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記事151◆ところてんの雑学記事

なぜか妙にウケ、あちこちから反響があった記事。
ところてん、って郷愁を呼び起こすのかもしれません。


■掲載年月日 2004年07月05日
■ところてん 江戸の夏の彩り


 ところてんには思い出がある。あれは夏祭りの夜店か、それとも近所の駄菓子屋だったか。そっと差し出した器に、ところてんを突いてもらった。電球の光にキラキラと輝いて、食べるのがもったいないとさえ思った。

 ところてん。漢字では「心太」と書く。原料はテングサ。赤っぽい海藻だが、何度も真水にさらし、乾燥させると、少し黄味がかった白い色に変わる。これを丁寧に水洗いし、沸騰した釜で煮溶かし、その煮汁をろ過し、固めたものがところてん。水鉄砲のような「突き出し器」で押し出し、ようやくなじみの形状になる。

 今もこの製法でところてんを作る「てん屋」(東京都大田区蒲田)を訪ねた。主人の平野正治さん(55)はこの道三十余年のベテランだ。店頭には水をたたえた木製の箱。その中に少し緑がかった白く半透明のところてんが、塊のまま浮いていた。見るからに涼しげで風流だ。一突き150円。平らなきしめん風や、もずくほど細いものなど、注文に応じて突いてくれる。
 数寄屋造りの店内でも食べられ、こちらは1食500円。昆布やかつお、しいたけのだしで割った酢じょうゆをかけ、ツルツルとすすると、ほのかな磯の香りが口いっぱいに広がった。
 平野さんのこだわりは、材料の伊豆産のテングサだ。「水の流れの速い場所には太くて硬いテングサが、流れが緩やかな場所には細く軟らかいのが生える。硬いものはところてんを固める力が強く、軟らかいのは粘着力が出る。配分が工夫のしどころ」と平野さん。
 前々日からふやかし、前日に煮詰め、10時間かけて固める。店頭に並ぶところてんは毎日できたてだ。新鮮なところてんは緑がかっていて、日がたつにつれ白っぽくなるという。指で押すと、思った以上に弾力があり驚いた。

 「梅雨の晴れ間は、夏の盛りよりも売れる。人は35度を超えるとアイスクリームや氷に行ってしまうから、今の季節が一番の旬なんですよ」と教えてくれた。普段は1日100食程度だが、天気が良ければ2倍にも3倍にもはね上がるお天気商売だ。

 ■「こるも」が語源

 ところてんの歴史は古い。テングサを煮溶かすという製法は、平安時代に遣唐使が持ち帰り、平安京には「心太」を売る店がすでにあった、と伝えられている。当時は「大藻葉(こるもは)」「凝海藻(こるも)」などと呼ばれ、これが心太(こころぶと)↓こころてい↓こころてん↓ところてん、と変化していったようだ。

 「たべもの起源事典」(岡田哲、東京堂出版)によると、大宝令(701年)に「凝海藻」の文字がすでに見られ、朝廷への貢品を定めた「延喜式」(927年)にも「上総より凝海藻、阿波より凝海菜を貢献す」という記述がある。しかし、当時はまだ貴族の口にしか入らないぜいたく品だった。それが庶民の味となったのは江戸時代のことだ。

 ところてんは江戸の夏を彩った。「夏来にけらし白妙(しろたえ)のところてん」なんて川柳もあった。「ところてーんや、てんや」という行商の呼び声を聞くと、江戸っ子たちは「ああ、夏が来たんだなあ」と実感したわけだ。

 江戸末期には初物を好む江戸っ子たちが夏を待てず、春から買いに走ったとか、木製の突き出し器の形状から、あらぬ連想をした男たちが随分つやっぽい川柳を詠んだとか、話題にはことかかない。揚げ句は、ところてんを空中に突き出して、はしや頭に置いた皿で受ける、という珍芸まで登場。「さぁ、つきますぞつきますぞ。音羽のたきのいと桜。ちらちらおつるほしくだり……」と口上の記録まで残る。渥美清さんが演じた「寅さん」にも似合いそうだ。

 ところで、「寒天からところてんができた」と思っている人もいるだろう。実はまるきり逆だ。

 徳川四代将軍家綱公の時代のとある冬、京都の旅館美濃屋の主人、太郎左衛門は、参勤交代中の薩摩藩主島津公に出したところてんの残りを屋外にうっかり放置した。これが夜中にカチンカチンに凍り、昼間に溶けて乾燥し、再び凍り――を繰り返し、数日後にはところてんの「干物」ができた。
 太郎左衛門が試しにこれを煮溶かし、固めたところ、ところてんより白く、海藻臭もない食べ物ができた。これが寒天の原点だ。偶然の産物。ひょうたんから駒。

 ■減る水揚げ量

 江戸の夏に欠かせなかったところてんも、最近はアイスクリームやフラッペに押され気味。原料のテングサの水揚げ量も年々減っている。農水省によると、02年の水揚げは2614トン。これは10年前の約40%に過ぎない。このうち236トンは東京都内の水揚げ量だが、「水温が高くなったことが主原因のようだ」(東京都水産試験場)という。
 最近は、工業的に作った粉末寒天を煮溶かして固めただけのところてんも多いとか。「てん屋」の主人、平野さんは「やはり生の良さを味わってほしい。香りもこしも違うから」という。

 「てん屋」でところてんを突くのは、もっぱら妻直美さん(49)の仕事だ。客の注文を受けてから、店頭で突く。突き出し器から出てきたところてんは、器に当たった途端、ニュルリと広がり川の流れのような美しい模様を作った。角が立って、きらきらしている。
 ああ、そうだった。幼い日に見とれたのはこの光景だ。

 ふと与謝蕪村の俳句を思い出した。

 ところてん逆(さか)しまに銀河三千尺

 ところてんを星ふる天の川に例えた蕪村の気持ちがわかる気がした。そういえば、もうすぐ七夕だ。

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プロフィール

おぐにあやこ

Author:おぐにあやこ
名前■おぐにあやこ
生年■1966年 ひのえうま
仕事■07年秋まで新聞記者。仕事を辞めて渡米。11年、新聞記者に出戻り。
趣味■読書、歌、旅
目標■ちょっと背伸びして、
 疑問符を感嘆符に変える事
苦手■勧善懲悪


著書■
▼「薬(ドラッグ)がやめられない 子どもの薬物依存と家族」(青木書店)
「ベイビーパッカーでいこう 赤ん坊とザックかついでスペインの旅」(日本評論社)
「魂の声 リストカットの少女たち」(講談社)
「いいじゃない いいんだよ 大人になりたくない君へ」(共著、講談社)
「アメリカなう。」(小学館)
「アメリカの少年野球 こんなに日本と違ってた」(径書房、ミズノスポーツライター賞)
「?が!に変わるとき  新聞記者、ワクワクする」(汐文社、読書感想画中央コンクール課題図書、高校生の部)

訳書■
「自傷からの回復 隠された傷と向き合うとき」(みすず書房)

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