おぐにあやこの行った見た書いた

いよいよ一時帰国

息子が一時帰国する。
とっても緊張している。
帰国後、以前暮らしていた小学生のクラスメートのお宅に2泊ほどお世話になることになっている。仙台のじいちゃんばあちゃんと落ち合うのは3日後だ。
今回泊めてくれるお友達2人は、息子が今なお、「親友」 と呼ぶ相手だ。
アメリカではきっと、○○君や▽▽君みたいな親友はできないよ……とこの前もつぶやいていたっけ。

息子にとっては、大事な野球のチームメートでもある。
大好きな相手だから、きっと緊張するんだろうな。
「ずっと親友だよ」 と半年前に交わした約束。
そんなことを、あれこれ思い出すのだろう。

おまけに、この週末、息子にとってはビッグイベントが待ち受けている。
なんとなんと。
去年までお世話になっていた野球チームの皆さんが、うちの息子の一時帰国を聞いて機転を利かせ、なんとなんと、夏の大会に選手登録しておいてくれたらしい。
そんなもんで、日曜日には、元いた野球チームのユニフォームを着て、公式戦にも出してもらえるという。
相手がこれまた、なんというか因縁の相手。
それまで一勝もまともにできたことのなかった息子たちのチームが、息子にとっては日本最後の公式大会となった去年の秋の大会で勝ち進み、最後の最後に闘って破れた相手なんだよな。
この時はもう、息子以外のチームメートたちはわんわんと大泣きしたんだっけ。
ああ、宿命の相手との因縁の対決!
そこになぜか息子が出してもらえるという、このスゴイ運命!

そもそも、先週末に行われるはずだったこの試合が雨で流れ、息子の一時帰国と重なったのだという。あーん、運命の神様、野球の神様ってやっぱりいるんだわ。
(とかいって、息子の一時帰国の時も雨で試合が流れちゃったりして……ちゃんちゃん)。

そんなわけで、いきなり昨日、息子が、「母ちゃん、キャッチボールしよー!」と言い出すから、裏庭の芝生の上でグローブを構えたら、なんとなんと久しぶりに軟球が飛んできた。
おおお、硬球ではなく、軟球で練習かい。
みれば、硬球用グローブではなく、軟球用グローブをはめている。
その几帳面さが……君らしくて、笑えるぞ。

軟球のバウンドを忘れてないか。
チームメートがぐんぐんと上手になっていて、自分だけ置いていかれてたらどうしよう。
時差ぼけなのに、ちゃんと試合でプレイできるかな……。
エラーしたらどうしよう。
などなど。
これは勝手な母ちゃんの想像だが、息子はそうとうに緊張しているし、そしてそうとうに、楽しみにもしているんだと思う。

夜になると、「怖いよー」 と正直に口にする。
「怖いのは当たり前だよ。母ちゃんだって3年後、毎日新聞に戻る日を考えたら、今から怖いもん」 と、
正直に私も言ってみる。
口にしてみたら、想像して、もっと怖くなる。
親子して、ぶるぶるっと身震いしちゃう、変な光景。
ほんと、怖いよなあ。

「たぶん、嫌な思いもする。でもその何倍も楽しいこともあるさ。たぶん嫌なことを言う人もいるかもしれない。でもその何倍も、素敵な出会いがあるさ。日本を思い切り楽しんでおいで。でも必ず帰っておいで」

万感の思いを込めた母ちゃんの旅立ちにむけた言葉だったのだけど、「帰っておいで」 の一言に反応した息子の答はこれ。

「は? あたりまえじゃん」

へなへなへな。
そ、そうだよな……。
わくわくしながら、心配しながら、彼の帰りを待とうと思う。
(へへへ、私は行かないのだった……。少年よ、大志を抱け)。

再び野球漬け

結局、土曜日のダブルヘッダー2試合目は、アナポリスのセレクトチームと対戦。
いやはや。
9歳以下のチーム、なんだけどさ。
体の大きさがまるで違う。
日本で言えば、6年生と3年生が試合をしてるのを見てる感じだった。
強烈に強くて、素振りなんて、ブルンブルン音がなって、何でもかんでも外野までガンガン飛んでいき、完敗したのだった。

午前のチームも午後のチームも、子どもだけでなく親までそろいのTシャツや帽子をかぶっていて、もう、力の入り方が違う〜。

ここで、一つ、懺悔せねばなるまい。
実は私、とある週刊誌のエッセイで、こんなことを書きました。

 今回はアメリカの少年野球の話。米国の野球少年はとにかく積極的だ。キャッチャーの子は、盗塁と見ると必ず二塁にボールを投げる。内野手が多少下手でも、全然迷わない。だから、内野手はすぐボールを後逸するし、その間にホームを突かれることも多い。私なんかは「あっちゃー」と悲鳴を上げてしまうけど、応援席の親たちは「グッド・トライ」と拍手し、ほめまくる。日本だったら大人たちが「間に合わないから投げるな〜」などと声を張り上げていそうな場面なんだけどなあ。

 この国では、空振り三振しても「グッド・スイング!」とほめてもらえるし、無謀な盗塁でアウトになっても「グッド・ハッスル!」だ。一方、見逃し三振だけは注意される。子どもが積極的になるわけね。

 ベンチの風景も日米で全然違う。少なくとも息子のチームメートたちは、味方の攻撃中に、日本みたいにベンチ前にずらりと立ち並び、「○○のヒットが見たい〜」とか「ホームラン前のナイスカット〜」とか声をそろえて歌ったり、応援したりしない。というか「みんな一緒に」ってモンが全然ない。一打逆転の場面ではさすがに応援するが、大差がついた試合の行方なんかまるで見向きもしない。ヒマワリの種を飛ばしあって遊びほうけている。これってどうかと思うよ。日本じゃ「声で負けるな」なんて言うんだけど、こういう哲学は米国には存在しないみたい。


これ、実はあくまで、レクレーション目的の我がチームの話でありまして。
今回のオールスターのチームは、全然雰囲気が違うのだった。

とんでもない球を空振りしても、「グッド・スイング!」とは誰も言わないし。(当たり前か)。
外野からセカンドバックせず、とんでもない所に送球すれば、熱くなったコーチが怒鳴りまくるし。
こっちのオールスターチームはただの寄せ集めだったけど、相手チームはそれぞれ、節のついた歌で一斉に応援してたのだった。
味方の攻撃中は、ちゃんと立ち上がって応援してるし。
なーんだ、日本のチームと変わんないじゃん。

おまけにすごい光景を見てしまった。
ある子が一塁に出塁したはいいものの、ぼーっとしてて、牽制球でさされちゃった。
あっちゃー、でも、まあ、ああいう小さい子だとそういうのもあるわよねー。
そんな感じで見てたら、突然、その子がベンチに戻ろうとした時、一人のコーチが歩み寄り、その子のヘルメットを取り上げると投げ捨てた。
それから、バコーンと、その子の肩を突き飛ばした。
(これ、私は実は見逃した。うちの夫が全容を見てたんだけどね)。

遠くにいたから、何を言ってるかはわからなかったけれど、怒りを爆発させ、子どもをしかりとばしてるのは丸わかり。
たぶんこのコーチ、この子のお父さんなんだろう。
しっかし、試合中に、子どもを突き飛ばすか〜?

