12−6でLUYYAというチームに快勝した我がチームの次の相手は、Burtonsville。
これに勝てれば、ようやく、
前回敗北を喫した相手の Germantown Hawks と再び戦う権利を得られる。
さらにその試合に勝てば、いよいよ、全勝で来ている Olney Pirates との決勝戦だ。
といっても、ダブルエリミネーション方式なので、一敗している我がチームは、もしもこの決勝戦に勝てたとしても、さらに翌日、同じ相手ともう一度戦って、再び勝たない限り、優勝はない。
Burtonsville はこれまで負けたことのない相手ではあったけれど、最近、調子を確実に上げている感じで、うかうかしていると分からないぞ、という相手でもあった。
さて。この試合。
ふたを開けてみたら、息子は、打順7番サードで、先発入りしていた。
前の試合で結果が出せないまま、外されていたので、今回ばかりは先発から外されるのではないか、と予想していたので、これは、ほっとした。
今日こそ、結果を出せればいいなあ。
我がチームは1回裏の攻撃で、四球とワイルドピッチ、それに内野ゴロでまず1点先取。
こういう、ノーヒットで確実に得点していく、というのが、うちの持ち味らしい。
2回の攻撃では息子にも打順が回った。
ザックが四球を選んだ後、無死1塁。息子も結局、四球を選んでこれで無死1,2塁。
さらに次のライアンがデッドボールで無死満塁のチャンス。
相手ピッチャーの暴投でまず、ザックがホームを突いて1点を追加。
さらに、本日打順最下位のドリューがバントし、ピッチャーが1塁に送球した間に、息子がホームに滑り込み。これで3点目。
また3回の攻撃では、クリスのセンター返し、ブランドンのポテンヒット、リオの四球で一死満塁のあと、ザックも四球を選んで押し出しで4点目。
一死満塁のチャンスで、息子に打順が回ってきた。
この時は初球をたたいて、セカンドゴロ。しかしとりあえず、3塁ランナーのブランドンを返して5点目につながった。
ノーヒットだけど、打点1というわけ。
次に息子に打順が回ったのは5回。
すでに7−2で快勝ムード。
2四球と暴投で一死2、3塁の場面で、息子に回った。
ああ、なぜ、この試合、チャンスにばかり、打席が回るんだろう。
それだけに、どうしても、どうしても、打ちたい場面。
息子はフルカウントから、バットを振り抜いた。
センターに抜ける! と誰もが思ったような当たりだったんだけどな。
結局は、ショートがむちゃくちゃうまくて、どうにか打球を止め、必死で1塁へ送球。
タイミングは……アウトか、セーフか、ぎりぎりだ。
と、1塁手の前でワンバウンドした送球を、1塁手が捕れず、結局息子は2塁へ。
ランナーは、おおっと2人とも帰ったぞ。
一塁のエラー出塁、としてもいいのだけれど、ああ、ここは親心、思わず、スコアは内野安打にしちゃった。
いいよね?
ちょっとでも、自信をつけさせなきゃ、って場面だし。
最後に出てきたこの背番号15番のピッチャーは、かなりの速球派で、ザックですらサードフライ。ライアンは三振。ジョーンズイもセカンドゴロ。速球だと、ついつい考えてしまう分、右方向への平凡な内野安打に倒れることの多い息子としては、センター返しの基本に近いバッティングができたことは (センターまで抜けなかったとしても)、ちょっとした自信につながったようだった。
そんなわけで、9−5で、この試合も快勝。
いよいよ、決勝戦まであと2戦というところまで、たどりついたのだった。
が、そんな試合の勝ち負けとは全然関係のない所で、大変なことが起きていた。
試合終了後の挨拶が終わった時のことだ。
監督兼コーチのルーが、「保護者のみなさんはちょっと集まってください」 と言い出した。
どうせ、これからのプレイオフに向けて、子どもに喝を入れてくれ、とかそういう話かな、と思ったんだけど。
実は違った。
とても深刻そうな声で、ルーが、何かを説明し始めた。
子どもには聞こえないように、という配慮から、小声で、とても早口で。
「小声+早口」 の英語なんて、私には聞き取れるわけもなく。
それでも、
「トッドコーチが試合中に帰ってしまった。あとは保護者たちの判断に任せる、と言って」
みたいな部分だけが聞き取れた。
それから、ルーは、少しだけ唇をふるわせ、言いよどんだ。
DCの有名な弁護士事務所の企業弁護士で、敏腕で知られるルーが、こんなに動揺するのを、私は初めて見た。
集まっていた保護者のうちの一人のママから、
「もう十分よ。それ以上、言わなくていいわ。私たち、分かってるから」
と助け船が出て、
ルーは、ほっとした表情で、「ありがとう」 とだけ言ったのだった。
皆が深刻そうな表情で解散する中で、
たぶん、全員が事情を理解している中で、
まったく何が起こったのか分かってない私。
いったい、どうなっちゃったのよ〜????
