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記事62◆息子の不登校に悩む保育士さんの記事

「子育てのプロ」という言葉、無神経に誰にも投げかけないようにしよう、と心から思った取材でした。

■掲載年月日 2001年04月12日
■母:子供と向き合う/3
■息子が不登校に
■育児のプロでも悩む

 黒々と渦巻く三陸の海のそばに建つ保育園に、保育士歴26年の洋子さん(49)=仮名=がいた。人柄が体全体からにじみ出る、見るからに「太っ腹母ちゃん」という感じの女性だ。「保母なのに子供が登校拒否って変かしら」。そう、明るく笑ってみせる。

 「育児のプロという言葉は、保育士を追いつめるんですよ」。知人のカウンセラーにそう助言されたことが、洋子さんを訪ねるきっかけになった。「保母さんはいいなあ。育児のプロだから」。私は初めての育児に戸惑うたび、かつて保育士だった母親の友達に何度も言った。自分の言動を悔やむとともに、プロとして、母としての育児に揺れ、悩んできた洋子さんの話を聞こうと思った。

   ◇   ◇

 洋子さんは、30歳で長男を産んだ。産後2カ月で赤ん坊を同居の姑(しゅうとめ)に預け、保育園に職場復帰した。一家に主婦2人はいらない時代。育児をめぐる姑との確執が、日々強まっていた。
 息子が泣くたびミルクを与える姑に「時間を決めないと小児肥満になる」と抗議した。姑は「太っているのが一番」と取り合わない。なまじ小児肥満の知識がある分、イライラは募る。オムツ外しも、勤め先の園児のオムツが取れるたびに「早く」と焦った。猫かわいがりする姑への反発から、わざと姑の前で厳しく息子をしかった。
 「1~2歳の時期に自立の芽を摘むと、依頼心の強い子になる」「明るくて活発な子は何でも意欲的」。保育園で数多くの「実例」を目の当たりにしている分、理想を求め、現実とのギャップに翻弄(ほんろう)された。

 しかし、実際に息子の面倒を見るのは姑の役目。「育児のプロはいいわね」と近所の人に言われるたび、「私は子供のそばにさえいられない……」と心でつぶやくしかなかった。

   ◇   ◇

 息子の不登校は、小学6年から始まった。ストレス太りで体重が70キロにもなった。中学の時、肥満の治療のため入院した。
 退院する時、医師から息子が院内学級の生徒会長だったことや、入院中は無欠席で授業に出ていたことを知らされた。「なぜ」と息子に尋ねてみたかったが、思春期の息子は声を掛けるたび自室に閉じこもった。
 息子の断続的な不登校は、高校でも続いた。しかし出席日数を計算していたかのように、最後は留年も補習もなくあっさり卒業した。

 19歳を迎えた息子は今、「振り子が戻るように」落ち着き、アルバイトに精を出す。夜、地域のバドミントン部の練習に行くたび、「車で送ってよ」と母親を頼る。最近まで親と口をきこうとしなかったのに。「バイクで行けば」と洋子さんが言い返しても、「いいじゃん、送ってよ」と息子はぶっきらぼうに言う。

 片道20分のドライブ。助手席の息子とは何を話すわけでもない。国道沿いの広告塔のネオンが、息子の横顔を照らす時、「最初からこの子をありのままに受け入れればよかったんだ」と洋子さんは強く思う。

 振り返ると、「保母なのに」と後ろ指をさされるプレッシャーを常に心で感じてきたように思う。同僚の保育士の子育てが順調に見え、「なぜ私だけ」と思い悩みもした。「いい母」「いい子」なんて幻想なのに、と今だから分かる。
 「保育の仕事と自分の子育ては違う。保育の現場では笑えることが、家では切羽詰まってしまう。自分の子育てはね、一生逃げられないもの」

   ◇   ◇

 洋子さんは、保護者を前に体験を語り「子供を見守るだけでいいのよ」と元気よく笑ってみせる。母親の悩みは痛いほど分かる。
 こんな保育士に巡り合える母親たちは幸せだと思う。ふと気がつけば、洋子さんに自分の息子の登園拒否を相談する私がいた。

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プロフィール

おぐにあやこ

Author:おぐにあやこ
名前■おぐにあやこ
生年■1966年 ひのえうま
仕事■07年秋まで新聞記者。仕事を辞めて渡米。11年、新聞記者に出戻り。
趣味■読書、歌、旅
目標■ちょっと背伸びして、
 疑問符を感嘆符に変える事
苦手■勧善懲悪


著書■
▼「薬(ドラッグ)がやめられない 子どもの薬物依存と家族」(青木書店)
「ベイビーパッカーでいこう 赤ん坊とザックかついでスペインの旅」(日本評論社)
「魂の声 リストカットの少女たち」(講談社)
「いいじゃない いいんだよ 大人になりたくない君へ」(共著、講談社)
「アメリカなう。」(小学館)
「アメリカの少年野球 こんなに日本と違ってた」(径書房、ミズノスポーツライター賞)
「?が!に変わるとき  新聞記者、ワクワクする」(汐文社、読書感想画中央コンクール課題図書、高校生の部)

訳書■
「自傷からの回復 隠された傷と向き合うとき」(みすず書房)

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