試合の後で息子に聞いた話によると、その子は泣いていたらしい。
そのコーチにもがっかりだが、「試合中なんですし、やめましょーよ」と言えないコーチ仲間や監督にもがっかりだ。
息子なんかはっきりしたもんで、「おれ、あのコーチたち、嫌い。何かあるとすぐに子どもに当たるんだよ」 という。
あらためて、偶然に太一が配属されたチームの監督やコーチの紳士ぶりを思い、「いいチームに恵まれたわ」 と感謝したのだった。

日本でもそうだったが、チーム運に関しては、息子はとても良いんだと思う。
やっぱりそう。野球の神様っているのだ。

そんなわけで、週刊誌には 「アメリカの野球はのびのびしてて、自由で、大らか」 というのは、あくまでレクリエーション目的のチームであって、トライアウトを経て選ばれたチームになると、監督もコーチも熱くなるらしい。まして、リーグ戦ではなく、トーナメントだと、負けたらお終いなので、よけいに大人は熱くなるというわけ。
日本の少年野球で、親が子ども以上に時に燃えちゃうのは、あれはトーナメント方式だからじゃないかなあ。

それはさておき。
本日日曜日。
息子はとうとう先発を外された。
力のあるホームランボーイのピッチャーを先発に回した。
何となくコーチの思いもわかった。
太一が長打を打たれて、大量失点したら、もう、このトーナメントじゃ1勝もできないのだ。
そんなわけで3−1で2点差を追う3回。息子の出番なく、2番手のピッチャーを迎えた。

この子が、崩れた。連続で四球を出し、押し出しで4失点。
ここで息子がマウンドに呼ばれた。
無死満塁のピンチ。

一人目を三振。ワンアウト。
二人目はショートに打たれ、どこもアウトにできず、さらに1点を失うが、二塁ランナーが走塁中、ボールを蹴り飛ばし、これでツーアウト。
三人目は三塁前ゴロでスリーアウトチェンジ。

昨日よりずっと球が走っていた。
もしかしたら、朝の練習が良かったのかもしれない。

「おまえの球には回転が足りない。手首を強くするしかないんだ」 と力説する夫に従い、息子は今朝、延々とある練習をしていた。
寝転んで、ボールを高く真上に挙げて、落ちてきたボールを捕球する。
それだけの作業だが、手首と指先を上手に使わないと高く真上には上がらない。
最初は数回しか続かなかったのに、この日は何度もやって、40回まで続いた。
この練習もまた、日本の野球チームの監督やコーチたちに教わった練習方法なのだ。
使ってるボールも、硬球じゃ怖いので、日本で使ってた軟球。
こんなところでも、日本から持ってきた軟球が生きているのだ。

次のイニングでは、3個のショートゴロをことごとくファーストの子がエラーして送球を取れず、結局4失点となってしまったが、まともに打たれたのは1球だけだった。
練習すれば、するだけのことがある、と息子もきっとわかったと思う。

ボロ負け4試合、という無惨なトーナメントだったが、本当に良い経験をさせてもらった。
とんでもなく強いチームがいることもわかったし、
投手以外では延々と内野に使ってもらえたから、弱かった硬球のフィールディングも随分と上達した。
初めて野球の試合で悔しくて泣く、という経験もさせてもらえた。
ああ、こうなると、秋のシーズンが楽しみ!
そして、その後に控えている5カ月間もの野球のない冬が、あまりに哀しい〜。

そんなこんなで、息子の野球漬けの1週間が終わりました。
あと数日後には、息子は日本に一時帰国です。
(私? 実は居残りなのだった)。

野球漬け

本日土曜日。
午前、午後、とダブルヘッダー。
9歳以下のオールスターのトーナメントなので、年齢的なこともあり、ピッチャーは1日2イニングしか投げられない。というわけで、午前、息子が先発し、2イニングを投げた試合から帰ってきたところ。

ああ、惨敗、惨敗。
というか、そもそも、息子の参加している街のリーグは、隣町やその隣の隣の町なんかと比べると、レベル自体がかなり低いらしく、同じオールスター同士でも、相当の力の差があったりする。
木曜日の試合に惨敗し、今回も惨敗。
しかも大量得点を取られるのはいつも息子が投げた時。
コントロールは悪くないけれど、回転がかかってないのか (いわゆる棒球?)、打たれると飛んでしまう。
内野は上手な子で固めてあるので、内野ゴロならヒット性の当たりでも結構処理してアウトにできるチームなのだが、ひとたび外野に飛ぶともう、2塁打、3塁打、となってしまう。
例えばボールがライトに飛ぶ。ランナーは1塁へ。ライトがセカンドではなくファーストにボールを返そうとして暴投、ボールが転がってるうちにランナーは2塁へ。下手すればここからさらに悪送球があって三塁へ、となることも……。
外野に飛ぶと傷がものすごく深くなり、被安打数のわりに大量得点を許してしまう、というわけ。そうこうしてるうち、今度は息子のほうがばててきて、さらに球が棒球になり……という悪循環。

今朝も試合もまあ、そんな具合だった。

いつにも増して課題の多かった試合の最後は、息子にとって、とても悔しい終わり方だった。
久々にきれいなセンター返しで出塁した息子。
二死一、三塁で迎えた最終回。
息子は一塁走者。
しかし、息子の後の打順を見れば、そこから 「ヒットを打つ可能性が限りなく小さい選手」 が5人続く。
(この日は12人メンバーがいたので。息子の打順は7番。アメリカの少年野球では、守備につくのは9人でも、打順は全員に回すのだ)。
どうしてもコーチはあと1点がほしかったのだろう。
一塁コーチがどう考えても無理な場面で息子に盗塁の指示を出し、息子がタッチアウトされ、ゲームセット……。

一塁コーチは、息子が盗塁したのにつられて捕手が二塁にうっかりボールを投げれば、その間に三塁ランナーをホームに返せると思ったんだろう。
が、いかんせん、無理なタイミングでの 「GO!」 の指示だった。

試合からの帰りの車で、息子は一言も口をきかなかった。
見ればポロポロと泣いていた。
最初、私も夫も、息子がなぜ泣くかわからなかった。

投球内容が良くなかったから?
ヒットをいっぱい打たれたから?
二死でショートゴロをさばいて二塁に投げようとしたら、二塁手がぼっとしてて塁に入るのを忘れてて、最初は必死で二塁に走ったけど、やっぱり間に合いそうになくて、一塁に投げたらギリギリでアウトになってしまったから?
コーチに何か言われた?
あるいは言われた英語がわからなかった?
チームメートに何か言われた?

