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「松井の信念の陰に、『老人と海』?」という記事

こんな記事を書きました。
「松井の信念の陰に、『老人と海』?」
http://mainichi.jp/feature/news/20120531dde012040079000c.html

松井秀喜選手の記事を書いて、と言われた時点で、たぶん、私は、松井選手にそれほど興味がなかった気がします。
むしろ、ピリリと音立てて人の心に割り込んでくるような、イチロー選手の談話のほうが、優等生風の松井選手のいつものコメントより面白いと思っていたし。
松井選手を担当した記者を何人か知っているけれど、「本当に素晴らしい人だ!」と人格をほめる人ばかりで、「彼の取材は面白い!」という声は聞いたことがなかったしね。

それでまずは、彼の著書を全部読み、それから彼の父親の著書、伊集院静さんの松井選手関連の著書など、関連著書を全部読み、何時間もかけて彼が大リーグに挑戦して以来、今にいたるまでの新聞記事を読み込みました。

絶対に変だ、と思いました。
人間、あんな、大舞台で、あるいは肝心要の場面でばかり、活躍できるもんでしょうか?

大リーグに移籍し、ニューヨーク・ヤンキースの開幕戦でいきなり本塁打。
決して調子が良かったわけじゃない2009年、膝の手術を拒み、最後まで試合に出ることにこだわり続け、ワールドシリーズでおいしいところ全部持って行ってMVP。
いくら「勝負強い」っていったって、こんなの絶対に偶然であるわけない。

……とまあ、取材のスタート地点はそのあたりにあった気がします。
伊集院静さんは、来月の文藝春秋に、私とほぼ同じテーマで原稿を執筆中でした。「どうして私たちは松井選手が好きなんだろう」というタイトルで。
「私が書こうと思っていること、今日は話すし、それを先に書いてもらってもいいんだ。私も君と話している中で、原稿のヒントが見つかるかもしれないと思って、今日、取材を受けたのだから」 と前置きし、お話くださった伊集院さん。
取材が終わって、伊集院さんが、「君と話せてよかった。原稿の着地点が見えたよ」とかっこ良く立ち去ってゆく背中を見つめながら、私のほうはまだまだ取材不足で、「せ、せ、せんせ……。私はまだ、原稿の着地点、見えていません~」(落涙)。

それでも、石川県に出張に行って、松井秀喜ベースボールミュージアムに寄せられた感想文を見せていただいたり、館長でお父さんの昌雄さんにお話をうかがったり、金沢市の星稜高校の野球部グラウンドで山下智茂・名誉監督にお話をうかがったりする中で、段々と書きたいことが見えてきました。

(山下監督と2人、バックネット裏で練習試合を観戦しながら、思わず2人して並んで試合のスコアをつけつつ、野球談義に花を咲かせることができたのは、この上もない贅沢な時間でした。星稜1年のピッチャー君、いい球投げてたなあ……)。

長谷川滋利さんに国際電話でお話をうかがえたのも、本当に助かりました。

結局一番書きたかったのは、「老人と海」だったのかも知れません。
松井選手の著書「信念を貫く」の中に、「老人と海」についての記述を見つけた時、なんとなく、直感で、これは伊集院さんが手渡した本だろう、と思いました。
実は、星稜の山下監督も、父親の昌雄さんも、松井選手が帰国するたび、本を見繕って、手渡しているのです。でも、「老人と海」はきっと、伊集院さんだ、という確信がありました。

それで、取材のとき、伊集院さんに尋ねたんです。
「これを渡したのは伊集院さんですか」と。
答は予想通りだったけれども、驚いたのは、彼がそれを手渡したのが2003年だった、ということ。
実はもっと最近のことだと思ってました。
だって、2010年の著書まで、松井選手はまったくこの本について言及してなかったもんですから。

でも、1冊の本って、そういうものだと思います。
最初に読んだ時と、2度目に読んだ時で、心に刺さる部分が違う。
あるいは読み終えて何年もたってから、ああ、あの本にあったエピソード、本当にそうだよな、と実感することがある。
それが本の素晴らしさ。

松井選手は、プロ野球選手の中では珍しく、読書好き。
私は案外、松井選手が、出会った人や、出会った本や、出会った街から、どんどんと良いものを吸収していこうとする人だから、あの勝負強さ、メンタルの強さが育まれたんじゃないかな、と思うのです。

そういう意味も込めて、今回は、「老人と海」のエピソードを、きちんと書いておきたかったのでした。
ちなみに、老人と海、には、もうひとつ不思議なめぐり合わせがありました。
父親の昌雄さんに、松井選手が「老人と海」について著書で書いている話をしたら、お父さんはすっかりそんなことは忘れていたようで、驚いたように言うのです。

「それは不思議な符合です。実は私、以前、『老人と海』の英語の朗読CDを手に入れまして、いつかこれが分かるようになりたいもんだ、なんて思いながら、あれを聞きながら寝てるんですよ。英語を聴いてるとすぐ眠くなるもので」

息子が色々な思いで読んだだろうヘミングウェイの名作を、
その息子の精神的支柱だったとも言える父親が、眠り薬代わりに英語で聴いていた、という不思議。

スポーツの取材をしていると、人の出会いだとか巡りあわせだとか、不思議が偶然がたくさん見つかって、面白いなあ、とおもいます。
それはきっと、単なる偶然、と言い捨ててしまえない何かが、やっぱりそこにあるんだと思います。

記事出稿の日、松井選手のメジャー昇格の一報がアメリカから届けられました。
私はデスクに言いました。
「メジャー復帰初試合で本塁打を打ったら、若干、原稿を手直しします。松井選手って、メジャー昇格試合で今季初アーチ、とかやっちゃう人なので」
……そしたら、案の定。
もっとも、これからのシーズン、決して順風満帆ではないでしょうが。

彼の不屈の精神とひたむきさの一端を取材する機会を得られたことを、ありがたく思います。

以上。
ここまで読みに来て下さった方に、松井秀喜選手の記事のこぼれ話を、書いてみました。


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小国さん
松井選手の記事とブログ読みました。
何故か泣けました。松井選手の生き方、松井選手の生き方、お父さんの言葉。 真摯に生きるってこういう人達の事を言うんだなって。

ブログを見たきっかけは小国さんの著作、アメリカなう。を読んだからです。とっても面白かったですo(^o^)o

ご感想感謝です

ブログ、半ば放置状態でしたが、久しぶりに更新しようとして、コメントを拝見。
「アメリカなう。」、お読み下さって、感謝です。
これからもよろしくお願いいたします。
プロフィール

Author:おぐにあやこ
名前■おぐにあやこ
生年■1966年 ひのえうま
仕事■07年秋まで新聞記者。仕事を辞めて渡米。11年、新聞記者に出戻り。
趣味■読書、歌、旅
目標■ちょっと背伸びして、
 疑問符を感嘆符に変える事
苦手■勧善懲悪


著書■
▼「薬(ドラッグ)がやめられない 子どもの薬物依存と家族」(青木書店)
「ベイビーパッカーでいこう 赤ん坊とザックかついでスペインの旅」(日本評論社)
「魂の声 リストカットの少女たち」(講談社)
「いいじゃない いいんだよ 大人になりたくない君へ」(共著、講談社)
「アメリカなう。」(小学館)
「アメリカの少年野球 こんなに日本と違ってた」(径書房、ミズノスポーツライター賞)
「?が!に変わるとき  新聞記者、ワクワクする」(汐文社、読書感想画中央コンクール課題図書、高校生の部)

訳書■
「自傷からの回復 隠された傷と向き合うとき」(みすず書房)

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