ここのところ、野球エントリーの更新がないのは、野球の試合がないから、ではない。
むしろ逆。
相変わらず、週末は夏のトーナメントを戦っている。
「
すごい少年野球場」 というエントリーで触れた、Cove Creek Park でのトーナメントも、息子の所属するBCC Hurricanes はなんなく優勝してしまった。
野球の本場Red Stateであるヴァージニア州のチームが続々とやってくるわけで、さすがに苦戦するかと思ったら、組み合わせが良かったのか、何が良かったのか、決勝戦なんか、コールド勝ち。
振り返れば、初戦でぶつかった
Herndon Hawks が一番の接戦だった。
息子自身は、打順2番で先発させてもらったものの、ほとんどの打席でバントサインが出され、もちろんこれを決めてランナーを進塁させたことで先取点につながった、という展開が何度もあったものの、結局、外野にヒットを打てたのは、決勝戦の1本だけだった。
1本でもいいや。
打てたから。
試合の後、監督兼コーチのルーから、「息子さんがバントするのが決して好きじゃないことは分かっているけれど、バントをしろ、とサインを出すたび、彼がちゃんと決めてくれたお陰で試合に勝てました。その自己犠牲のプレイが、チームを優勝に導いたんです。また、内野と外野の両方を同じようにちゃんと守れる数少ない選手でもあるうえ、どこを守らせてもそこでしっかり仕事をしてくれる。彼のお陰で、随分と、フレキシブルな守備体制が取れると感謝しています」 なんてメールももらった。
そんなわけで、バッティングに課題は残しつつも、ちゃんと監督にも評価してもらえてよかったね、という雰囲気でこの週末は終わったわけだったんだけど。
さて、翌週の Smithsburg でのトーナメント。
当初、アズラとクリスが欠場する、と言われていて、さすがに9人じゃまずかろう、と2人の補強を加えることになった。
これが、カウンティーのリーグ戦で戦ってきた宿敵 Germantown Hawks のランディーとエバンだ。
特にエバンは、かつてBCCにいた子で、この春から Germantown に移籍したのだけれど、結局、あの横暴監督にさんざ怒鳴られたりした挙げ句、監督が出場停止になっちゃった例の試合のドタバタに嫌気が差して、チームを辞めた子だった。
トッドコーチとの確執で、チームを去ったドリューの穴埋めに、秋からは、彼が我がチームの仲間になることはほぼ確実視されている。
さらに、注目は、もう一人のランディー。
すべての試合のスコアをつけてきたから、よーく知っている。Germantown Hawks の先頭バッター。長打力があり、ヒットを打たなかった打席なんて数えるほど。おまけに剛速球ピッチャーで、安定感抜群……そんなヤツいるのかよ、と思うけど、ホントにいるのだ。
この2人が補強に入る、と聞いて、「ああ、息子の出番はこれでないな」 と正直思った。
おまけに、欠場すると言われていたクリスが、急きょ、参加できるようになり、今回の登録メンバーは12人。
案の定、第一試合から息子はスタメン落ちした。
実際、ランディーとエバンはすごかった。
特にランディー。
驚くことに、身長は、うちの息子とほとんど変わらない。
でも、打球の速いこと、速いこと。彼と争えるパワーヒッターなんて、我がチームではせいぜいブランドンくらいだ。
でももっとすごかったのは投球。
むちゃくちゃ速かった。
我がチームでは速球はのザックもリオも目じゃない。全然レベルが違う。
なるほど、我がチームが対戦しても、彼からほとんどヒットを打てなかったわけだ。
味方になってみて初めて、そのすごさが良く見えた。
一方、エバンは器用だ。
バントもうまいし、結構打てる。
ピッチャーも、ランディーほどではないけれど、たぶん、我がチームに入れば、3、4番手のピッチャーにはなれるだろう。
でも、恐るべきはその足。
むっちゃくちゃ速い。