いずれにせよ、始めてだったのである。
息子が、野球の試合の後で泣くなんて。

去年の夏、息子にとって日本で最後のトーナメント大会となった野球の試合に、僅差で破れた時、ほぼ全員のチームメートが号泣する中、先発完投し、日本最後の試合を終えた息子だけが、淡々としていた。
こいつは、こういう時、泣かないヤツなのか、と不思議な気分になった。
「あいつにとっての日本最後の大会だから、だから勝ちたかった」 と泣いてくれる友だちの中で、一人淡々として見える息子に、「なんというか、クールなヤツだよなあ」 と思ったものだ。

あれから1年足らず。
今日の号泣は何だったんだろう。

落ち着いた息子に聞けば、原因は、盗塁でアウトにされ、自分のアウトでゲームセットになってしまったことが悔しくてしかたなかったから、なのだった。
点差なんかもう、10点近く開いてて、とうてい逆転なんて望めない場面だったのにさ。
おまけに、コーチが無理な 「GO!」 をかけたんだから、仕方ない場面だったのにさ。

夫があとでぼそっと言った。
「あいつも、野球で泣くようになったんだなあ」
夫婦してしみじみ。
「あいつにとって、いい勉強だったよな。頑張っても頑張ってもかなわないことがあるんだ、って知ることも、悔しさを味わうことも。そうでないと、他人が悔しくて泣いてても、その気持ちなんかわからないだろうから」
夫がそういうのを聞いて、ほんと、しみじみ、そうだなあ、と思った。

おまけに、帰宅して、パソコンを開いてみれば、先日のエントリーに、息子がかつてお世話になった日本の野球チームの総監督からコメントが……。
息子が野球で初めて泣いた日に、遠い日本にいる総監督からコメントが入るなんて、なんと不思議な縁だろう。
なんという絆の深さだろう。
「遠く離れていてもキャッチボールはできますね」
うるうるしてしまう、母ちゃんなのである。

さて。
あと1時間足らずでもう一試合。
現在、息子はシャワーを浴びた後、つかぬまの熟睡中。
さて、起こしてくるか。
暑いけど、頑張るぞー。
我が家では、今や、「学校より野球」 という価値観が定着。
今日も、日本語補習校はお休みとなってしまったのでした。ちゃんちゃん。

「うちの子、ピッチャーできます」

春の野球シーズンは終わってしまったのだけれど、来週もまた、野球1色の日々が送れることになった。
というのも、7月4日の独立記念日を記念したオールスタートーナメントが行われるらしい。
この時期、本当に実力のある子は、すでにトラベルチームの一員として全然違うレベルの活動を展開してるわけで、いわゆるレクレーション目的で野球をやってる子の中から、「オールスター」 が選ばれるというわけ。

1週間前の週末に、「10歳以下」 のチームのトライアウトを受けに行った。
息子はちょうど10歳になっていたしね。
ところが集まってみたら、息子だけ頭一つ分、背が低いのだった。
ピッチングでは他の子と遜色ないのだけれど、やはりフィールディングとなると、圧倒的にうまい子が周りにいっぱいいて、選ばれるかどうかは、ちとビミョー、という感じ。
おまけに、15人くらい選ばれるものかと思っていたら、すでに半分の枠はなぜか埋まっているらしく、今回のトライアウトで選ばれるのは7〜8人、とのこと。
ギリギリセーフか、ギリギリアウトか、ってところか。

と、そんな時、その場にいた見知らぬコーチ風の男の人が声をかけてくれた。
「息子さん、誕生日はいつですか?」
息子の誕生日を告げると、なんと息子は 「9歳以下」 のくくりでも出場できるという。
野球チームの年齢の区切りは5月1日らしく、息子は実はその数日後が誕生日だったりするのだ。
その男性は、「9歳以下」 のチームの監督だかコーチらしく、「ぜひぜひ9歳以下でやってみませんか?」 という。

そんなわけで息子は昨日、 「9歳以下」 のトライアウトを受けたのだった。
集まったメンバーを見て、なんだか拍子抜け。
ほぼ息子と同じ身長。
「野球をやるぜぃ」 という気迫のようなものが、あまり感じられない。
もっと、子ども子どもしている。

よく見れば、息子のクラスメートやら、同じ学校で同じ学年の子がいる。
クラスメートのママは、学校でボランティアをしている関係で、うちの息子をすでに知ってたらしく、
「あららー、あなたが野球をやってるなんて、全然知らなかったわー!」
とびっくりしている。

こっちもびっくりだ。
息子のチームには、息子と同じ小学校の選手が3人だけいるが、どの子も息子より1学年上の4年生(新5年生) の子たちだ。もっとも息子は、年齢区分だけで考えれば、本来その子たちと同じ学年に入っていても不思議がないのだが、英語の問題もあって、一学年落として3年生 (新4年生) に転入した事情もあるのだ。

結局、同じクラスや同じ学年に野球をやっている子がうまく見つけられず、「野球を通して友だちづくり」 というようなことが全然できなかったんだけど、なんてことない、クラスメートの中に、野球をやっていた子がいたなんてねえ。
聞けば、息子のクラスメートたちは、年齢区分で一つ下になるリーグで活動していたらしい。
「うちの学校の子ばかりで作ったチームがあるのよー」 ということだった。
息子がちっとも、誰とも英語で話さないものだから、お互いにそんなことも良くわかってなかったんだそうだ。

それはそうとして、トライアウト。
まいった。
前週の 「10歳以下」 のメンバーが粒ぞろいだっただけに、「9歳以下」 のひどさには唖然。
ゴロ一つアウトを取れないような子もいれば、ボールをどこに投げて良いのかわからず、とんでもない所に送球しちゃう子もいる。
見れば息子はふてくされている。
「こんなチームじゃ、絶対に一勝もできないよ」 と。

なるほど。
子どもの1年とは、かくも大きいんだ……。
息子はわずか数日の差で、10歳のくせに 「9歳以下」 枠に収まってしまうわけで、つまりは、このチームで最年長、というわけだ。

それでも、コーチに相談したら、「9歳以下のチームでやるべきだ」 と力説された。
「10歳以下のトライアウトは枠が小さいし、息子さんはピッチングはいいけれど、フィールディングだとか全体の評価になると、絶対に受かるかわからない。それなら、間違いなくプレイできる所でしたほうがいい。その中で自信をつけていくことが大事だ」 と。
しごくごもっとも。
ということで、その日予定されていた 「10歳以下」 の2度目のトライアウトは欠席し、「9歳以下」 でプレイすることに。

息子も渋々納得した模様。
「9歳以下」 のトライアウトは、そもそも出席者が少なく、一人も落とせる状態じゃあない。
正直言って、この春に息子が戦っていた1歳上のリーグのレベルから見れば、一勝するのも難しそう……というような感じ。
どうなることやら。

おもしろいなあ、と思ったのは、コーチに保護者全員が集められて説明を受けていた時のこと。
「それぞれの子どものポジションを知りたいのですが。この中でピッチャーをやってる子はいますか?」
とコーチが尋ねた。
息子のチームメートのサムのパパが、「うちの息子は、やれます」 と答えた。
うちの夫も慌てて、「息子も投げます」 と答えた。
サムのパパが、新顔の私たちに気を遣って、「いや、ほんとに彼はいいピッチャーなんですよ」 と口添えもしてくれる。

その後はもう、すごかった。
ほぼ全員の親が、
「うちの子も投げたことがあります」
「うちの子も投げます」
「うちのもこの前の試合で投げました」

すごいじゃん。
このオールスターチーム、全員ピッチャーじゃん。

そんなわけで、試合形式の練習が始まった。
まずマウンドに立ったのは息子。
まあまあの出来。
次にマウンドに登ったのは、見知らぬ男の子。
投げるのを見て……唖然。
思わず、夫の顔を見たら、夫も、唖然としていたのだった。

なぜって、なんというか、ほとんどベースまでボールが届いてないんだもん。
コントロールがどうとか以前の問題。
もしかして、「うちの子、ピッチャーできます」 の内実ってこれ?

