤さんが主宰する「スポーツらくがきっ子クラブ」という体操教室が定期的に開かれている。佐藤さんはしゃがみこみ、園児たちを待ち受ける。「骨、折ったってホント?」と園児たちに抱きつかれ、「見せてあげる」とTシャツの襟元を引っ張って見せた。テレビ番組からスタートした筋肉ミュージカルの舞台で4月に剥離(はくり)骨折した鎖骨は今も腫れている。「ほらね」
 園児が遠慮がちに鎖骨をなでる。「おにーさん、大丈夫?」「大丈夫さ!」。園児の間で歓声が上がる。佐藤さんは子供に囲まれている間、一度も立ち上がらなかった。子供と同じ高さの目線でまっすぐに子供の瞳を見つめていた。

 ■「負け」の日

 93年から今年春まで続いた「おかあさんといっしょ」のきっかけは番組オーディションだった。以前は中高年のスポーツ指導員だったから、カルチャーショックは大きかった。「おもらしは日常茶飯事。けんかや転倒、急に泣き出す子もいた」。子供をもっと知らなくては、と収録のない休日には子供の体操教室に通った。
 「スタジオで親と離れるのは、どんな3歳児でも不安です。不安を取り除くのが僕らの仕事。だから子供が全員参加できた日は僕らの『勝ち』。一人でも参加できなかった日は『負け』」。毎日の「勝負」を繰り返すうち、段々と「勝ち」が増えていった。

 ところが10年目を迎えたころだろうか。「負け」の日が急に目立ち始めた。「全員が参加してくれる『勝ち』の日がほとんど消えた」。参加できない子の数も増えていった。
 なぜだろう、と佐藤さんは考えた。子供は変わっていないように見える。では、変わったのは誰?

 答えは「お母さん」だ。いつもより濃い化粧でおしゃれした母親に連れられ、NHKのスタジオにやってきた子供たちは新しい場所より、普段と違う母親の気迫の方に緊張する。少しでも娘をかわいく見せたくて、母親が髪をお団子に結ったせいで、髪留めが痛いと泣いた子がいた。熱があるのにスタジオに連れてこられ、熱性けいれんを起こした子もいた。母親から離れようとしない子供をスタジオの隅でたたいた母親もいた。そんな母親が少しずつ増えていった。

 「一番びっくりしたのは、本番中に転んでしまった我が子に『大丈夫?』と駆け寄って、収録をストップさせてしまったお母さん。心配なのは分かります。でも、僕はその子が自分で立ち上がるのを待ってあげたかったな」

 ■校門に立った母

 「待ってあげたい」と思うのには理由がある。自身もそんなふうに育ててもらったからだ。東京・新宿のやきとり屋に生まれた。14世帯が住む中野のアパートは大家族みたいに仲が良く、家業で忙しい父母の代わりに、地域の大人や年上の子供が面倒を見てくれた。

 小学校6年の時、クラスのガキ大将の提案でケンカ大会が始まり、けが人が出た。本当は佐藤さんも「おもしろそう」と自ら参加したのだが、佐藤さんの母親はガキ大将が怖くて参加したと勘違いし、こう言ったそうだ。「(ガキ大将の)言うことを聞かなくていじめられるなら、お母さんのところに逃げてきなさい」。そして実際、1週間も校門の所に立ち続けた。「僕は全然知らなかった。子供の友人関係に介入するでも、関心を持たないのでもなく、見守ってくれていたのです。僕にはいつも『何かあったら母のところにいけばいい』という安心感がありました」

 今は親子の信頼関係が薄れているように見える。「小さいうちから英語などを習わせて必死になる一方で、子供を公園で遊ばせながら携帯電話でメールばかりしている。いらないところで過干渉。でも親子の触れ合いは減っている」

 ■体を動かす

 体操教室の準備運動の前屈では、どの子よりも佐藤さんのほうが体が軟らかくて驚いた。指導員の一人が「あっちのマットまで走ろう」と呼びかけると、園児たちは夢中で平均台を乗り越えていく。マットの上で待っているのは佐藤さん。その胸に飛び込む時の子供たちのうれしそうな顔。体を動かすのが楽しくて楽しくて仕方ない様子だ。「子供のパワーはすごいから毎日体を動かして発散させてやらないとストレスになってしまう。『キレる子供』だって実は運動不足のストレスもあると思う。体を動かせばよく眠れるし、よく食べられる。脳の発達にもいい。一石三鳥でしょ」

 24歳で「体操のお兄さん」と呼ばれてはや12年。今は体操教室の指導やテレビ出演で大忙し。7月から筋肉ミュージカルの夏公演も始まる。今や「お兄さん」より「お父さん」の年齢で、4歳と8歳の息子を持つ父親でもある。それでもやっぱり「お兄さん」と呼ばれることが多い。

 「自分も親になって、お母さんたちのつらさも分かるようになりました。お母さんが『変わった』のはお母さんだけのせいじゃない。お父さんはお母さんを支えているだろうか。お母さんは独りぼっちで子育てをしてないだろうか」

 佐藤さんの原風景は、地域の人々や祖父母らがいろいろな経験をさせてくれたアパート暮らしだ。自分の父母が近所の子供に分け隔てなくご飯を食べさせてやるのも見て育った。「だから僕は、親だけで子育てをしないほうがいいと思う。学校には学校、地域には地域、家庭には家庭にしかできないことがある。大人はもっともっと子供のために頑張らなきゃ」

スポンサーサイト
プロフィール

Author:おぐにあやこ
名前■おぐにあやこ
生年■1966年 ひのえうま
仕事■07年秋まで新聞記者。仕事を辞めて渡米。11年、新聞記者に出戻り。
趣味■読書、歌、旅
目標■ちょっと背伸びして、
 疑問符を感嘆符に変える事
苦手■勧善懲悪


著書■
▼「薬(ドラッグ)がやめられない 子どもの薬物依存と家族」(青木書店)
「ベイビーパッカーでいこう 赤ん坊とザックかついでスペインの旅」(日本評論社)
「魂の声 リストカットの少女たち」(講談社)
「いいじゃない いいんだよ 大人になりたくない君へ」(共著、講談社)
「アメリカなう。」(小学館)
「アメリカの少年野球 こんなに日本と違ってた」(径書房、ミズノスポーツライター賞)
「?が!に変わるとき  新聞記者、ワクワクする」(汐文社、読書感想画中央コンクール課題図書、高校生の部)

訳書■
「自傷からの回復 隠された傷と向き合うとき」(みすず書房)

最近の記事
最近のコメント
最近のトラックバック
月別アーカイブ
カテゴリー
RSSリンクの表示
ブログ内検索
RSSフィード
リンク
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。