ちなみに、このトーナメントで、監督兼コーチのルーは、1塁に出たエバンと息子の2人だけに、こんなサインを出した。
「1球目でセカンドに盗塁。次の1球でサードに盗塁してみろ」
念のため言うと、この年齢のリーグではまだ、ランナーはリードしてはいけない。
つまり、ボールがキャッチャーに届いてからしか、スタートを切れない。
息子は、どうにか3盗まで決めた。
かなり危ういタイミングだった。
でも、エバンは楽々、3盗を決めた。
ひええええ、って感じ。
「チーム一俊足」 が、息子の唯一の自慢だったろうになあ。
このエバンがたぶん、秋からはチームメートになる。
さらに、秋シーズンが終わった後の、年に1度のトライアウト (選抜試験) には、ランディーも加わるのでは、という噂だったのだけれど、息子によると、
「ランディーは、Olney のトライアウトを受けるつもりなんだって」
だそうである。
恐るべし。
今やメリーランド州ランキングで3位につける、モンゴメリーカウンティーでは敵なしの Olney に、その宿敵チームだったはずの Germantown からあっさり移籍するんだもんなあ。
また、Olney が強くなっちゃうなぁ。
(リトルリーグでは、こういった移籍については厳しく制限するルールがあるんだけれど、リトルリーグじゃないので、そういう制限はないのだ)。
強い子は、より強いチームを選んで入る。
その結果、弱い者から、はじき出されていく。
アメリカ社会の縮図だよなあ、と思わずにいられない。
……っていうことは、日本のチームは、いわゆる 「終身雇用」 の反映なのかしらん。
まあ、それはそれとして。
今回のスタメン落ちは、結構、夫婦で色々なことを話し合うきっかけとなった。
もちろん、これまでもスタメン落ちはあったわけだけれど、今回は、補強2人が入った結果のスタメン落ちで、その補強のうちの1人はほぼ我がチームに秋からやってくることは確実と思われるわけで、なんだか秋シーズン以降の息子の運命を垣間見た気がしてしまったのだ。
さらに最近、トッドコーチがいなくなって、チームの守備位置がかなり変動するようになった。
サードが定位置だった息子が、ライトやセカンドを守ることが増えた。
見ようによっては、3人のパパコーチ陣の息子が厚遇され、さらに、そのコーチ陣にあれこれと息子の起用について要求する親の子が厚遇されるようになった、とも言える。
これは、事実をどっち側から見るかによって、少しずつ色合いを変えるような事柄だから、はっきりしたことは言えないとは思う。
でも、第三者であるコーチの判断ではなく、親たちの判断でチームが動くようになったことで、他の親も以前以上にその采配に不信感を持ちやすくなり、その結果、パパコーチ3人組にあれこれ物申す親が急激に増えてしまっていることだけは、ほぼ間違いない。
一方、やっぱり私や夫は、どこかで日本人で、だから、よその親みたいに、「なんでうちの子はバントばかりなんですか」 とか 「なぜうちの子にもっと○○を守らせないのか」 なんてことを監督やコーチ陣に言えない。
というか、言うもんじゃないだろー、とついつい思ってしまう。
だって、みんなほど長打力がないのも確かだし。
確かに、内野でも外野でもどこでも無難に守るけど、息子でないとできないミラクルプレー、みたいなのを見せるような派手なタイプじゃないし。
ただ、親としては心のどこかで、「結局、物言わぬ親を持ったせいで、息子が割を食っているのではないか」 という思いは残るわけで、これが何というか、妙にストレスフルなのだ。
Smithsburg のトーナメントはこれまで3戦戦った。
監督兼コーチのルーは、この試合で、補強のランディーとエバンの実力のほどをきちんと見極めたかったんだろう。色々な場面で、色々な形で、彼らを使った。それがこのトーナメントの一つの目的のようにすら見えた。そういう采配を可能にするために、多くの子が打席から外れたり、守備から外れたりした。
ルーはルーなりに、とても気を遣った。