この国に来て、いつもおもしろいなあ、と思うのは、親が躊躇なく子どもをほめること。
謙遜、なんてこと、絶対にしないもんね。
「うちの子はビオラを弾けるのよ」 というから、「へええ。何年くらいやってるんですか?」 と聞いてみると、なんとなんと 「2カ月前から!」 なんて答が返ってくる。
それって、「弾ける」 って言う?

とにかく、この国の親たちは、「うちの子は、あれも、これも、それからあれだって、やれるのよ」 とばかりに、子どもを周囲にアピールするのがうまいのだ。
これは、子ども自慢だけでなく、自己アピールにも同じことが言えるらしい。
知人にテニスの非常に上手な日本人ママがいるんだけれど、「最近はもう、『私、テニスがうまいの。ぜひぜひお手合わせを』 とか言われても、実際に実力を見るまで絶対に信用しないことにしてるの。たいてい下手だから」 なんて言っていたっけ。

なんて、こんなことを書くと、この国の少年野球のレベルが疑われそうだから、はっきりと断っておくけれど、こういうのはレクレーション目的のチームでの話。セレクションで選ばれた子たちの世界になると、これまた全然違う風景が広がっているのだ。
この国のすごいところは、うまい子はどんどん上を目指し、その受け皿が無限にある、ということ。実力があれば、どこまでもはしごを上ってゆける。
というわけで、次回エントリーでは、トラベルチームの試合を見に行った時の話を書こうと思う。

サマーキャンプ、初挑戦

アメリカの長い長い夏休みが始まった。
うちの校区では、6月12日が学年の最終日で、8月末まで2カ月半も夏休みが続くわけ。
この国のワーキングマザーは大変だろーな。
まず考えたのは、そんなことだったりする。

日本では、夏休みになると、息子は一人で新幹線に乗って仙台の義父母宅で2週間くらい過ごしていた。
アメリカでは、一人で子どもを電車に乗せたら、その時点でたぶん 「児童虐待」 だ。

息子が東京にいるときは、学童保育に1日じゅう閉じこめられるのを息子が嫌ったこともあり、弁当片手にあちこちのお友達の家にお世話になったりしたもんだ。
勝手に朝から遊びに行き、家で弁当を食べ、また誰かと外遊びをするうちに、日が暮れて……。
そんな日々だったのだ。
送り迎えに追われるアメリカで、そんなことを思出すと、妙に不思議な感じがしてしまう。

それはそうとして。
こっちの子どもたちが夏休みをどう過ごすかというと、色々なサマーキャンプに参加するわけ。
キャンプ、と行っても、普通は日帰り。
スポーツキャンプもあれば、アドベンチャー系キャンプとか、芸術系キャンプとか色々あるんだけど、結局、息子が 「行きたい」 と行ったのはこの2つ。
野球キャンプ。
それから、恐竜キャンプ。

そんなわけで16日の週から、いよいよアメリカ初のサマーキャンプが始まった。
息子も初体験なんだろうけど、私だって初体験。
あーん、ランチって何を作ったらいいの?
毎朝、通勤ラッシュをかいくぐって送り届けるのって、すごーく面倒!
などなど、初日はもう、嵐のようでした。
その日に限って、またしても停電するし。

だめだめ、話がまた脱線してしまう。
何かというと、そう、サマーキャンプの話ね。

16日から始まったのは、地元の野球リーグの主催するサマーキャンプ。
朝9時から午後3時まで、ランチ持参で野球をする、というもの。
申し込む時、息子の超人見知りな性格を思うに、「絶対にこいつ、嫌がるだろーな」 と予想してたんだけれど、やっぱり野球だけは、やりたいのねえ。
予想に反して、「行く」 と言ったのだった。

5日間で279ドル。
決して安くない。
こっちで共稼ぎする、というのは、こういうことなんだな。
自治体主催の安いキャンプなんかもあるにしても、
1カ月、どこかのサマーキャンプに入れたら、軽く10万円は超える、というわけ。

さてさて。
初日。
息子は、主催リーグのチームのユニフォームで上から下まで固め、緊張した面持ち。
そんな息子を車に乗せ、始めてのフィールドに到着してみれば………。

へ??????
ここ、幼稚園?

小さなグローブをはめた、幼稚園児みたいに小さい子たちがウヨウヨとボールを追いかけていた。
ポカンと口を開けたまま、立ちすくむ息子。
いや、実はこういうこともあるんじゃないか、と想像してなかったわけじゃないんだけど、「9時から3時まで野球漬け」なんてキャンプ、よほど野球が好きな子しか来ないだろう、とたかをくくってたのが甘かった。
結局、その週の参加者は12人くらいなんだけれど、息子より年長の子は2〜3人。それも野球は決してうまくない。残りの10人近くは……なんというか、「野球は初めて!」 って感じの子どもたち。
送りに行ったついでに、少々見学させてもらったのだが、ボールの投げ方、とか、グローブの使い方、とか、なるほどー、アメリカでは初心者にこうやって野球を教えるのねえ、という見本を見せていただいた感じ。
息子はというと……思い切り、つまらなそうな顔をしていたのだった。

半日後、迎えに行くと、息子はすごく暗い顔で帰ってきた。

「信じられないよ。サンダル履きの子までいるんだよ」
息子はもちろん、野球のスパイクで臨んだわけで、これには仰天したのだろう。
「だいたい、ボールだって硬球じゃなく、なんか柔らかいボールなんだ」
「最後に試合をやったけど、ピッチャーなんかいなくて、コーチがすごい遅い球を投げるだけ」
「そもそも、野球だけでなく、バスケやフットボールやキックベースボールまで、やらされた」

すっかり、うんざりした表情なのだ。
だけどなあ。
実は私、お迎えの時間の30分前に現地に到着して、こっそり木陰から見てたんだけどね。
一人の小さな男の子が、息子にまとわりついてるの。
息子もまんざらでもなさそうな顔で、その子とキャッチボールをしてやってた。
普段だったら、こんな下手な相手とキャッチボールなんかさせられたら、すぐにうんざりしそうなワガママ野郎の息子なんだけど、なぜか、どんなとんでもないボールでもニコニコとちゃんと受けてやり、必ずその子の胸元にきちんとボールを返してやってる息子を見て、

へええ、いいじゃん。

と、母ちゃんは思っちゃったりしてたんである。

息子によると、その子はちょっと自由時間ができると、「Play chatch? (キャッチボールしよ!)」 とまとわりついてきたらしい。
野球を始めたばかりらしい、その小さな男の子を見て、息子の小学校1年生時代を思い出しちゃった。

かれこれ、もう、4年も前の話。
息子が初めて野球を始めたころ、当時高学年だったあこがれのお兄ちゃんがいた。
野球が上手で、当時のキャプテンで、ちょいと強面なのに、年下の子にはめっぽう優しかった。
野球チームの合宿で、息子がこっそり父親相手に投球練習をしてるのを誰より先に見つけ、自分から 「投げたい」 と言い出せない息子に、「投げてみろよ」 と声をかけてくれ、練習試合で初のマウンドに立たせてくれたのも、このお兄ちゃんだった。
だから私たち夫婦は、彼の、年下の子たちの気持ちを汲む能力というか、「社会性」 みたいなものに絶大な信頼を置いていたのだった。
「せんちゃん」 と私たちは彼を呼んでいた。