結局、こういう時に頼りになるのは、ショーンのパパの野球バカ仲間ジョン。
「ジョン。結局いったい何があったのか、説明してよ」
と頼むと、ジョンがこれまた早口で説明してくれた。
早口だったので、こちらも実は、完璧には理解できなかったんだけれど、なんとなく、おおまかな話だけは分かった。
この試合、打順最下位で、打席に立った時に、バントを決め、息子がホームインする手助けをしてくれたドリューのパパが、トッドコーチともめた、というのだ。
「どうしてうちのドリューにバントをさせたのか」
「どうして、その後、控えのスコットに変えられてしまい、打たせてもらえなかったのか」
そういう起用方針をめぐってのことだったらしい。
それを聞いた時は、さすがにビックリした。
確かに、この試合でドリューは打順10番ライトで先発出場していたが、最初の打席でバントをした後、控えのスコットに変えられ、守備でも1、2回を守っただけで、あとはベンチに留め置かれていた。
だけど……。
それって、この前の試合の息子の状態と、まったく同じなのに。
おまけに、息子がほとんど控えで終わってしまったこの前の試合で、ドリューは打順10番のまま、守備でも攻撃でもフル出場させてもらっている。
考えようによっては、息子とドリューとスコットがほぼ平等に出してもらっている、とも言えるのに。
文句、言うかなあ、そんなことで。
ドリューは、息子と同じように、打撃不振に悩んでいた。
息子が一時、打順最下位(12番)だった時、11番にいつもいたのがドリューだ。
息子が少し打てるようになって、今は打順7番となっているけれど、いずれにしても、12人のメンバーのうち打順を10人だけで回す、となった時、フル出場できなくなる顔ぶれはもう決まっていた。
ドリュー、スコット、アズラ、そしてうちの息子。
これに時々、ライアンが加わる。
スコットやアズラは、ピッチャーとしての起用もありえるが、ドリューと息子とライアンにはそれもない。
打順を10人で回す、となった時、ドリューや息子の場合、ほとんどボールに絡むことのできない試合があるのは、これはもう、仕方ない話なのだった。
でも、ドリューのパパはそれが許せなかったんだろう。
私はちっとも気づいてなかったけれど、ドリューのパパはこのシーズン、ずっと息子の起用について不満をためていたらしい。
これは、ショーンのパパもとっくに気づいていたというし、たぶん、誰もが気づいていたんだろう。
ドリューのパパがトッドコーチに文句を言い、その文句の付け方や内容に、トッドコーチが腹を立て、「ならば、親たちで勝手にやってくれ」 と言って、試合の途中で帰ってしまったという。
そんなこと、ちっとも知らなかったのだった。
そもそも、トッドコーチは、いわゆる 「雇われコーチ」 だ。
野球の指導を生業にし、お金をもらってチームをコーチしている。
チームの監督は、ザックのパパのルーであって、でも、技術的な指導から、選手の起用まで、トッドコーチに任せる、というルールでこのチームは運営されてきた。
私自身は、息子に対するトッドコーチの指導や
プライベートレッスンでの一件もあって、トッドコーチには全幅の信頼を置いている。
息子が控えに回された時も、客観的に見て、それはもう、仕方ない、と思えるしね。
ルーははっきり言わなかったけれど。
ショーンのパパ、ジョンの分析によると、トッドコーチが 「親たちで判断してください」 と言ったからには、「ドリューのパパがコーチに頭を下げる」 とか 「監督のルーが、ドリューに、チームを辞めるように迫る」 とか、そういう展開しかありえないんじゃないか、という。
なるほど、そこまで聞いて、なぜ、ルーがあんなに動揺していたのかが分かった。
少し時間をおいて、息子にも淡々と事情を説明しておいた。
隠しても仕方ないからだ。
いずれ、子どもの間にも噂は広まるだろうしね。
ドリューのパパが、トッドコーチに文句を言った、という話をしたら、息子は一言、こう言った。
「だったら、レクレーション目的のチームに行けばいいんだ。ここはトラベルチームなんだから、実力主義なのは仕方ないよ」
その実力主義のせいで、最近は、控えに回ることも多くなってきた息子から、そんな一言が出るとは、正直なところ、思っていなかった。
結局、チーム内の競争や実力主義の厳しさや、それの持つ意味を、息子が一番身に染みて分かっているってことなんだろう。
明日も試合がある。
ドリューは来るだろうか。
トッドコーチは来てくれるのだろうか。
ルーは、トッドコーチやドリューのパパを相手に、今頃、どんな交渉や説得をしているんだろう。
明日はいよいよ、プレイオフ初戦で負けた相手、Germantown との対決だ。
これに負けたら、もう後はない。
実力はたぶん、五分五分。
そんな大事な試合の前日に、チームは思わぬ難局にぶつかってしまったみたいだ。