だから、3試合目には、なんと12人のメンバーのうち、11人で打順を回し、自分の息子であるザック1人をあえてスタメンから外した。
どこからどうみても、「我が身も切るから、これで勘弁してくれ」 的な采配なのだった。
きっと、色々と思うところもあっただろう親たちは、これで何も言えなくなった。
(いや、そう感じたのは私や夫くらいで、案外、言う人はそれでもなお、言うのかも……うむむ)。
決勝戦は、明日。
お相手は、
Glade Valley Athletic Association というスポーツクラブが主宰するトラベルチームらしい。
でもたぶん、どっちにしても、うちが勝つと思う。
息子は、素直に、少しでも活躍して、勝ちに貢献したい、と思っている。
トロフィーがもう一つ増えるのを、心待ちにしている。
でも、なんか私のほうは、少し、心が重い。
ああ、また、スタメンから外された時、息子はどんな風に感じるのかなあ、なんて。
迷うのはたぶん、単に息子がスタメン落ちするからじゃないんだと思う。
日本にいれば、スタメンに入れない子など当たり前の話だし、そもそも、中高生の部活なんて、1年や2年生はスタメンどころかベンチ入りだってできないチームも多いと聞く。そしてそういう問題はすべて、本人の話であって、親がどうこう、という世界じゃない。
一方、アメリカでは、ここがアメリカだから迷う。
なぜなら、選択肢があるから。
おまけに、親がその選択に関われるから。
たとえば、今やメリーランド州9位、なんて常勝チームになってしまったBCC Hurricanes にいる限り、息子はやっぱり、バント専門で、内外野両方守れる 「便利屋さん」 であり続けるだろう。
でも、同時並行で続けてきた、地元のレクレーション目的のチームでは、いまだに彼だって 「エースで4番」 なのだ。
選択肢は、トラベルチームとレクレーション目的のチームの2つだけではない。
たとえば、BCCが組織内で運営しているセレクトプログラムがあり、トラベルチームのトライアウトには受からないけれど、レクレーションチームよりはちょっと上手な子たちが集まって、結構楽しく野球をやっている。
また、最近は、近くの街にリトルリーグもできた。
夫は、「鶏口牛後、って言葉もあるしなあ」 なんていう。
本当に。
息子にとってどちらが良いのか。
これまでは迷いがなかった。
レベルの高い仲間と練習するほうが、勉強にもなるし、本人も楽しい。そう思えたから。
でも、これからさらに競争が激しくなり、試合のたびに、打順が回ってこなかったり、守備につけなかったりする機会が増えるのであれば、あえて、トラベルチームを去り、セレクトプログラムで野球をやったほうが、より多くの打席に立ち、たぶん、ピッチャーとしての経験も積めるのではないか。
この1年半、アメリカの少年野球をどっぷりと見てきて、痛感するのは、子どもがいかに試合で成長するか、だ。アメリカでは、シーズン中は、試合数が練習日より多いんだから、当たり前だ。
子どもは、起用してもらえば起用してもらうほどに、それに応じた成長をする。
自信をつけることで、メンタル面だけでなく、技術面まで伸びる子も多い。
たとえば、リクレーションチームの昔の仲間に、1学年上のスティーブンという少年がいた。
投げるのも今ひとつ、守備をやらせばエラーばかり。
だから、息子の所属するチームでは、彼はいつも外野だった。
父親はそのたび、「なぜ息子にファーストとかショートとかをやらせてくれないんだ!」 と食ってかかり、もめにもめ、結局その父親は息子をチームから引きはがし、別のチームに入れた。
なんと2歳も年下の子どもたちが主力の、弱小チームに。
それを聞いた時は、なんとアホなことをする父親か、と思ったもんだ。
何年も一緒にやってきたチームから、息子を無理矢理引きはがし、年下の子たちと野球をやらせるなんて! と。
でも。
今年の春、久しぶりのそのチームと対戦した時、スティーブンの変わりように驚いた。