ふてくされてる息子に、私は言った。
「あんたが、昔、せんちゃんにやってもらったことを、今度は、あんたがやってあげるんだよ。母ちゃんは、野球を通して、そういうこともあんたに学んでほしいと思うんだ。確かにこのサマーキャンプじゃ、あんたの野球の練習にはならないと思う。でも、英語でお友達を作ったり、野球の好きな年下の子に優しくしたり、野球を教えてあげたり、そういうたくさんのことを、ここで学べると思うよ。あんたが、昔、せんちゃんにやってもらったことを、思い出してごらん」

まあ、基本的に冷たいうちの息子のことですから。
「せんちゃん」 みたいなことはとうていできないだろうけれど。
それでも、2日目の今日、息子はちょっと明るい顔で帰ってきた。

「母ちゃん! 今日ね」

何でも、ちょっくら実力を発揮できる場面があったらしい。
それでみんなに感心してもらえたらしい。
昨日、まとわりついてきた小さな男の子は、今日も 「キャッチボールしよ」 とやってきたらしい。
その子とキャッチボールしてみたら、昨日よりその子が上手になっていたらしい。

フィールドを立ち去ろうとしたら、あちこちから、「Bye!」と息子に声がかかった。
みんな、息子の名前を呼んでくれていた。
1日で、随分とみんなに名前を覚えてもらったらしい。

「あんたは、誰かの名前を覚えたの?」 と聞けば、
「………ぜんぜん」 という情けない息子なわけだけれど。

まあ、いいか。
1日1日、亀よりのろい歩みとはいえ、息子も、少しずつ成長しているんだ。
……とせめて、信じよう。

7打席ぶりのヒット

息子のバットがここ3試合ほど沈黙していた。
ファーボールか三振か。
3三振、なんて日もあった。
下手にスコアをつけてるから、ついつい 「7打席連続でヒットなし」 なんて数えちゃうわけだな。

ところが、昨日の試合。
息子は投手としての登板なし、の日だったが、1打席目三振のあと、2打席目にセンター返しのきれいなヒットを久しぶりに打った。

ああ、快音。

硬球を使ったパワフル野球は息子には不利かなあ、と思ったけれど、息子によると、

「バットの真芯に当たれば、ちゃんと飛ぶんだよ」 

だそうで。
それを証明してくれるようなヒットだったのでした。

野球が始まって2カ月余り。
やはり、野球シーズン初日の号泣事件が、息子にとって一つの転機になっていたことは確かなんだと思う。
あの時を境に、夜のベッドの中で 「このまま目が覚めなきゃいいのに」 なんて哀しいことを言わなくなった。英語を極端に嫌うこともなくなった。
クラスの中で唯一、息子に親しげに話しかけてくれるファイークという少年を相手に、少しずつ英語をしゃべろうとしていることも、漏れ伝わってきた。
野球チームでは、かっこつけてる分、下手な英語なんてしゃべらないぞ、とどこかで思っているらしく、英語でチームメートと会話することはないが、それでも、何人か 「好きな友達」 はできたようだ。
もちろん、今でも、ベンチの中では一人ぽつねんと、所在なげなことも多いけどね。

あれも、これも、野球のお陰、なんだと思う。
だけど、嗚呼!
もう2〜3週間で、春の野球シーズンはお終い。
夏は、暑いから、野球はしないんだって。
日本の夏のほうが、たぶん、ずっと蒸し暑いと思うんだけどね。
次のシーズンは秋。
春ほど試合数もないし、期間も短い。
それが終われば……野球のない、長い長い冬がまたやってくる。

だからついつい焦っちゃう。
ああ、どうか、野球シーズンのうちに、もっと英語がしゃべれるようになって、お友達と会話できるようになって、毎日が楽しくなって、息子の幸せそうな顔をもっともっと見られないかしら、なんて。

さて、今の季節、多くの少年野球リーグはトライアウトを行う。
よりレベルの高いチームで、これからの秋、冬、来春を通して、遠方のチームとも対戦するセレクトチームの選考会、である。
我がチームの中でも、9歳でチーム一のパワーを誇るザックと、米国東海岸空手チャンピオンのマイケルは、トライアウトを受けることが決まっている。
色々な課外活動を幅広く行うことのほうを好むこの国では、1年中、週に何日間も野球漬けの日々になることなんか望まない親も多い。だから、思ったより、セレクトチームの希望者もいないんだそうで。
ザックもマイケルもたぶん、選ばれると思う。
比較的、息子に優しくしてくれた2人が、秋からチームにいなくなると思うと、ちょっと寂しい。

実は、このトライアウトに息子も挑戦させちゃおうっか、という話も我が夫婦の中にはあった。
上を目指せば目指すほど、色々なチャンスをつかむことのできるこの国では、より競争の激しい場所を求めていくことが成功への道。だから本気で野球をやりたいヤツは、上へ、上へ、と上っていく。
一方、はなから、「お楽しみ目的の野球」 を銘打ってる地域リーグの通常チームは、週に2〜3回試合することはあっても、練習はほとんどなし、という具合。
少々物足りない、というのが本音でもあった。

もちろん、息子にはとてもそんな実力はないと思うし、選ばれない可能性のほうがずっと高いと思うのだけれど、やはり、せっかくこの国に来たのだから、本当に野球が好きで、本気で野球をやってるヤツラの存在を、息子にみせてやりたい、と思ったのだ。

そんなこんなで夫婦して思い悩み、息子の希望を聞いてみれば、
「どっちでもいーよ」
の返事。

なかなか本音を言わない彼のこの言葉を、「翻訳」 するならば、
「実力が上のチームってどんななんだろう。気になるな。見てみたいな。挑戦してみたいな。でも怖いな。オレが一番下手だったら嫌だな。トライアウトを受けて落ちたらいやだな。それに新しいチームになったら、どんなチームか分からないし。今のままのほうがちょっと安心だな。でも、セレクトチームに入れて、上手になったら、父ちゃんも母ちゃんも、土曜日の日本語補習校を休ませてくれるっていってるし、それだったら、学校は休みたいから、セレクトチームのほうがいいな。でも、受からないだろうな。怖いな……」
というような葛藤の果ての、「どっちでもいーよ」 なのである。

ところが、そんな息子をながめながらの我が夫婦の心の揺れは、今のチームの監督からの1本のメールで一気に消えちゃった。

「僕らのチームは、あなた方の息子さんをチームメートに迎え入れられて本当に幸運だったと思います。息子さんが、野球チームに入ったことで、以前より幸せそうで、友達もできた、というお話を聞いて、僕も本当にうれしいです。だって、僕らの野球で一番大事なのは、それだと思うから」

夫がぽつり。
「トライアウトはやめよう。今のあいつにとって、一番大事なのは、野球がうまくなることじゃなくて、野球を通して友達や仲間を作ることなんだから」

私も、120%同感。

そんなわけで、今年の秋、そして長い冬の後に待っている来年の春も、今の仲間と一緒にプレイすることに決定!
英語ネイティブの野球ママの会話はものすごく早くて、なかなか私にはついていけないんだけれど、こうなったら息子に負けず、私もここで友達を増やすぞ! と心に決めたりしてます。

レッドソックス戦、初体験

野球の神さまに見放され、先週末は雨で野球の試合予定が全滅。
今日の試合も微妙。週末は……またダメそう。
なんでも、この季節にここまで雨が降るのは、60年に1度のこと、らしく。
(知人がそう言ってた。情報源不明ゆえ、ホントかどうかびみょー)。

しかし。
この雨と雨の狭間に、ボルティモアまでレッドソックス戦を見に行ってきた。
とりあえず、我が家はにわかレッドソックスファンなので。
「ビール飲みながら応援するのに、応援チームが決まってないとつまんないだろ」的な夫や私のテキトーさに比べれば、息子はより熱心で真面目なレッドソックスファン。どうしてもレッドソックスの試合を生で見せてやりたかった。

どうせ夫は仕事で忙しいし、私1人で息子を連れて夜遅くのボルティモアの街から家まで車を走らせる自信もなく (ものすごく運転が下手だからね)、結局、平日デーゲーム、という珍しいスケジュールの試合のチケットをゲットした。
息子を午後、学校から早退させ、一路ボルティモアへ。

試合は最初、なかなかよかった。
レッドソックスはホームランも打つし、
ラミレスは生で見てもあのまんまだし、
レフト守備ではスーパーキャッチを見せてくれるし、
レッドソックスファンは予想に違わず熱狂的だし、
うるさいし、
よく飲むし、
……ははは。
いや、実に楽しい!

今回は内野席だったんだけど、
中盤に入って、はるか彼方の外野側のブルペンを見てた息子が突然、
「母ちゃん! あれ、岡島だっ!」

……。
なぜ、米粒ほどにしかみえないピッチャーが岡島と分かるのか?
母ちゃんにはぜんぜん、わからんぞ。

「まだ、普通のキャッチボールだから分からないかもしれないけど、もう少ししたら頭を下げ始め、あのピッチングフォームになるから、母ちゃんも見ててごらん」

はいはい、そうさせていただきます。
しかし、ほんとに不思議。
漢字はもとより、今やカタカナまで忘れ去っていくほどの記憶力の悪さを発揮してくれている君なのに、なぜ、野球選手のフォームとか背番号とかポケモンの名前とか、そういうことだけは覚えられるんだ?

でもって、確かに、その米粒ピッチャーは岡島だった。
二死満塁のタイミングでマウンドに。
親子で必死で応援したんだけどなぁ……。
なんと、満塁本塁打を打たれ、一気に逆転されちゃった。

ここのところ、息子がマウンドでバカスカ打たれるのを見ている私として、これまた妙に身につまされる思いがしちゃったりして、普段だったら、「こら〜、岡島、いいかげんにせんかーい」 とか阪神ファンの乗りで叫ぶところが、もう今回は、「つらいよなあ。つらいよなあ。うん、がんばれ。踏ん張ってくれ〜」的応援になっちゃったりして。

ヤンキースの先日の井川先発の試合なんて、テレビで見ようと思ったら放映されてなかったので諦めたわけだけど、テレビで視ていたら、これまたいたたまれなかった気がする。
(やたら打たれて失点し、あーん、全然ダメダメじゃーん、となってしまった試合だったらしいからね)

ということで、マウンドのピッチャーの心中に思いを馳せるばかりで、妙につらくなってしまった。
一方、当の息子はというと、「まったくもー。あんな場面で打たれるなよなー。それも満塁本塁打なんて。打たれたくても、普通、打たれないぞ」、とプリプリしている。

……。
君はあれをみて、いたたまれなくならないのか。
案外、本人はポカスカ打たれる経験を、ヘとも思ってないのかも。
うーん、わからん。

結局、試合は岡島の本塁打被弾の結果、逆転負けで終しまい。あーあ。
でもやっぱ、応援してるチームの試合を見に行くのはいいね。勝っても負けても、気持ちよく迷わず応援できるから。

地元ナショナルズとシカゴカブスの試合を見に行った時は、カブスの福留を応援しつつも、地元だからナショナルズを応援したり、しかし途中から、あまりのナショナルズの弱さに閉口し、カブスの応援に転向しちゃったり。
あるいは先日のヤンキースvsマリナーズ戦 (NYまで見に行ったのだ) なんか、イチローと城島と松井を応援するという、なんとも典型的な日本人型応援に終始しちゃったし。

今度はぜひ、ニューヨークでもボストンでもいいから、宿命のレッドソックスvsヤンキース戦を見たいもんだ、と親子して密かに計画中。
今シーズンは難しそうだし、来シーズンになっちゃうかなあ……。

野球の神さま

このところ、毎週2回のリズムで試合がある。
週に1試合は先発し、3イニング投げている息子。
もともと、4、5年生のリーグらしいのだけれど、息子たちのチームは4年生が主体だから、5年生主体のチームとぶつかるとやはり苦戦する。子どもの1年の差は大きいのだ。
息子の場合、チームメートより身体も一回り小さいので、余計にハンディをしょってもいる。

ここのところ、5年生主体の強いチームに当たることが多く、こうなると息子もパカパカ打たれちゃってる。この前なんか1イニングに7点とか取られちゃったし (味方のエラーも結構すごかったけど)。
昨日も、ファーボールを2個連続で出しちゃったし。
ちょっと強い相手になると、息子の球じゃ、力負けするのだろう。
本人なりに、思うところもあるらしい。

とはいえ、彼はとても運の強いヤツだと思う。
あれほど雰囲気の良いチームに偶然はいることができたのも、運の強さの一つ。
チームメートの中で、もっとも息子を好いてくれてる子が、偶然同じ学校の1年上の男の子だった、というのもラッキーだ。学校で、挨拶を交わせる相手が増えたんだもんね。

息子はそんな運の強さを、試合でも発揮する。
一打サヨナラの場面では、緊張で震えながらもヒットを打ち、サヨナラ勝ち。
1イニング7点とられて負け投手必至、という試合で、同点打となった息子の 「ヒット」 は、ただのファーストゴロ。それがなんとなんと、1塁ベースに当たり、イレギュラーしてライトまで転がったのだった。おまけに試合はその後、逆転勝ちし、「負け投手」もなし。
いや、あれはホント、野球漫画みたいな展開だったよ。

「うそだろ……。しんじられない」 って感じ。

そんなわけで最近は、息子をこう励ますことにしている。

大丈夫。あんたにはきっと、野球の神さまが付いてるんだよ。

試合中、バッターボックスで空振りしたり、マウンドで苦しんでる時にも、
「野球の神さまがついてんだから、大丈夫!」 と声をかける。
こんなの、日本だったら絶対に恥ずかしくてできないよな。
日本では、このような親は 「バカ親」 とか呼ばれるもんな。
でも、とりあえず、今は周囲に日本語が分かる人がいないから。
いいよね。

野球の神さま。
お天気予報はこれから3日連続雨だそうですが、
きょうは練習、明日あさっては試合があるのです。
雨で流れませんように!