確かに弱小チームだった。
あっさりコールド負けした。
でもそのチームで、スティーブンはピッチャーをやり、キャッチャーをやり、内野を守り、ほとんど1人でアウトカウントを積み上げていた。攻守の大黒柱として、必死に弱小チームを率いる彼の姿には、ちょっと胸が熱くなった。
ずいぶん野球だって上手になっていた。
どんどん自信を失い、上手になるきっかけもつかめずにいるスティーブンを見ていて、パパはきっとつらかったんだろう。
今になって思えば、パパの選択は、もしかしたら、スティーブンにとっては、そう悪いものじゃなかったのかもしれない。
少なくとも、今になってみれば、スティーブンのパパの切なさが、ドリューのパパの切なさが、ちょっとだけ分かる気がする。
息子の場合はどうなんだろう。
どうせあと1年ちょっとで帰国する息子にしてみれば、アメリカの子どもたちのように、トラベルチームで何年プレイをしたか、なんて実績がハイスクールやカレッジの入学に有利に働いたりすることもない。
奇跡みたいに見事だったトッドコーチの練習があるならともなく、トッドコーチもいなくなってしまった今、このチームにしがみつく意味が本当にあるんだろうか。
そして何より。
息子はどっちを望むんだろう。
結局、迷った末に、夫婦して息子に親の考えを伝えた。
「この国には、色々な選択肢がある。だから、今のチームで頑張るのもいいし、セレクトチームでより活躍できる場を求めるという選択肢もある。選んでいいんだからね」 と。
息子は、何も言わなかった。
ああいう性格だから、新しいチームメートと一からやり直す、というだけで、もう十分に、嫌だろう。
おまけに、今のチームメートたちといるのは、やっぱり楽しそうなのだ。
夫がぼそっと後で言った。
「こういうの、子どもに選ばせていいのかな。このチームにいる限り、あいつはこの勝負を自分から下りることはできないよ、やっぱり。本当は、親がある程度、介入してやったほうがいいんじゃないか」
そうなのかもしれない。
誰かに相談したくて、ふと回りを見回して、ああ、と立ちすくんだ。
チームメートの親たちもまた、今や、ライバルなのだ。
去年と違う、不思議な緊張感が、最近は少しずつ流れるようになってきた。
一番、気心が知れていて、何でも相談できる相手だったショーンのパパだって、今回ばかりはちょっとしんどい。
なぜなら、息子とサードを取り合っているのが、ショーンだったりするから。
ショーンのパパが、ルーたちコーチ陣にあれこれ激しく言いつのるようになってから、実際、息子ではなくショーンがサードを守る機会がぐっと増えたのだから。
相談できる相手がいない、というか、誰に相談してよいものか。
おまけに、いざ相談するとなると、今度は、ああ、英語という言語の厚い厚い壁が……。
生活上、そう英語で苦労することはなくなってきたけれど、それでも、こういう利害関係がともない、さらに、押したり引いたりの駆け引きや微妙なニュアンスを伝えなきゃいけない場面では、自分の言葉が相手にどんな風に伝わるのか厳密に分からないということが、むちゃくちゃ怖い。
普段は、日本語でしゃべるのと同じくらいの勢いで、下手な英語でしゃべり倒しているのにねえ。
言えずに飲み込む思いに限って、飲み込むには重く暗すぎるものばかりなのだ。
スポーツのトラベルチームの世界を知る人は、「11歳なんてまだまだ。年齢が上がれば上がるほど、本当に競争が激しくなり、親も本気になり始め、親同士までライバルみたいな雰囲気になっていくのよ」 なんて言う。そんなの、息子以前に、私がとうてい、耐えられそうにない。
そんなわけで、野球母ちゃんの私は、少々息切れ中。
明日のトーナメント決勝戦が終わったら、1カ月ほど、シーズンオフだし、その間に少し頭を冷やそう。
メモリアルデーのトーナメント以来、出場した4つのトーナメントすべてで優勝し、トロフィーばかりが増えていくのに……。
ああ、それなのに。
悩ましい夏。