はじめての負け試合

ほとんど野球ブログ状態になっていますが、すみません。
日曜日の雨の中、また試合がありました。
息子にとっては、アメリカでの初の負け試合。
スコアは1−10。ああ、無念。
息子自身も、悪送球があったり、二打席ノーヒットと、悔しい試合だったようです。

この日の6イニングの息子の守備は、
ショート、レフト、ファオースと、ショート、センター。
翌週火曜日に投げることが決まっていたため、ピッチャーはやりませんでした。

今回の試合は、息子の弱点がよく見えてきた感じ。
バッティングで言うと、息子は決してパワフルな方じゃないから、日本では、軟球にとにかく当てて前に飛ばす、ということを心がけていた。実際、軟球だと、下手に打ち上げなければ、結構よく弾むし、軽いので、簡単にヒットになった。おまけに小学生同士の試合だと、守備もあまり上手じゃないから、ただの内野ゴロが内野安打になる確率もけっこうあったしね。

でも硬球はそう甘くない。
まず、当てても、重いので、よほど振りが鋭くないと、飛ばない。
どうにか飛ばしても、内野にまで芝生があるので、そこでボールの勢いが止まり、簡単にアウトにされてしまう。
日本にいるころ、バッティングセンターにウン万円も注ぎこんだからね、スピードには付いていける。米国でも、軟球に近い球を使ったバッティングケージでの練習では、コーチが目を見張るほどバンバン飛ばせる。が、試合で、硬球になると、「当てに行く」バッティングになってしまう。

結局のところ、あんた、素振り100回 しかないよ。

夫婦して息子にぼそりとつぶやいた。
あとは本人にやる気があれば、やるだろうし、やる気がなければ、そこまでだ。
どうなることやら。

で、息子のさらなる課題は、フィールディング。
ピッチャーをやってる分には全然目立たないんだけど、内野を守らせても、外野を守らせても、ぱっとし
ない。
いろいろハンディーもあるしね。

・そもそも硬球に慣れてない。特にバウンド。
・芝生の上のボールを扱った経験がない。
・リード禁止などルールが少し違うため、ボール処理でまだ迷いがある。
・細かいコーチの指示が、英語のため、まったく分からない。
・とっさのチームメートの叫び声も、英語のため、分からない。

こうなったら、やっぱ、 1000本ノック しかないよ。

なーんてこれまた夫婦でつぶやくのだが。
平日に私がノックをしたところで、私ごときの球なら、息子だって平気で処理するわけで。
なかなか練習になりません。

さらにさらに。
これは日本からの課題なんだろうけれど、結局のところ、もっと球に向かってアグレッシブに向かって行かなきゃ、ダメなんだよなー。
そもそも息子の場合、

「ボールを取り合うスポーツは嫌い」

だから。
バスケも、サッカーも、ホッケーも、嫌いなんだってさ。
でもねえ。野球だって、「ボールを取り合う」 スポーツだと思うんだけどなあ、ある意味で。
実は内心、こういうタイプは陸上とか、水泳とか、個人競技のほうが向いているんじゃあないか、と思うのだけれど、本人は野球に夢中なんだから、これはもう、自分でその気があれば練習するさ、と見守るくらいしか、できないよねー、親としては。

でもって。
やっぱり、スポーツをやるにしても、突き詰めれば英語は必要なんだな、この国じゃ。
でも、これだって、息子自身が自分でその必要性を痛感して、せめて野球に使う英語だけでも話せるようになりたい、と思うしかないもんねえ。

雨の中、ずぶ濡れになりながら、親子してたくさんの課題にぶつかった、負け試合だったのでした。

あのピッチャーは誰?

息子、第三試合目。
今日は、また先発。

母ちゃんも3試合目ともなると、リラックスしたもので、野球ママ仲間と話し込んでるうちに、試合が始まっていた。ちゃんちゃん。

1人目、三振。
2人目、4球連続で四球 (おいおい……)。
3人目のピッチャーゴロを息子が2塁に送球し、ツーアウト。
4人目、三振。

まあまあの出来。
あっさりとファーボールを出したのが気になる。ボールがちょいと高めに浮いてる。

その裏、四球3つとフィルダーズチョイスなどで、息子たちのチームは2点先取。
息子は、四球。

さて、息子の2イニング目の投球は……。

がぁぁぁぁん〜〜。
いきなり先頭バッターに初球を打たれ、これがライト越え2塁打。
おまけに、次は、また4球連続であっさりファーボール。
思わず、バックネット裏から金網にしがみつく母ちゃんなのである。
次のバッターに特大のファールを打たれた時はヒヤリとしたが、最後は三振。
次のバッターへのストライクの球を、キャッチャーの子が後逸し、ここで1点返されちゃったが、その後はどうにか、三振。

さあ、ツーアウト。
あと、1人だっ!
……と思ったら、ひえええ、キャッチャーが息子にボールを返した瞬間、三塁ランナーがホームに突っ込んできたよ。
あわてて息子が手元に戻ってきたボールをもう一度キャッチャーに投げ返す。
判定は、おおお、タッチアウト。
(客観的に見たら、タイミングはセーフだったと思うけどなー)。
こういうプレーもありなのねえ。

ま、これでスリーアウトチェンジ。
助かった〜。
失点1点なら良しとしよう。

今回の試合の相手は、これまで3戦全勝のチーム。
別に守備は上手じゃないんだけど、ピッチャーがそろってる。
よりどりみどり。
大リーグそっくり。
何かというと、フォームはみーんなめちゃくちゃ。
でも、結構速い。
おまけに、妙に力強い。
身体もなぜか、息子たちのチームより全体的に大きい。
というか、太い。
肉弾戦になったら、絶対に勝てないぞ、って雰囲気。

3イニング目の息子の投球は、内野安打を一つ打たれるも、このランナーを内野手たちがはさんでアウトにしてくれ、あとの2人は三振でスリーアウト。

2−1でリードのまま、マウンドを降りたのだった。

次の息子の打席は、二死三塁で回ってきた。
一球目、見逃しストライク。
二球目、ファール。
三球目、あああ、見逃しストライク。

あほかっ。
振らなきゃ当たんねーって、何度言われたらわかるんじゃ。
母ちゃん、イライラ。
コーチの一人が近寄ってくる。

「今でなくてもいいから、後で言ってやってくれ。2ストライクの後は、よほどのボール球でなければ振れって」

だよねー。
何度も言ってるのよ。
誰より本人が分かってると思うわ、と返すと、コーチも苦笑いしてたのだった。

あとは、手に汗握るシーソーゲーム。
やっぱり、ワンサイドゲームより、こういうほうが見てても楽しい。

向こうのチームは3人目のピッチャーを繰り出してきた。
ほぉー、とため息が出ちゃうくらいきれいなフォーム。
胸張って、身体がバネみたいにしなって。
球も結構速い。
アメリカにもいるんだー、こういう、正当派フォームのピッチャー。
おまけに、サウスポーじゃん。かっこいい〜。

なーんてぼんやり見てたら、ベンチから息子が、

「母ちゃん! 来て!」

大声で呼ぶなんて珍しい。
なんだ、なんだ?

「母ちゃん、あのピッチャー、アジアンだ。コリアンかな、それとも日本人かな」

言われてみれば、アジア人ぽいかも。

息子はむちゃくちゃ真剣だ。

「母ちゃん、あの子の名前、なんて言うの?」

知るか、そんなの。
私はここでは正式なスコアラーじゃないから、相手チームのオーダー表なんか見せてもらったこともない。
「知りたかったら、あそこでスコアつけてるおじさんに、自分で聞いてきたら」
と冷たく突き放してみた。

英語を話そうとしない普段の息子ならば、絶対にここであきらめるんだけど、この時ばかりはあきらめきれなかったみたい。
そのスコアつけてるおじさんコーチのところまで行って、まずは、「身振り手振り作戦」。
スコアラー氏は、息子がスコアを見たがる素振りをみて、

「ああ、3−2。まだ勝ってるから大丈夫だよ」

だって。
だよねー。
普通、子どもがスコアラーに寄ってきたら、知りたいのはせいぜい点数とか勝敗のこと。
まさか、相手ピッチャーの名前が知りたいなんて、思いもしないもんねえ。

ということで、スゴスゴとあきらめて戻ってきた息子なのだった。

「本当に知りたいことだったら、単語並べてでも聞いてごらんよ。Who とか、pitcher とか、name とか、テキトーに並べてたら通じるよ」

さらに冷たく突き放す私。
最初、いったんあきらめるように見えた息子は、それでも、結局、もう一度、スコアラー氏に近付いて行ったのだった。
遠目に観察していると、おおお、口が開いてる。
ってことは英語を自分からしゃべってる?

ちなみに、渡米7カ月目の我が息子、いまだ、自分から誰かに英語で話しかけたことは1度もない。
誰かに英語で質問されても、たいがいは首を縦にふるか横にふるか。
だから、この前の試合で、「レフト!」 と答えたのにすら、私は感動したのだ。

息子は、見るからに落胆した顔で戻ってきた。
「あのおじさんも、名前までは知らないんだって……」
そっか、残念。
でも、あんた、英語でホントに質問したの? 何て言ったの?

「うーん。 What's pitcher's name ? かな」

定冠詞うんぬんについては何も言うまい。
むしろ、いきなり文章で聞いちゃうあたりが、いかにも完璧主義の息子らしいよね。
文章や文法なんか気にせず、単語だけ並べてしゃべくりまくるタイプだってたら、今ごろ、この国でもっと楽に生きられただろうに。
(40歳過ぎて、英単語並べるだけでしゃべくりまくってる私もどうかと思うけど……)

そうこうしていたら、スコアラー氏がやってきて、

「名前がわかったよー」 だって。
なんと、息子のただならぬ気配を察知してか、相手チームのベンチまで行って、名前を確認してきてくれたらしい。

「Y君、だって」

Y、から始まるその名前を聞いた途端、息子が、「じゃあ、日本人だっ!」 と顔を輝かせた。
マウンドに目をやれば、淡々と、驚くほど美しいフォームで投げ続けるY君がいる。
味方の守備のまずさから、何点か取られてはいるが、すごく堂々としている。
それをじっと見つめる息子の心に、生まれた感情ってどんななんだろう。

ライバル心?
それとも、仲間意識?

「あんたの打席、回ってきたらいいね」

そう、息子に声をかけたら、真剣な顔で 「回るかな? あと何打席?」 と聞いてきた。
野球をしている時、息子は普段より少し、素直になる気がする。

6回最終回を4−3のリードで迎えた。
が、我がチームの3番手ピッチャーは三振2つでツーアウトを取ってから、なんと2者連続四球の後、暴投。これで、同点にされてしまった。
わっ、と沸く相手チーム。
手に汗握る展開。
残すはあと6回の攻撃だけ。

……ってな場面で、息子はまったく試合の流れと関係ないものをじっと見つめていた。
どこかというと、相手チームのベンチだ。

「母ちゃん、Y君って、アメリカに来てまだ間がないのかも。英語、あまりしゃべれないのかも。だって、ベンチの中で、一人で座ってて、誰ともしゃべってないもん」

………。
それ、あんただって、そうじゃん。

そう思ってから気付いた。
息子の中では、Y君の投球だけでなく、彼が英語をしゃべれるのか、チームメートとうまくやれているのか、そういうこと全部がとっても気になっていたんだろう。

そんな最終回、彼がマウンドにのぼる。
息子より、背は高い。
ほんとに日本から来た子なのかな?
案外、無口なだけで、実はアメリカ生まれかもしれないし。
あ、でも、土曜日に日本語の補習校なんかに行ってたりもするのかな。
もしかしたら、息子みたいに、アメリカで、野球だけが支えだったりするのかも。
だとしたら、このマウンド、彼にとって、どんなにか、大事だろう……。

同点で迎えた最後の攻撃なのだし、一応味方の応援をしながらも、気付けば、マウンドのY君を心で応援してしまう自分がいた。
結局、息子の姿がかぶっちゃうのだ。
Y君も、初めての練習の日には、怖い怖いと、号泣したり、したんだろうか。
Y君も、アメリカへの扉を、マウンドで見つけたんだろうか?

ははは、ものすごい勝手な、一方的な、おまけにはた迷惑な、思い入れだよね。
でも、うちの選手が5本のファールで粘りに粘った時なんか、「がんばれ、こらえろ!」 と心でY君を応援してしまった。
粘られた挙げ句、四球を出してしまったのを見て、「これが一番苦しいよな。でも、気持ち、切り替えて!」 と心で祈ってしまった。

で、ふと気付けば……。
同点最終回、二死二塁という場面で、息子の打順が回ってきていたのだった。
普段は、チームメートのプレイなど見てもいない個人主義なアメリカの選手たちなんだけれど、さすがにこうも接戦となると、ベンチの子どもたちも必死だ。
ベンチの子どもたちが、次々に息子の名を呼んで応援してくれている。

……親というのは、まことに身勝手なもので。
それまで、マウンドのY君をひそかに応援していたのだけれど。
ごめんね、おばちゃんは、やっぱり人の親。
さっき見逃し三振してるうちの息子にとって、この打席はむちゃくちゃ大事なの。
おまけに、今の息子にとって、野球はただのスポーツではないの。
だからね、ここで三振するわけにはいかないの。
どうか神さま、うちの息子に打たせてやってください……。

初球、ストライク。うーん、いい、球。
二球目、ボール。
三球目、ファウル。打った球は、へぼいフライで、一塁側の応援席に落ちる。
あー、だめだ、完全に差し込まれてる。
「この子、打てないかもなあ……」
半ば、あきらめそうになる。

「気持ちで負けるな! あんたが望んだ打席でしょ。思い切り、のびのび行きなさい!」

母ちゃん、思わず、日本語で怒鳴る。
しっかし、怒鳴りながら、「のびのび行け」 は、ないよなー。

そんな第四球目。
打ったーーーーーーーっ。

ライトに高々と上がる球。
ツーアウトだから、二塁ランナーはもうスタートを切っている。
ライトが本当に上手だったら、捕られていたかも知れない微妙な球。
でも、芝生に落ちた。

一塁上でガッツポーズをする息子。
ホームインするチームメート。
ははは、こんなことって、あるんですね、神さま。
息子、生まれて初めてのサヨナラ打。
それも、こんな巡り合わせで。

息子は、実にうれしそうだった。
チームメートにもみくちゃにされ、give me five の嵐。

「久しぶりに緊張して足が震えたんだ……」
息子が後で打ち明けてきた。
そうだろうな。
母ちゃんも、久しぶりに胸がどきどきして、神さまなんか持ち出しちゃったよ。

結局、Y君には声を掛けられなかった。
試合がこんな終わり方にならなかったら、親子で声を掛けてみようと思っていたんだけど。
「いつかまた、会えればいいね。いつか、一緒にキャッチボールをできればいいね」
そんな私の言葉に、息子は、

「うーん。そんな風に仲良くなりたいような気もするし、そうでなくてもいい気がする。でも、来年はまたきっと、対戦できるよね」

言葉を交わしたことすらない、名前しかしらない相手とでも。
一瞬の出会いで、子どもって成長するんだ。
ちょっと、びっくりした。

この国で、色々な思いを抱えながら、グローブ片手にフィールドを走り回っているだろう、たくさんの野球少年たちに、どうかどうか野球の神さまがほほえんでくれますように。